獣人ミーリャと悲劇の前夜
8月13日 本文中に追加の記述をしました。ストーリー全体としては、変更はありません。
男達に獣人の少女が痛め付けられている時、慎吾は飛び出そうとする自分の体を必死に押さえていた。
慎吾の中で少女の影に重なるのは、リーンヘイムでの初めての友人の姿であった。
目の前の少女と同じく獣人であった友は周りから蔑みの目で見下され、最後には自らの言葉を嘘と断じた人々のために魔物達と闘ってその命を散らした。
慎吾は、落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせる。
今出ていっても、やれることは何も無い・・・と。
実際、慎吾が出ていっても、何もできなかったであろう。
冒険者は別にしても、一般人には獣人の事を良く思わない者も多い。
そんなところで少女を力任せに助けても、真実をねじ曲げられて要らぬ罪を着せられるだけだ。
しかし瀕死になった少女に対する男達の嫌な笑いと少女をオモチャと言った言葉を聞いて、慎吾の理性は怒りを抑える事を放棄した。
激昂するエレイナを押さえ、自分の様子に驚く彼女の前に出た慎吾は男達を睨む。
「さっさとその子を離して、この場から失せろ」
自分の口から出た声がいつもより低い事にも気付かず、慎吾は怒りに任せて言葉を発する。
「さもないとーー潰すぞ」
その言葉を合図に、慎吾の体から膨大な魔力とプレッシャーが放出される。
それを真正面から受けた男達は、顔を真っ青にする。
それも、そうだろう。
その気になればドラゴンすら足を止めるような、慎吾のプレッシャーである。
抑えたとはいえ、常人ならば気絶してもおかしくないほどだ。
「は、ははは。オモチャを痛め付けて、なにが悪い。それに、こっちは四人だ。お前一人で何がーー」
それでもなお、先程からこちらを向いて話していた男が気丈にも言葉を紡ぐがーー
バコッ
「ガハッ」
一瞬にして男の懐に入り込んだ慎吾が、その無防備は腹を殴り付ける。
「ゴホッゴホッ。き、貴様、な、何を・・・」
「お前達の話は聞いてない。さっさと失せろ」
体を折りながら咳き込む男に、慎吾は冷ややかな目を向ける。
「ふざ・・・けるな!お、おい、お前ら!ボーッとしてねぇで、コイツをぶっ飛ばせ!」
「お、おう!」
男の声に、他の男達も慎吾を取り囲み懐から刃物を抜く。
「死にやがれ!」
そう言って慎吾を襲うが、結果は先程の男と同じである。
早々に地面に這いつくばる男達を尻目に、慎吾は少女を抱き抱える。
「その様子じゃ追ってこれねぇだろうが、今度俺の前で他人をオモチャ扱いしたら容赦はしねぇぞ」
そう言って、慎吾はエレイナを連れてそこから離れた。
ーーそれから数十分後
慎吾とエレイナは、再び冒険者ギルドに戻っていた。
用件はもちろん、少女の怪我を治してもらうためだ。
途中でエレイナが回復魔法を使ったが、大怪我なのは変わりない。
元々二人とも根っからの戦士のため、回復魔法は得意ではないのだ。
特に慎吾は、その手の魔法を一切使うことができない。
全身傷だらけの少女を運び入れた時、受付は大慌てだった。
少女を急いで医務室に連れていき、専属医を呼ぶ。
慎吾とエレイナはその後、少女がこうなった経緯を話していた。
「ーーと言うわけだ」
「そうですか・・・」
慎吾の話に、聞いていた職員の顔が曇る。
職員は基本的に、獣人に対して肯定的である。
戦力等の事もあるが、基本的には人間種はそれほど大きくは変わらないと思っているからだ。
それゆえに、ヒューマニアズムに対して思うところがあるのだ。
その時、部屋のドアが開いた。
中に入って来たのは、このギルドのギルド長のバラディスであった。
「おい、シンゴ。お前が連れてきた獣人の嬢ちゃん、目ぇ覚ましたぞ」
「ほんとか?」
バラディスの言葉に、慎吾達は急いで医務室に向かう。
