魔の胎動と獣人の少女
注意:この話では、残酷な描写があります。耐性の無いかたは、読まないことをお薦めします。なお、次話のストーリーを読む事にはほとんど影響ありませんのでご安心ください。
また、残酷な描写は前半部分のみになっていますので、後半を読む事に関しては問題ありません。
8月13日 本文中に追加の記述をしました。ストーリー全体としては、変更はありません。
慎吾達がバラディスに、正体がばれたのと同じ頃ーー
「ったく、かったりぃな」
「んなこと言わずに、さっさと依頼を終わらせるぞ」
ビランツァの町から北へ二日ほど行った森のなか、二人組の冒険者が暗闇の中を歩いていた。
どちらも男で、一人は弓をもう一人は長剣を持っている。
それなりの価値のありそうなそれらは、二人が実力のある冒険者だということを示している。
「分かってるよ。・・・それにしても、この森ってこんなに暗かったか?」
「空が雲っているんだろう。早く終わらせねぇと、降って来るかも知れねぇぞ」
軽口をたたきながらも、二人が油断している様子はない。
十分に警戒しながら、慎重に森の中へと進んでいく。
「ほんとに、なんでこんな森に俺達が来ねぇといけねぇんだよ」
「まあ、この程度の依頼であの報酬は旨いがな」
この森の魔物は、ほとんどが男達にとっては雑魚同然だ。
しかし、男達が受けた依頼の報酬額は普段受けている依頼の倍以上のものであった。
「これが終わりゃあ、半月は遊んで暮らせるぜ!」
「ああ」
良い依頼をつかんだ。そう二人は思って、喜色に口を歪ませる。
と、その時ーー
ガザッ
「ん?」
「た、助けてくれ!」
二人の横の薮から、数人の俺達が飛び出してきた。
全員が革製の装備で、見るからに初心者の集団である。
「お、おい!どうした。何があった!!」
男の一人が先頭にいた男の肩を掴み、振り向かせる。
「ま、魔物の大群が、押し寄せて来てる!」
「魔物の大群?この森には、ゴブリン程度しかいないはずだぞ?」
「と、とんでもねぇ。ゴブリンなんてもんじゃねえ!オーガやオークまで居やがった‼それに、その後ろからーー」
ガシュ
「!?」
狂ったかのように叫び続ける男だが、突然、その声が止まる。
何事かと男を見ると、その後頭部に鉄製の矢が突き刺さっていた。
確認するまでもなく、即死。
「チッ、どこからだ?」
「お、おい!あれを見ろ‼」
ガザッガザガザッ
相方の声と周りの木の擦れる音に、男は改めて周りを見渡す。
「な、なんだよ、これは!?」
そこには、無数の赤い光が浮いていた。
無論、それら全てが魔物の目である。
「・・・何匹居ると思う?」
「・・・さあな、数えるのも面倒だ」
その数を見て、二人は逆に冷静さを取り戻した。
「おい、お前ら!さっさとここから逃げて、町に助けを求めに行け!」
「わ、分かった!」
自分達の武器を抜きながら背中越しに後方へ叫ぶと、先程逃げていた男達の声がする。
その声を聞いて、二人は改めて魔物に向き直る。
「さてと・・・。ここから先には、通さねぇぞ」
「ああ、そうだ」
そう言って、二人は魔物の群れへと突撃した。
ーー数十分後
森の中に二人の人間と多数の魔物の死体があった。
人間の持っていた剣と弓は折れ、着ていた鎧はあちこちが凹んで魔物と自らの血で赤く染まっている。
そこに、一つの影が降りてきた。
ローブを着ているのか全体の体格は見てとれないが、身長はかなりの高さだ。
闇に紛れて見えにくいその姿には、幾分か哀しみが見え隠れしていた。
「・・・」
「ーー自分の産み出した魔物たちがどう動くか、確かめに来たのか?」
その影の横に、もうひとつ影が並ぶ。
最初の影よりもかなり身長が低いその影は、しかしながら大きな存在感を纏っていた。
「いえ、実験は成功ですよ」
新たに現れた影の言葉に、最初の影は短く返す。
「魔王では、この世界を絶望で包めなかった」
「ええ、そうですね。勇者に封印されてしまいましたから」
「しかし、我等ならばそれができる」
「ですが、新たに召喚された勇者が居ます」
「そうだ。だが、万全ではない」
「ええ。つい最近、召喚されたと聞いています」
「芽は、若いうちに摘むのが吉だ」
押し問答のような会話をしながら、二つの影は目線を南ーーすなわちビランツァの町へと向ける。
そんな影の後ろに、一際大きな影が現れる。
周りの木々よりも高く、そして比べ物にならない程の存在感を纏っていた。
「・・・それで、本当にコイツを使っても良いんですね?」
「ああ、問題ない」
そんな会話をして、二つの影は再び夜の森へと消えていった。
残された巨大な影は、そそまま木を薙ぎ倒しながら直進する。
その時、辺りに声が響いた。
ーーこの世界に、闇の再来と魔神の顕現を。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「まさか、ここまで早くバレるとはな・・・」
「やはり、あそこであの魔法は使うべきではなかったな」
バラディスに正体がバレた日、慎吾とエレイナの二人は町の中を歩き回っていた。
今日は討伐依頼を受ける予定であったが、バラディスとの話が長くて断念した。
