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~11時間目~

 三学期初日の授業が終了した。さて、昼ごはんだ。学食で何か食べよう。


「宮村くん。よかったら、皆でランチタイムにしないかい? 冬休み中のこととか色々積もる話もあるだろうし、どうだろう?」


 そう語りかけてきたのは、クラスの中でも珍しい常識人古谷くんだった。このバカ集団において、唯一といえる希望の星である。


「うん、いいよ。僕もこれから学食に行く予定だったし」


 断る理由は無いな。古谷くんは頭もいいし、話も面白いから食事の席にいてくれると場の空気が全然違う。


「宮村くん、学食に行くのかい? なら、ぜひ私もお供させてもらいたいな」


「げ。宮門くん!? ま、まあ……いいけど」


 しまった。こいつを忘れてた。話かけられる前に、さっさと退散しようと思っていたのに。


 とにかく、僕らは学食に向うことになった。


 今回ランチに参加したのは、僕と古谷くん、平良くんとあと……宮門くんだ。


「へえ。ここが学食かあ」


 学食に入った途端、宮門くんが感嘆の声を上げた。そして、あたりを見回すと、僕に振り向いてくる。


 何だろう。もしかして、感激しているのかな? まあ、うちの学校で唯一自慢できる施設だし。


「ねえ、宮村くん。メイドさんはどこなの?」


「は? そんなのいないよ」


「ええ!? せっかく色んなご奉仕をしてもらおうと思っていたのに……がっかりだよ! こんなの……学食じゃない」


 いやいや、メイドがいる学食なんて、聞いたことないよ。


「おっぱい触り放題だと思っていたのに……はあ。夢が無いね、この学校」


「宮門くん、そういうサービスは、もっと大人になってから夜のお店に行くしかないよ」


 おっぱい触り放題の学食があるなら、日本中の男子高校生でいっぱいだよこの学食。ていうか、僕もそんな学食に行ってみたい。 


「まあまあ、とにかくさ。席は僕が確保しておくから、みんなでごはん取りにいっておいでよ。あ、宮村くん、僕はトンカツ定食ね」


「うん、わかった」


 古谷くんの提案で、それ以外はごはんの確保に向う。


 さてと……今日は何にしよう? 久しぶりにカレーもいいな。よし、ちょっとリッチに、エビフライカレーの大盛りだ。


「あれ? 宮門くん、どうかした?」


 券売機の前で、宮門くんが立ち尽くしていた。


「うん。刺身が食べたいと思ったけど……」


「んー。刺身の定食はさすがに無いね。そうだな。じゃあ、こっちの焼き魚定食はどう? なかなかおいしいって評判だよ」


「宮村くんが勧めるならそうしよう。しかし……無いのか、女体盛り。常識を疑うよ」


 ……気にしないでおこう。


 それぞれ自分の食事を確保すると、古谷くんの待つテーブルへ帰還する。そして、ランチタイムが始まった。


「古谷くん。おいしそうだね、そのトンカツ。よかったら、私に一口くれないかい?」


「うん、いいよ。じゃあこれは、転校祝いとして、どうぞ」


 宮門くんが、古谷くんのトンカツに興味を示す。古谷くんは気前よく、トンカツを彼の前に差し出した。


「じゃあ、一口だけ」


 といって、一口でトンカツを丸呑みしてしまう。


「あ、ああ。ぼ、僕の……トン……カツ……」


 古谷くんの皿には、キャベツの千切りしか残されていない。


「う~ん。これはなかなか……まずいね」


 と、宮門くんは悪びれる様子も無く、真顔でそう言い放った。


「ぼ、僕の……トン……カツ……」


 古谷くんは未だ放心状態のままだ。空気を読めよ、宮門くん!


「ぼ、僕の……トン……カツ……」


 古谷くんはよほどショックなのか、トンカツ不在のトンカツ定食を眺めて肩を震わせていた。


「あ、ああ。とにかく、みんな。新学期も頑張って――」


「あー! 宮村くんソレ。すごいこと発見しちゃったよ」


「え? 何?」


 空気を変えようとした僕に、宮門くんが水を差してくる。指先は僕のカレーに向けられていた。


「それ、私が昨日出したのに、似てる」


 食事中の方、ごめんなさい。


「……」


 僕は一気に食欲を削がれてしまった。


「あれ? どうしたの? いらないのかい? じゃあ、私がもらうね。まったく、宮村くんはもったいないという言葉を知っているかい?」


 大ショックだ。ここまでショックを受けたのは、母さんが昔書いたBL小説を偶然押し入れの奥から発見した時よりも、父さんが昔書いたTS小説を本棚から見つけた時よりも……大ショックだ!


「ぼ、僕の……トン……カツ……」


 古谷くんは未だ放心状態のままだった。


 即戦力でバカな転校生の加入により、我がクラスはバカの王道を突き進むのであった。

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