そこにあるベッドには、慎吾の連れてきた獣人の少女が座っていた。
「・・・誰?」
「お前さんを、助けてくれた奴だ。瀕死のお前さんを、ここまで連れてきた」
警戒する少女に、バラディスが説明する。
少女と同じように純人種ではないバラディスが言ったのが効いたのか、少女から少し肩の力が抜けた。
その間、慎吾は少女を観察していた。
年齢は15歳くらいだろうか、茶色の髪と同色の耳や大きな尻尾が特徴的な美少女である。
しかし、こちらを見てくる青色の瞳は絶望と疑いの色に染まっていた。
慎吾は少女の前に膝をつき、目の高さを合わせる。
「俺の名前は、シンゴ・ツルギだ。こっちは、エレイナ・ティアラール。君の名前は?」
「ミ・・・ミーリャ。ミーリャ・スカイハール」
なるべく相手を刺激しないように話しかけた慎吾に、少女はゆっくりと返した。
「ミーリャか、良い名前だ。ご両親は?」
「分かんない。人間達にどこかに連れてかれた」
「そうか・・・」
慎吾は少し考え、俯くミーリャの頭に手を乗せる。
「ミーリャは、一人で両親を探してあちこち行ってるのか?」
「うん・・・」
慎吾の質問に顔を伏せながら返すミーリャに、慎吾は一つの決心をした。
「じゃあ、俺達と一緒に暮らさないか?」
「え?」
慎吾の提案に、ミーリャが勢いよく顔をあげる。
「今はここの近くの家に住んでるが、近々俺達は旅に出る。両親を探したいなら、一緒に行かないか?」
「・・・一緒に?」
「ああ、そうだ。俺達と同じものを食べて、同じものを見るんだ」
混乱気味のミーリャに、ゆっくりと慎吾は説明していく。
「なんで、そこまでするの?」
「何となく、君を助けてやりたいと思ったからだ」
「私、獣人だよ?」
「そんなこと、関係ない。俺達は、君を虐めてた連中とは違う」
俺達は、君を虐めない。俺達は、君を助けたい。
きっぱりとその事を断言する慎吾に、ミーリャの目が僅かに潤んだ。
「もう、怖い思いしなくても…済む?」
「ああ」
「もう、我慢しなくても・・・良いの?」
「ああ」
「一緒に・・・居ても・・・良いの?」
「ああ、もちろんだ」
ミーリャを安心させるように言葉を重ねていくと、次第にミーリャの顔が歪む。
「う・・・うぁぁぁぁ」
「うおっと」
ミーリャが泣きながら、慎吾に飛び込む。
急なことに驚きながらも、慎吾はそれを優しく抱いてやった。
「一人で辛かったな。もう、大丈夫だ」
「うん・・・」
ミーリャをベッドに戻し、再び慎吾は目の高さを合わせる。
「俺達と一緒に、来るか?」
「うん!」
その顔は先程までとは違って、子供らしい満面の笑みに染まっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「・・・で、旅に出るまでの間、その子もここに泊めて欲しい・・・と」
「ああ。頼めるか?」
ミーリャが慎吾達と一緒に生活することが決まった日の夜、慎吾の話を聞きながらティルキアは頭が痛くなるような思いでいた。
場所は今まで通り、ティルキアの執務室である。
ちなみに、ミーリャは無事回復して、一緒に屋敷に来ている。
ほぼ瀕死の状態であったのにもう歩くこともできるのは獣人の回復力の高さ故か、はたまたギルドの専属医の腕が良かったのか。
「・・・ここは児童養護施設ではないですし、あなた達が行くのは観光旅行ではないのですが?」
額に手を当てながら、ティルキアは二人を睨む。
「屋敷に泊めるのは悪いとは思うが、連れていくのは問題無いと思うぞ?」
「そうだな。あの子も鍛えればかなりの実力になりそうだし、最悪は私達で守れば問題無い」
そんなティルキアに、二人は事も無げに返した。
「守ればって・・・まあ、あなた達なら楽にできそうですね」
「ああ。そういうことだ」
気軽に言い切る慎吾達に、ティルキアは大きくため息をつく。
