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入港時の出来事

 ガレー船の甲板から、オクトハーブ自由市の街並みを望めるようになると、

「ほお、あれがオクトハーブ自由市。男爵様が町を治め、それでいて自由市ですか」

「やれやれ、ようやく着いたのかい。中年に長い船旅は辛いわい」

 サイラスやジギスムントなど、パーティーのメンバーもぞろぞろと甲板に集まってきた。バーンたちを乗せたガレー船は、オクトハーブ自由市の港に向けて、水上をゆっくりと進んでいる。

「名物のウルトラ・ジャイアントケルプは見えませんね。でも、それもそうか」

 サイラスは、湖面を眺めて言った。ちなみに、ウルトラ・ジャイアントケルプとは、ジャイアントケルプがファンタジー的に巨大化したもので(しかも淡水産)、オクトハーブ湖西部(港とは反対側)の一部地域に群生し(その地では湖面を埋め尽くすと言われている)、オクトハーブ自由市の特産品として知られていた。

「それで…… あれがオクトハーブ自由市の神殿ですか。おお、実に壮麗!」

「えっ、何? 神殿!? ああ、あれ、そうだね、きっとそうだ!!!」

 サイラスが顔を上げ驚嘆すると、エディも同調した。

 湖畔には、一見して神殿と分かる(間違えようのない)ような、白い大理石の柱が群青色の屋根を支える巨大建築物がそびえていた。神殿は湖に面して建てられており、神殿から湖に向けて、細い(人が二人並んで通れる程度の)通路が突き出している。そして、その通路の先には、祭壇であろう、大理石の台が設けられている。

「さあ、みんな、下船の準備だ!」

バーンが元気な声を上げた、その時、


 ……ブヒヒィーー…… ……ブヒヒィーー…… ……ブヒヒィーー……

 けたたましい豚のなき声が甲板に響き渡った。

バーンたち一行が「何事か」と、その声のする方向を見ると、数人の水夫がそれぞれ左手に1匹の子豚を抱え、右手に短刀を持ち、甲板に上がってきていた。

 水夫たちは、船べりに横一列で並び、

「運河と湖の神よ、我々の心付けを捧げます! どうか、航行の安全を!!」

 と、湖に向けて大声で叫んだ。そして、右手の短刀を高々と持ち上げると、おもむろに、左手に抱えた豚の喉元を掻き切っていく。この哀れな数匹の子豚は、最後には、「ブヒィ、ブヒィ」と断末魔を上げながら、次々と湖の水の中に投げ捨てられていった。

「こ、これは……」

 突然のことにバーンは驚き、大きく目を見開いた。

 一方、水夫たちは、(いつものルーチンワークだったのだろう)何事もなかったかのように、入港・着岸の準備を始めようとしている。ところが……

「ちょっと、ちょっと待ったぁ!」

 いきなり、バーンが猛烈な勢いをもって、水夫に食ってかかった。

「豚を殺す! それ自体は、トンカツを食べるために必要だ。しかし、今のはなんだ。突然、何の脈絡もなく豚を殺して捨てるなんて、どういうことか、説明しろ!」

「は、はい???」

 水夫たちは面食らい、お互い顔を見合わせた。

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