『深淵に射すヒカリ』 5 誤字修正
・クリスタルワイバーン
透き通る水晶の体躯を持つ刺々しい翼竜。獰猛で攻撃的。雲の上まで飛ぶ事が出来る飛行型騎乗生物。最大乗員二名。
遠距離スキル:クリスタルブレス 直線でおおよそ20m。貫通属性を有する。スキルリキャスト580秒。
近距離スキル:クリスタルニードル 有効範囲は2m程でプレイヤーが騎乗出来る場所以外から鋭い水晶の針が飛び出す。スキルリキャスト120秒。
近距離スキル:クリスタルクロー 鋭い水晶の爪で対象を切り裂く。 スキルリキャスト5秒。
と、どんな生物なのかとヒカリに尋ねられたので、テンプレで回答したのだが、どうにもこの子が気になるのは生態らしい。雄と雌の違いやら何やら。…そういえば考えた事も無い。
「うっわ〜…!! 地面がどんどん遠くなるーっ!!!」
「そりゃそうだ。ちなみにコイツの最高時速は100kmだ。かなり速いぞ」
「制限速度大丈夫ですかそれぇっ!?」
「…車違うからまぁ、大丈夫だろ」
コイツに乗って制限速度尋ねられたのは初めてだな…。ん? 何か先んじて飛んで行った奴等を不思議そうに見ているが…。
「どうした? 何か気になることでもあるのか?」
「あ…うん。練習も連絡もしてないのに、皆凄い綺麗に並んで飛んでいるな〜って」
「それか。それならば単純な話だ。幾度も挑んだクエストだからな。動きが最適化されてるんだよ。監獄島は雲の上にあるから、このまま雲の中に突っ込んで…」
「反復練習の賜物なんですね!? 凄いなぁ…ってどうしました?」
「ん? あぁ…最適化された効率重視の作業ゲーで終わったらつまんねぇなぁ…ふむ」
俺はある事を思いついた。ヒカリはガチの初心者だ…そうだチュートリアルだ。ついでにアレも兼ねてしまおう。 この世界が終わって、ヒカリが次の世界でも楽しく戦える為のバトルチュートリアルだ。 俺はコンソールを呼び出し無料開放中の課金アイテムワールドメールを早速購入し使用する。
『参加者全員に通達、作戦変更、蝗狩りテンプレ攻略は無しで行こう。空中戦が苦手な奴は奇襲部隊、空中戦が得意な奴は突撃部隊の二部隊編成で敵陣中央突破を敢行する』
ワールドメールが参加者のみならず、今現在プレイしている全てのプレイヤーにショートメールで送られる。それを確認したのだろう今まで統率の取れた飛行から各自バラバラに飛び始めた。 それを確認した俺もクリスタルワイバーンの手綱を軽く引き上げると急角度に上昇を始める。
「うわっ…ほぼ直角!? 雲に突っ込むんですか!?」
「that's right! さぁヒカリ。これから君がゲームで楽しむ為のチュートリアルの始まりだ!!」
「チュートリアル…ってもうすませましたけど…」
「あんなモンはチュートリアルとは認めねぇッ! いくぞーっ!!!」
◇◇◇
俺達が真っ先に分厚い雲へと突っ込むと、それぞれが自分のプレイヤースキルと経験に応じた判断とタイミングで雲へと突っ込んでいく。
雲の中は視界が0に近く真っ白だが、音で近くに誰かがいるのかは判断が可能。
「近くに18人くらいついてきてる人いますね…」
…は?
「…ヒカリ。そんな数が判るのか!?」
「あ、うん。耳だけは良いから…」
フルダイブはリアルの身体能力に左右されないが、格闘経験やら視覚や聴覚、反射神経などはそのまま影響されてくるそうだ。盲目のピアニスト…成程。目が不自由な分、聴覚が発達してて当然か…。
「それになにか…雲の上で凄いバサバサと音が聞こえます。流石にこれは…数が分かりませんけど」
「そこまで!? …うんまぁここから先は捕食者のテリトリーだ」
「テリトリー…なるほどで―――って、敵陣中央突破ってまさか…」
「くはは!! そのまさかだ! いくぞ水晶丸 <クリスタルブレス>!!!」
マウントにスキルを使わせる際は、スキル名を伝える必要があり、それがマウントの耳に届くと、ガパッと口を広げて氷柱にも似た小型の水晶の塊を連続で吐き出す。秒間50発にもなる水晶の貫通弾が雲とその上で飛んでいる小型捕食者を蜂の巣にする。それを音で確認した他のプレイヤーもクリスタルフレスを使用し突破口をこじ開けていく。
さぁ…此処からはランダムPOPで何が沸いているやら…。
敵の頭上を取るべくクリスタルブレスで先制した俺達は最高速度で雲を突き破り、一気に敵陣上空へと躍り出た。
「ヒャッハーッ! 相変わらずのモンスターハウスだぜ!!!」
「うわわわっ…色んなドラゴンがわちゃわちゃしてるーっ!?」
やや小さい青灰色の翼竜がドラゴンズ・ベビー 脅威度は低いが数が集まるとかなり面倒ではある。そんなのがパッと見て200体近くはいる。 それに大型の多頭竜が一頭…うっ
「多頭竜はまぁ良いとして…こんな時にヴリトラPOPしてんじゃねぇよ!!」
「おいおいおい!!! ジークどうすんだよ! ヴリトラ付きで敵陣突破とか無理ゲー過ぎんぞ!!」
「ふえ? 鰤? 虎? …わ。何か一頭だけ神々しい捕食者だーっ!」
「ヒカリちゃーんっ! ウに濁点な! 鰤じゃないし捕食者じゃなくて…うおおっあぶねぇぇえっ!!!」
教えようとした蝗の佃煮のメンバーが大声を出した所為だろう、よりによってヴリトラのヘイトを奪ってしまったようだ…南無!!
