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Light in the abyss   作者: 木耳 五郎
4/5

 『深淵に射すヒカリ』 4


 イベント当日、つまりエンシェントロアのサービス最終日。集合時間より少し早く俺は初期の町へと来ていた。ちなみにこの町に名前は『フアスト』…ネーミングセンスはどうあれ誰もが必ず訪れる思い入れのある町なのだ。


 フアストの入り口にて俺は佇み、風景を眺めていた。特に特色も無いような片田舎、見るモノといえば精々大きな風車が在るぐらいだろう。そのまま視線を最初期のフィールド『始まりの草原』へと。そこにはスライムがもぞもぞと動いているぐらい…なのだが、少しでも経験値が欲しいのかスライムをアイアンソードで追いかけまわしている少女プリセット1そのままな金髪ロングの少女ヒカリが居た。


 装備品の援助をしようかとも思ったが、それをすると数少ない楽しみが減ってしまうのでやめる事にした。


 視界の片隅に表示されている時間が11:50と表示される。


  「と…そろそろ来るかな?」


 現存のプレイヤーは全員社会人だ。恐らくはそろそろ来る筈…。


 転移スクロールを使用したのだろう、町の入り口の至る所に転移する時に発生する光の柱エフェクトが18本も立ち上がる。最初に来たのは数からしてギルド『蝗の佃煮』御一行様だ。


 俺は蝗の佃煮の居る場所へと歩み寄ると軽く右手を振って挨拶すると、ギルマスもこちらを視認したのか手を振り返して歩み寄ってきたが、他の連中はキョロキョロと周囲を見回している…懐かしさからだろうか。ともあれ俺はギルマスであるメイギスという性別固定上位職『戦乙女』のプレイヤーと握手を交わす。


  「あら。ジグでは無く不死身の英雄(ジークフリート)なのですね? お久しぶりですジーク」


  「ああ。今回はガチで行くつもりでな…3年ぶりくらいか? 久しぶりだなメイギス」


 互いに軽い挨拶を交わすと、俺はメイギスの装備を見た。シルフィードの羽飾りにイナゴン素材のブリガンダインとドレスにレギンス。うん、コイツも本気らしい。…いや、皆そうだろうな。


 積もる話もあるにはあるだろうが、それ以上にメイギスがヒカリの事を尋ねてきたので、スライムを追いかけまわすヒカリに視線を向けてメイギスに伝えた。


  「あの方ですか、では少々挨拶をしてきますので失礼」


  「ああ。時間までゆっくりしといてくれ」


 そう言うとメイギスが俺から歩き去ると同時に転移エフェクトが6本…『ブックス』だな。また、同じようにギルマスのサクラさんが俺に気づいたのか歩み寄ってくるので、俺も彼に歩み寄り、互いに握手を交わす。


  「お久しぶりです。ジークさん今回はお招きに預かり教悦至極…我等『ブックス』、微力ながら後方支援を担当させて頂きますね」


 あ、あいっ変わらずかたっ苦しい…。この人はとても姿勢が低い。言葉遣いも恐ろしく丁寧でありながら慇懃無礼には当てはまらない凄い人。だから何故か俺もサクラ『さん』と敬称をつけてしまうのだ。見た目が初老を迎えた男性、学者っぽい装備と言動が相まって賢さが滲み出ているから近寄りがたい人でもある。


  「あ、はい。こちらこそ宜しくお願い申し上げます。サクラさんの卓越した戦略眼と後方支援があれば鬼に金棒というやつで…あー…言葉が思いつかねぇ…」


  「はは…無理はしなくて宜しいですよ。はい、リラックスリラックス」


 と、砕けた一面も持ち合わせた人である彼はリアル教授説がある。そして、俺はクガイの一件は天誅喰らわしておいた事を告げると同時に頭を下げた。PKはまぁいいとしてやり方がえげつないからなアイツ。その事にも笑顔で許してくれてはいるが、視線が先程から周囲を…ああ、やはりヒカリが気になるか。