事実、二人の実力があれば少女一人を守ることなど造作もないだろう。
それに、二人の旅の同行者についてティルキアがどうこう言える立場でもない。
「・・・分かりました。あなた達の部屋の近くに、部屋を用意させます」
「助かる」
そう言ったティルキアに、慎吾は頭を下げる。
「そう思うなら、きっちりとあの子を両親の所に届けてあげてください」
「もちろんだ」
真剣な表情で言うティルキアに、二人もしっかりと頷く。
「・・・で?確か、用件は2つのはずでしたよね?」
「あ、ああ。その事なんだが・・・」
憔悴しきった声で話題を先に進めるティルキアに、これから言うことを思って慎吾が目を背ける。
「ん?どうしました?」
「いや、実は・・・」
そう言って、慎吾は自分達がバラディスに正体がばれた事を報告した。
その時ティルキアが発した叫びは、屋敷中の全ての人が聞いたという。
ーーそれから数分後。
慎吾とエレイナは、屋敷の食堂へ向かう。
ティルキアは今後の事などで忙しいので、食事は執務室で食べるらしい。
「・・・なにやってんだ?お前ら」
「あ、慎吾」
食堂の扉を開けて中に入った慎吾が見たのは、なぜか机の近くに立っている勝間の姿だった。
「ほら、あれ」
「ん?ああ・・・」
勝間に促されて食堂の奥を見た慎吾は、勝間の態度に納得する。
なぜならーー
「フワフワ~モフモフ~フサフサ~」
「う~シンゴ~なに、この人~」
半分涙目になっているミーリャを抱えて、妙にホクホクした顔になっている海香がいたからだ。
「もう、二十分はあんな感じだよ・・・」
「あいつ、ぬいぐるみみたいなの好きだからな・・・」
苦笑いを浮かべる勝間に、慎吾は頭をかきながら二人に近づく。
「おーい、海香。そろそろ飯だから、ミーリャを離してやれ」
「うー・・・。はーい」
渋々ながらも海香がミーリャを離すと、すぐさまミーリャは慎吾の後ろに隠れる。
「うー・・・。毛がグチャグチャ・・・」
「ははは。海香、ミーリャに嫌われたな」
自分の髪や尻尾の毛を整えるミーリャに、慎吾の海香に笑いながら席につく。
どうやら、ミーリャに痛め付けられた事による人間への恐怖心は無いようだ。
ギルドで会ったときに比べて格段に表情が豊かになったミーリャに、慎吾は内心ほっとする。
やがて夕食が始まり、雑談を交えながら五人で食事をする。
「ーーでさ、勝間が酒樽を倒して大変だったんだよ?特に、後始末が」
「ははは。そんなことがあったのか、俺もその場に・・・ん?どうした?ミーリャ」
今日の昼間の話をする海香に慎吾が笑っていると突然、ミーリャが顔をあげる。
その目が見ているのは屋敷の外、ビランツァの町であった。
いや、正確にはビランツァの向こう側に広がる草原か。
「・・・なんか、凄く嫌な感じがする。凄く怖いことが、起こりそうな感じが・・・」
「嫌な・・・感じ?」
深刻そうな顔をするミーリャに、慎吾もつられて町の方を見た。
町の奥にある平野は、夜の暗さとは違った闇を纏っていた。
海香「新しい子は獣人か~しかも、超可愛い!」
ミーリャ「シンゴ、なんかこの人怖い…」
海「え?わ、私、怖くないよ?ちょっと、モフモフさせてもらうだけだよ?」
慎吾「あれだけグチャグチャにされたら、誰でも怖いわ」
海「ご、ごめんね?今度から、気を付けるから」
ミ「約束…だよ?」うるうる
海香・エレイナ・ティル(な、なに?この可愛い小動物…)
慎「オーイ、さっさと自分の世界から帰ってこーい」
勝間「ははは…」
新たな仲間、ミーリャちゃんが登場しました!
前話から一応登場していたミーリャですが、微妙に口調等が変わっています。慎吾達になついたからという解釈でいてくれれは、幸いです。
さて、今話のタイトルから予想された方も多いと思いますが、次話はガッツリ戦闘の話になると思います。
では、また今度。