・ネームドモンスター:天竜ヴリトラ
青銀の煌めく鱗を持つ巨大翼竜。空中戦でのみランダムエンカウントし討伐が可能。天属性と言う固有属性を有し、広範囲に天罰という名の雷を落として暴れ回るだけでなく、短いリキャストで極太のレーザービームを吐き出す頭のイカれた天空の破壊者。
「ペロッてたまるか…うるぁぁああっ!!」
ヘイトを向けられたプレイヤーが早速天罰を落とされるも、流石に突撃部隊に参加した奴らしく20フレームで落ちてくる雷を叫びながら躱し続けている。
「うわっ…雷避けてる…」
「発生前に前兆はあるからな。それさえ見切ればギリで躱せるが…まぁ変態技だよ」
「え? あの人、変態なの?」
「いや、変態という名の誉め言葉。と、それよりもチュートリアルその一だ」
一人がうまい事ヴリトラのヘイトを固定して逃げ回っている間に、俺達はベビーを始末していく。その間にヒカリに一つ教えた事がある。それはあからさまに見えている目的地へのあからさまなルートは大抵罠という事を伝えた。
「な、なるほどです。っていうか…話しながら器用に戦えますね…」
「ベビー程度なら水晶丸の爪でわりと簡単に倒せるしな…それにホレ、ああ言うのも変態技の一つだ」
「え…また何か凄い事してる人って…ええええええっ!?」
仕様上、プレイヤーの友であるクリスタルワイバーンはプレイヤーがマウントから落ちた時追いかけるという行動をとる。そいつを使ったシステム外スキルというか曲芸。
自分からマウントから飛び降りて、攻撃スキルを敵に喰らわせ、追いかけてきたマウントに捕まって飛び乗る。という一歩間違ったら墜落死確定の離れ業。まぁ…そこまでなら誰でも出来る。問題は、今、ヒカリが見ているのは、それを更に変態技に仕上げた音速の剣士だと言う事だ。
「目…目で追えないーっ」
「速過ぎるからなぁ…アイツにすれば空中戦も地上戦も大差無いらしいようで…キモチワルイ」
アイツは、ソニアは、古参の中で唯一初期職業の剣士だ。上位職を取らず、初期スキルである『ダッシュ&スラッシュ』の熟練度を最大値まで上げると習得する『紫電斬り』のみを好んで使う変態だ。
文字通り紫電の如き速度の突進系斬撃スキル。スキルリキャスト僅か1秒という破格の性能を持つ上に威力はAGI依存。脚にAGI全振りしているソニアには相性バツグンのスキルだ。
奔る稲妻がまるで鎖の様に多くのベビーを絡めとってゆく。流石に一撃では沈まないが、ならば沈むまで何度も紫電斬りを喰らわせた瞬間、再び紫電斬りで他の対象目掛けて縦横無尽の四次元殺法で斬り抜ける。
…正直、コイツ平衡感覚どうなってんの? キモチワルイ。
という感想しか出てこない。箱の中で高速シェイクされて平衡感覚維持出来るか? そんな事出来る筈が無い。例えそれがシステムアシストされたゲーム内だとしてもだ! だがアイツは平然とやってのける変態だ。
「ふわ〜…だから音速の剣士なのですね…」
「ン。まぁそんなところだ…っとぉ!?」
油断していたら多頭竜がコッチを向いていたので大きく旋回。直後に極太の水柱が襲い来るが既に見切っているので避けるのは楽だ。 楽だが…。
「頭が八つ…またレアモンが…。 …GMの奴、弄ったなこれ、絶対弄っただろ。ヴリトラとコレが重なるとかありえんぞ!!!」
幸いな事にヴリトラはヘイト維持を超頑張っていらっしゃる。残りの突撃部隊の皆も先ずはベビーを優先して奮闘中。そして説明男と化しつつある俺。…何か恥ずかしいので八つ首の多頭竜アナンタ…まぁぶっちゃけ何でお前空飛んでんだよ、なんで翼生えてんだよ八岐大蛇だろお前! に、向かって突撃を開始する。
コイツは頭の数で強さと属性が変化する。八つは水属性。動きは鈍重だがSTRとDEFに優れた八つの砲台を備えた空中要塞だ。遠距離戦は負け確定なので大きく旋回し、ハイドロブレスを避けつつ一気に距離を詰めた。
「水晶丸! <クリスタルニードル>!!」
懐へと飛び込み、八つの首の付け根に水晶の針をブスブスブスッとお見舞いすると、怒りを称えた八つの深紅の双眸がギロリとこちらを睨む。
「えい!」
ベシッ
ん?
