彼女のいたずら
私は相澤先輩から『別れ』を告げられるような予感がしたので、午前中、周りの従業員の隙をみて、店の外へ出た。
そして、ある人物に電話をかけた。
何度目かの呼び出し音が鳴り、相手につながった。
「もしもし?」
「私、あんたの夫の知り合いの者だけど、旦那さんは浮気してるよ。誰だと思いますか?」
「は!?誰ですか?あなた!!」
「その浮気相手は野澤愛という女。直接、旦那に確認した方がいいですよ」
私はそこで電話を切り、すぐに電源をオフにした。
電話の相手は、相澤先輩の妻、相澤美紀だった。
どうして奥さんの電話番号を知っているかというと、私と相澤先輩がお昼休みの時間、一緒にいる時、彼のスマホをいじって電話帳を開き、奥さんの番号を盗み見して、私は自分のスマホに登録した。
ちなみにその時、彼は眠っていた。
どうしてこんなことをしたかというと、何か不都合なことがあった場合、奥さんに言いつけるつもりでいた。
それからすぐに店内にもどって相澤先輩の様子をうかがった。
事務所で一生懸命、業務をこなしている彼のすがたがみえた。
それを見て私は、すこしやりすぎたかな、と奥さんにあんなことを告げたことをちょっぴり後悔した。
でも、もう言ってしまったあとだから、あとのまつり。
そして、彼の奥さんも突然あんなことを言われて、さぞやご立腹でいるだろう。
それから、お昼休憩の時間になり、私は言われたとおり相澤先輩の車に向かった。
すでに彼は車に乗っていて、だれかと電話でしゃべっているよう。
もしかして、電話の相手は……。
私は車のドアを開け、
「おつかれさまです」
と、言って笑みを浮かべた。
相澤先輩はおどろいた顔つきでこちらをみた。
そして、
「おい!おまえ!!僕の妻になにを言った!?」
いつもとは違う、攻撃的なたいどでそう言われたので、おどろきのあまりビクッとなった。
彼は奥さんに対して「すまん、わるかった!」となんども言っているのが聞こえる。
そのやり取りが、すごく情けなく聞こえ、私は思わず、
「はー…、めんどくさい…」
と、つぶやいた。
今のことばが聞こえたのか、スマホを片手にこちらをにらんでいる。
そして、休憩時間が終わる十分前まで彼はあやまりつづけていた。
「かえったらまた、はなそう…。」
と言い、電話をなかば無理矢理きったようだった。
ゆっくりと私のほうを向き、
「君ってやつは……」
そう言いながら、なにかをあきらめたようにうなだれてしまった。
「結局は…結局はすべて、僕がわるいのか…。そうか…。わかったよ…」
と独りごとを言いだした。
私が見るかぎり、彼はすごく悔しそうだった。
「君とはなすのは、またこんどだ。仕事だ、行くぞ!」
と気持ちをいれかえたのか、表情はキリッとしたものに変わっていた。




