9、真っ暗
「どれ食べようかな〜」
タッチパネルを操作しながら、自分の食べたいお寿司を選ぶ音羽。夕飯時のせいか、多くの人で賑わっている。対して僕は、さっきあった出来事のことを考えていた。
今まで音羽に怖さなんて感じなかった。でもあの行動は、誰が見ても異常な行動だっただろう。
(父さんならどう思うのかな……)
僕は、父さんが動揺したり、驚いたり、悩ましい顔をしたり、笑ったり、今まで見てきた中で見たことがない。まるで、どこかに感情を捨ててしまっているような、そんな気がしている。僕は父さんのことを良く知らないのだろう。
「よし、きーまり〜はい!おにぃちゃん!」
音羽は僕にタッチパネルを渡してくれた。
「ありがと」
僕はタッチパネルを受け取り、画面に写るお寿司に目を落とす。
なんだかんだで、お腹が空いていたせいか、父さんからお金を受け取っているせいか、値段を気にせずどんどん注文した。
注文をし終え、お寿司が届くのを待つ。
「あ〜美味しかった!」
僕たちはたらふく食べた。しかし、喉の乾きは潤わなかった。
「明日も学校だから、真っ直ぐ帰ろうな」
「分かった〜」
こうして、僕たちは店を出た。
─────月が光り輝き、街灯が道を照らす。
昼間は暑さを感じるが、夜になると寒さを感じる。着る物に困ってしまう温度差だ。
僕は道端に転がっている、石ころを蹴りながら歩く。対して音羽は、歩道の縁石に乗り、バランスゲーム的なのをしていた。
「音羽、バランス崩して道路側に行かないようにな」
「分かってるよー」
本当に分かっているのだろうか。少し不安になったので、僕は音羽に手を差し出した。
「落ちそうなったら、僕の手掴むんだよ」
「うん!分かった!ありがとう!」
楽しそうに、鼻歌を歌いながら見事なバランス感覚で歩いていく。
明日はどんなことが起こるのだろう、どんな1日になるのだろう、そんなことを考えていたら僕たちの家が見えてきた。
案の定、家は明かりがついてなく真っ暗だった。時間は20時を指しているのに、未だに父さんは帰ってきてないのだろう。もしくは、地下室にいるのか─────
家の鍵を開け、中を覗く。静まり返る玄関。まだ帰ってきてないのだろうと確信し、音羽を先に家の中へ入れた。
うしろを振り返り、今日最後の夜の景色を、目に焼き付け、ドアを閉めた。
「パパまだだねー」
「そうだな。あ、お風呂沸かしてなかったな……悪い音羽、僕お風呂沸かしてくるから、沸くまで時間潰しててくれないか、ごめんな」
「大丈夫だよ〜わかった!」
すると、音羽は自分の部屋へ向かうため階段を登った。
─────チャランッ
鈴の音が鳴った。
「なんだ、おこめか」
僕を見上げ、撫でてほしそうにすがってくる。
「ご飯出すからちょっと待ってな」
(音羽に任せるべきだったかな)
早くお風呂に入って寝たかったため、餌を与えるのに面倒くささを感じる。未だに餌の匂いになれないのもある。
「どうぞ」
お腹が空いていたのか、おこめは餌にガツガツと掻っ込む。
「誰も取らねーからゆっくり食えよ」
おこめがご飯を食べている間に、僕はお風呂場へ向かった。
掃除をし、お湯を溜め始める。
お風呂を溜めている間に僕は一息つこうと、ソファーへダイブする。
「あぁ……今日も疲れたな…」
瞼が重くなっていくのを感じ、僕はいつの間にか寝てしまっていた。
僕は夢を見た。