「えいえい!!」
ベシベシッ!
ベシベシ? …わお。ヒカリが身を乗り出してアイアンソードで斬っている。あらやだ可愛い。だがダメージは絶対に0だ。レベル差が酷すぎる。ちなみにこのゲーム、ダメージ表示無し。敵の挙動で残りHPを予想するしかないのだ。 然し流石に長居すると一撃で水晶丸がやられてしまうので、再び中距離まで一旦退避しつつ、旋回しつつハイドロブレスを撃たせて回避からのクリスタルニードル。時間はかかるが安全策だ。 取り合えずコイツとヴリトラはヘイト固定して、ソニア達がベビーを全滅させるまで耐えるのが最善策。
「よーし、ヒカリ。チュートリアルその二だ」
「え…あ、はい!」
「敵を知れば百戦危うからず。観察し考察し検証し相手を丸裸にする事」
「むむ…。すみませんよくわかりません先生!」
「せ、先生…。まぁいいか。いきなり戦わずに先ずは観察。相手の容姿からどんな行動、挙動をするかを考える。それが纏まれば実践で検証し確定させる。そうすれば大抵の奴には勝てるように出来てるって事だ」
「な、なるほどです」
「…ほう? 取り合えず殴ってから考える会のギルマスらしからぬ教えだな」
「殴考会だ!! 取り合えずで脳筋臭マシマシにしてんじゃねぇ!! …ってもうベビー終わったのか」
「残りの奴等のスキルリキャストも終わっただろう。先ずはコイツをやるぞジーク」
「…聞いてねぇ。 了解了解」
クリスタルブレスを使用してから10分以上経っている。それを伝えに来たソニアだが周囲を見るとアナンタを包囲した形でヴリトラを固定させている奴以外に加えて奇襲部隊の面々も雲からひょっこり顔を出して準備出来ていた。…流石だねぇ。
俺はもう一撃ハイドロブレスを撃たせる為、中距離で旋回しながらヴリトラとの距離を測る。位置を間違えればクリスタルブレスがヴリトラにまで行ってしまうからなぁ…。位置確認を済ませた後、ハイドロブレスを回避し、一気に急上昇かーらーのー…
「「 <クリスタルブレス>!!」」
全方位からの激しいクリスタル貫通弾の弾幕が、要塞が如き八つ首の巨大翼竜の全身を蜂の巣にする。それぞれの首の耐久度を瞬く間に削り取り、太く長い首の一部が深紅のポリゴンと化し爆散。八つの首が雲海へと落ちていく。
「うわぁ…」
「うん。空中戦の基本戦術な集中砲火だよ。…まぁ、コイツでも死なないのがソコで暴れてるんだが…」
俺は眼下で暴れる天竜ヴリトラをどうしてくれようかと考える。
…。コイツを倒すのは可能。可能ではあるが時間がヤバイ。ラスボスを倒す時間が足りなくなってしまう。さて、どうしたものか…と、考えていると、とても懐かしい声が聞こえてきた。
「会長ーっ!! 遅れてすんませんーっ!!」
「ヒャッハー! 久し振りのエンシェントロアだぜ…ってうおお!! ヴリトラ!?」
「此処で引くとかどんだけハードラックだよ!!!!」
お…おお!? 聞きなれた懐かしい声を響かせたクリスタルワイバーンが続々と雲海から飛び出してくる。
「ジグごっめーん! 板で招集かけてみたら結構釣れちゃってさ」
「ほ、ほーん?」
「どうせなら時間合わせて皆で…って、何で背中向けてるのかな?」
「ふ、ふーん? ま、まぁ。遅刻は許してやらんくもない」
しまった。板で招集かけるって手があったかよ。VR慣れし過ぎてそういう昔ながらの手段を忘れてたわ…。恥かしくて殴考会の皆の顔が見れない…ぐすっ。
「あ。会長泣いてるぞお前等!!!」
「アーッ! 回り込んで見んじゃねぇよ!!! 感情が偽れないシステムが憎いっ憎すぎるッ!!」
うぐぅ。涙が止まらん。畜生感情エフェクトめぇ…。そんなこんな必死で感情を抑え込もうとする俺の横に来たソニアがダメ押し。
「…寂しかったのね」
「じゃかしぃわクソニア!! ええい!! テメェラ! 目標天竜ヴリトラ! ぶち殺せぇぇえっ!!!」
全く持って予想外の援軍に涙目ながらに突撃の号令を出し、俺達は、ネームドモンスター天竜ヴリトラとの空中戦へと突入するのだった。




