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ユリア・カエサルの決断  作者: 遠藤遼
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初めてのガリア

『ガリア戦記』曰く、ガリアといっても、大きくは三つにわかれる。


 今回向かうのはガリア・トランサルピナ。「アルプスの向こう側のガリア」という意味だ。

「アルプスのこちら側のガリア」はガリア・キサルピナ。ガリア・トランサルピナのさらに北側になるとガリア・コマタと呼ばれていた。


 ユリアの拠点となるのは、ルグドゥヌムの町にあるルキウスさんの屋敷。彼の個人的な招聘に応じた形になっているからであった。


 俺はといえば、剣なんて使えないのにユリアに同行していた。


「セイヤはとにかく私のそばにいること! これは命令だ」


 頬を染めた金髪の美少女にそんなことを言われたら従わざるを得ない。自分が、ユリアにガリア行きを勧めた手前もある。かくして、俺もガリアの土を踏んでいたのである。


 ユリアが使うことになるこの町の最寄りの軍団を率いていたのは実直そうな壮年の軍団長だった。いかにも叩き上げらしいごつい感じだが、それよりもいい人感が溢れていた。名をドミティウスと言った。


「すでにお聞き及びかと思いますが、ヘルヴェティ族の今回の侵攻は五千人ほどの規模という少ない人数によるものなので、小競り合い程度の規模ではあります。ただ、こちらは総督が不在のため、早急に追い返さないと思いのほか大事になる危険性があります」


 ドミティウスさんは淡々と事実を報告してくれた。


 町のあちこちで建物の破壊や強奪があったようだ。


「わかった」ユリアは笑顔で告げた。「彼らの拠点を三日で落とそう。拠点はどこか」


 ドミティウスさんが目を丸くしていた。


「森のなかのガリア人は侮れません」


「ローマ兵は強いぞ。アラウ川を西から渡河して側面から叩く」


「お言葉ですが、ローマ兵の戦いはまず重装歩兵が槍を投げて敵の隊列を崩し、第二陣が剣で襲いかかります。正直なところ、平野での戦いのほうが有利です」


「平野のほうが騎兵も使えるしな。だが、まえの総督が、えらい死に方をしてしまっている。住民たちだって噂にしているだろう?」


「はあ……」ドミティウスさんが何とも情けない顔になった。娼館で総督が暗殺されたということに、純粋に心を痛めているようだ。実直な軍人なのだろう。


「実はそれ以外にも兵たちの士気を落としている問題がありまして……」


「何だ?」


「ガリア兵のなかにドルイドがいるようなのです」


 その言葉にユリアが一瞬だけ表情を硬くした。


「ドルイドというのは、ガリア民族の宗教指導者層だな? 長年にわたる修行の成果として独自の魔法を使えると聞く」


「はい。彼らは大気を操り、自然の力を魔法として利用できるそうです」


「うちにも女神ディアナの使いで風の魔術を使える軍師がいるから、そういうこともあるだろうが、ドルイドの魔法によって何か被害が出ているのか?」


「一マイル(約一・五キロ)とは言いませんが、十二アルパン(約四三○メートル)以上は離れたところからの弓兵の攻撃がありました」


「偶然、ではないのか?」


「一人二人なら偶然も考えますが、百人ほど負傷者が出ました。それにガリア側が弓を使うときだけ不自然に風が吹いていました」


「それで兵たちは『ドルイドの魔法』だと恐れている、と?」


「これまでドルイドが戦場に出てきたことはありませんでした。それゆえ、ドルイドに対する経験が不足していて、そのことも兵たちの不安を招いています」


「思ったより厄介だな」ユリアは楽しそうに笑った。「じゃあ、まずは酒宴にしよう」

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