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不倫の果て  作者: 遠藤良二
20/24

彼女のいたずら

 私は相澤先輩から『別れ』を告げられるような予感がしたので、午前中、周りの従業員の隙をみて、店の外へ出た。


そして、ある人物に電話をかけた。


何度目かの呼び出し音が鳴り、相手につながった。


「もしもし?」

「私、あんたの夫の知り合いの者だけど、旦那さんは浮気してるよ。誰だと思いますか?」

「は!?誰ですか?あなた!!」

「その浮気相手は野澤愛という女。直接、旦那に確認した方がいいですよ」


私はそこで電話を切り、すぐに電源をオフにした。


電話の相手は、相澤先輩の妻、相澤美紀だった。


どうして奥さんの電話番号を知っているかというと、私と相澤先輩がお昼休みの時間、一緒にいる時、彼のスマホをいじって電話帳を開き、奥さんの番号を盗み見して、私は自分のスマホに登録した。

ちなみにその時、彼は眠っていた。


どうしてこんなことをしたかというと、何か不都合なことがあった場合、奥さんに言いつけるつもりでいた。





 それからすぐに店内にもどって相澤先輩の様子をうかがった。


事務所で一生懸命、業務をこなしている彼のすがたがみえた。


それを見て私は、すこしやりすぎたかな、と奥さんにあんなことを告げたことをちょっぴり後悔した。


でも、もう言ってしまったあとだから、あとのまつり。


そして、彼の奥さんも突然あんなことを言われて、さぞやご立腹でいるだろう。






 それから、お昼休憩の時間になり、私は言われたとおり相澤先輩の車に向かった。


すでに彼は車に乗っていて、だれかと電話でしゃべっているよう。


もしかして、電話の相手は……。


私は車のドアを開け、

「おつかれさまです」

と、言って笑みを浮かべた。


相澤先輩はおどろいた顔つきでこちらをみた。


そして、


「おい!おまえ!!僕の妻になにを言った!?」

いつもとは違う、攻撃的なたいどでそう言われたので、おどろきのあまりビクッとなった。


彼は奥さんに対して「すまん、わるかった!」となんども言っているのが聞こえる。


そのやり取りが、すごく情けなく聞こえ、私は思わず、

「はー…、めんどくさい…」

と、つぶやいた。


今のことばが聞こえたのか、スマホを片手にこちらをにらんでいる。


そして、休憩時間が終わる十分前まで彼はあやまりつづけていた。


「かえったらまた、はなそう…。」

と言い、電話をなかば無理矢理きったようだった。


ゆっくりと私のほうを向き、

「君ってやつは……」

そう言いながら、なにかをあきらめたようにうなだれてしまった。


「結局は…結局はすべて、僕がわるいのか…。そうか…。わかったよ…」


と独りごとを言いだした。


私が見るかぎり、彼はすごく悔しそうだった。


「君とはなすのは、またこんどだ。仕事だ、行くぞ!」


と気持ちをいれかえたのか、表情はキリッとしたものに変わっていた。

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