これから召喚場に戻って、ティルキアに相談するつもりである。
「ティル、絶対に怒るだろうな・・・」
「しかし、この世界の魔法を全て知り尽くしているとは。さすがはギルド長、と言ったところか?」
慎吾が肩を落としエレイナがバラディスの称賛を口にしながら、ギルドからの帰り道を歩いていたときーー
「キャァァァッッ」
「ん?」
突然、二人の耳に悲鳴が飛び込んで来た。
それは、二人の歩いている道から外れた裏路地から聞こえている。
「悲鳴か・・・。どうする?」
「どうするもなにも、聞いちまったら行くしかねぇだろ」
エレイナからの言葉に、慎吾は頭を掻きながら答える。
エレイナも慎吾も完全に善人を気取ると言う訳ではないのだが、悲鳴を聞いてまでそれを無視するほど腐ってもいない。
二人は、裏路地へと入って行った。
その間も、弱々しいながら断続的に悲鳴は聞こえてくる。
声を頼りに入り組んだ道を進むと、そこに四人の人影があった。
「獣人族のくせして、純人種に逆らうんじゃねぇよ!この、『耳つき』が!」
よく見ると、四人ではなくその手に小さな人影が捕まれている。
その人影の頭には普通の人間には無い物、つまり獣の耳が付いている。同じく、着ている服の間からはフワフワとした尻尾が伸びていた。
「い、痛いよ!離して!」
「うるせえ!てめぇが、ぶつかって来たのが悪いんだろぅが!」
掴まれているのは、声や服装的に獣人の少女のようだ。
どうやら、歩いていた人間にぶつかった、もしくはぶつかられたのだろう。
「当たって来たのは、そっちじゃんか!」
「獣が口答えしてんじゃねぇ!」
小さな人影が投げ飛ばされ、再び四人が群がる。
(ヒューマニアズム・・・か)
物陰に隠れて様子をうかがいながら、慎吾は苦々しげな顔をする。
ヒューマニアズム。
ミールヘイムの南方に広がる思想で、『純人種優越思想』ともいう。
その名前の通り、人間種の中で純人種が最も優れているという思想だ。
慎吾が文献で読んだ内容によれば、とある王が初めて言ったらしい。
その王が言ったのは『身体的能力の優れる他の人間種に対して純人種は精神的能力が優れる』といったものらしいが、人々に浸透するにつれ『純人種は全てにおいて他の人間種より優れる』といった内容にねじ曲げられた。
その間違った内容の思想は王が亡くなっても消えず、その思想を持つ者達は他の人間種を見下している。
中にはこの四人のように他の人間種を虐げ、奴隷のような扱いをする者までいるという。
そうこうしている内に、抵抗していた小さな人影の動きが弱々しくなる。
「・・・ヤバイな、このままじゃ死んじまう。助けに行くぞ」
「ああ、分かった」
町の中で暴力はご法度なので巡回兵の来るのを待っていたが、ここはルートの外らしい。
やむなく、二人は物陰から出ていく。
「おい、そこまでにしてやれ」
「あん?」
慎吾が声をかけると、四人のうちの一人がそちらに目を向ける。
見るからに柄の悪そうな輩で、ニヤニヤと嫌な笑いを顔に張り付けている。
「もう、良いだろ。それ以上やると、ソイツが死んじまうぞ」
「なんだ?お前ら、コイツを助けようとしてるのか?」
慎吾の言葉に、その男はニヤニヤと笑いながら聞いてくる。
「だとしたら、なんだ?」
「お前、純人種だろ?優等種である俺達が、劣等種のコイツをなんで助ける?」
嫌な笑いを張り付けたまま話す男を、慎吾は鼻で笑う。
「こんな最低な事をするお前らより、ソイツの方がよっぽど優れてるぜ」
「なっ・・・」
慎吾の言葉に、男は肩を震わせる。
「俺達は優れたる純人種だ!コイツは俺達のオモチャなんだよ!」
「オモチャ・・・だと?」
怒りに任せて叫ぶ男に、慎吾は眉を寄せる。
それに気を良くしたのか、男が続ける。
「ああ、そうだ。コイツは、俺達が死ぬまで遊んでやるんだ!優れた純人種のオモチャにされるんだ、感謝してほしいくらいだ!」
「貴様!ずっと聞いていれば!」
男の物言いに激昂するエレイナを、慎吾は腕を掴んで止める。
「慎吾!なぜ、止める!」
「まて、エレイナ」
「しかしーー」
慎吾に止められたエレイナは、怒りそのままに慎吾の方を振り向く。
そこで、エレイナは言葉を止めた。
エレイナは忘れていたが慎吾がエレイナをあだ名ではなく名前で呼ぶのは、ほとんど無い。
それはエレイナが窮地に至ったときかーー
「コイツらは、俺がやる」
エレイナが振り向いて見たのは、怒りに彩られた慎吾の顔であった。
海香「…ねぇ、私達はいつでるの?」
エレイナ「この話で出る予定だったらしいが…」
慎吾「ストーリーを変更したらしいな」
勝間「慎吾達が主人公だし、仕方ないよ」
海「もしかして、このまま私達の出る幕無し!?」
慎・エ「いや、多分それはない。」
上でエレイナさんも言ってましたが、勝間くん達がこの話で出る予定だったんですが少々ストーリーを変えまして勝間くん達の再登場は次話になりそうです。
さて、なにやら新たな登場人物の予感があります。そして、大きな戦闘の予感も。
次話は、新たな登場人物の方をちょっとした戦闘付きで。
では、また次話でお会いしましょう。