  「初心者のヒカリでしたら、あそこでメイギスと話をしていますよ」


  「おや! 顔に出ていましたか…いやぁ、お恥ずかしい」


  「いえいえ。本当に珍しいですからね。MMO初心者どころかネット初心者だと思われますし」


  「ほう! ならば僅かな時間でも教えられる事はありそうですね。ではこれにて…」


 サクラさんが頭を下げると俺もつられて頭を下げた。


 時間が近づくにつれ、光の柱が多く立ち昇り、次に現れたのはネタビルドタッグ。どう見てもアレのオマージュというか丸パクりな二人が怒涛の勢いで俺へと駆け寄ってきた。


  「おう! ジークん!!」


 ガシッと見事なまでにSTRを腕に振り分けたマッチョマッチョした肌色の右腕が俺の首元へと絡みつく。


  「久しぶりだな!!」


 同じくSTRを腕に振り分けた逞しいモカブラックの左肘が俺の肩にズシリと乗っかる。


  「あ、ああ。久しぶり…だな。なんつーか、相変わらずお前等『ソレ』なのかよ…」


 何がソレなのかというと、まぁ、ソレを指摘した途端に『マッスルすぐる』と『マッスルぐれいと』は俺から離れ、二人して仁王像がまるでサイドチェストでも披露したかのような位置取りからのポージング。勿論、暑苦しくも爽やかな笑顔を添えて。


  「ふふん! それは当然」


  「『完璧(パーフェクト)戦士(ウォリアー)』の正装である!! すぐるよ!」


  「おうともさ!!」


  「…うん。で、いつものアレでキメるわけな」


 彼らの暑苦しい顔面が更に熱量を増した笑顔になり、サイドチェストからダブルバイセップス・フロントへと移行すると、見事にシンクロした二人が吼えた。


  「「『マッスルブラジャーズ』!!」」


 …変態どもが。などと口に出来ない俺。まぁ要するにピチパンに男でも装備できるブラジャーのみを身に着けたモヒカン頭のネタプレイヤーなのだ。こんなアホなナリではあるが一線級の強さは保持しているし、何より場を盛り上げる事に関しては他の追随を許さない二人でもあるので有難いといえば有難い。


 …問題は筋肉を誉めるまでポージングを解除しないんだよコイツ等…。


 …。誉めたくもないそれを誉めようとした瞬間、ネタプレイヤー二人の脳天に巨剣の腹が順番に叩きつけられ、二人は頭を押さえて前かがみになった。


  「久しぶりのイベントだっつーのに、着て早々に汚物を見せないでくれないかな?」


 イナゴン素材の漆黒の軽鎧の重剣士が、鉄板とも思える巨剣を肩に担いで苦笑いをしつつ俺へと視線を向ける。


  「来たぜジーク君。非アクも引っ張り出して28名。『イナゴンキラー』も参加させて貰うよ」


  「お、おおお。非アク引っ張り出せたのか…すげぇ。こりゃヌルゲーになりそうだな。頼りにしてるよアークレイ」


 俺の言葉に親指を立ててサムズアップしつつ、振り返ると視線をメイギス達に向ける。


  「で、例の初心者は彼女かな?」


  「ああ。軽く挨拶でもしといてくれ、残りが集まり次第呼ぶから」


  「OK」


 そういうと、重そうな巨剣を担ぎながらヒカリへと歩いて行くアークレイ。その後に俺も俺もとネタ要員二人も付いて行った。…ふぅ。


 正直な所、俺はコミュ力は高くない。


  「コミュ症(ソロ)音速の剣士(クソニア)寄りだから、主催はしんどいなぁ…」


  「ほう…?」


  「…おげ」


 迂闊にも、バックを取られていた。そして聞かれてしまった禁句(クソニア)


 速過ぎる、強過ぎる、倒せない。人間TASなど色々と陰口を叩かれた挙句に行き着いた呼び方がクソニア。


 ズシャリ 俺は一歩後退する。


 ズシャリ ソニアは一歩前に出る。


  「あ、すまん。つい口が滑った」


  「…」


 無言の圧力が圧し掛かる。やばい、どうしよう、どうしよう どうしよう!!!!!!



 ピピピピピピピピピ…。


 何というタイミング。合わせたタイマーがジャスト12:00をお知らせする。


  「お! 時間だ皆集めるぞソニア! 手伝ってくれ!」


 と言うと、逃げ出すようにヒカリに…うおぉ! 初心者に亡者の如く群がるプレイヤー、イベント進行しなくても何か大盛り上がりしてるが…まぁ一か所にいるなら都合が良いか。俺は後から追いかけてくるソニア(明らかにオコ)と共にヒカリの居る場所へ行き、各ギルドで整列して貰った。


  「おぉ…壮観だなぁ」


 目の前にはおおよそ現存する古参プレイヤーが全て揃ったと言える。 そんな彼等の前で俺は今回の主賓であるヒカリの背中を軽いて挨拶をさせた。


  「ほい、挨拶挨拶…あ、本名出すなよ」


  「ひゃ…ひゃいっ! ヒカリですっ! よろしくおなぎゃいします!!」


  「…噛むなよ」


 周囲に笑いが木霊しつつ「可愛い」などと茶化す連中もいたり、何故か既にファンクラブまで出来上がってしまっているらしく、即席でクリエイトしたヒカリの名前をプリントしたハチマキをつけた蝗の佃煮の連中が…。


  「ヒカリちゃーん!!」


  「今度絶対聴きに行くからねーっ!!」


 今度? 聴きに? ん、んんんんんんんんんんん?


 アラノミヤ ヒカリ この名が何処かで引っかかっては居た。だが興味が無かったジャンルなんだろう喉元まで答えが上がってこない。 苦虫を嚙み潰したような顔で首を傾げている俺の横に突然、白く煌めく羽根が舞う。ギリギリ…というより遅刻だなGMレミィ。


  「身バレしちゃったみたいね…もうぶっちゃけ判って無いの君だけかも〜?」


 俺の側に降り立った4枚の白翼を持つ天使アバターGMレミィ。ちなみに厳密には機械天使でありアンドロイドなのだ。光輝く翼もホログラム的なソレであるが、ちゃんと質量を伴っている。そんな金髪セミロングの天使に俺は何が?と、尋ねた所、盲目の音楽家という言葉に喉元に詰まった何かが飛び出した。


  「ああ。思い出したジングウ ヒカリで認識してたから出なかったな…確かに動画でアラノミヤっていってたなぁ」


  「そうそう。ワールドワイドな盲目のピアニスト『新宮 光』さんよ〜?」


 そこで思い出されたヒカリとの出会い。確かに彼女は言った、この糞汚いローポリの風景を『綺麗』と、恐らくヒカリは生まれて初めて風景をその目で見たのだろう。そういった事を踏まえて考えると、あらゆる意味で彼女にとってこの世界は新鮮味があったのだろう。 身バレしても何とも思わないのかヒカリはファンとなった廃人達に手を振って応えているあたり平気そうだ。


  「あ、そうそうフェルちゃんは対応に追われてて、もう少し後でくるからヨロシクね」


  「OKOK。じゃ、さっさと始めますか」


  若干二名。というかウチの二人がまだ来ない。何しているのか知らんが後で天誅案件だな。


  「ごほん…。では、お集まり頂いた各ギルドの皆様、ご清聴お願いします」


 似合わねぇ…。司会進行役なんて俺には似合わねぇ…。俺の視界には明らかに笑いを堪えているアークレイやクソニアにメイギス、サクラさ―――



  「おいほぼ全員笑い堪えてんじゃねぇよ!! どんな羞恥プレイだよ俺コレ!!」


  「イイゾー ニアッテルゾー」


  「キャーステキージークサーン」


  「ステキダカラコッチミナイデー」


  「棒読みで煽るな畜生が!!! ったく…悪いが素でいかせて貰う。今回のイベントはショートメールで連絡した通り『人数制限解除状態での蝗狩り』となってる。だが、油断はしないで欲しい。一応目的は二つ」


 俺は人差し指を突き立てて、目標の一つ目を提示した。


  「蝗の完全壊滅。一匹残らず全て皆殺しだ」


 その言葉に戦闘職の奴等は各々の武器を掲げて応えてみせた。士気は十分と。そして二つ目、Vサインで二つ目の目標を伝えると同時に、残りの左手をヒカリの頭にポンと乗せた。


  「ヒカリの絶対死守。彼女のノーデスクリアが二つ目の目的としている」


 その言葉に支援職の奴等が杖や本を掲げて応えたが、同時に非難の声も上がる。


  「テメコラァァァッ!!」


  「ヒカリちゃんの頭に気安く触れんじゃねぇよ56すぞぶるぁっ!!!」


 非難というよりは罵倒というか殺意の塊を投げつけられたというか…ふむ。更に俺はヒカリの頭をナデナデナデナデ。まぁ売り言葉に買い言葉という奴である。当然、暴徒と化した数人が乗り出してくるが、煌めく剣閃が地を穿って黙らせた。ナイスクソニア。


  「…後で私が〆ておく。下がっていろ」


 尚、彼女の機嫌が余計悪化した模様。そういえば気づいた素振りしてたなクソニアも。


  「ん。すまん。かなり脱線してしまったが、皆が転移スクロールで来てくれた。と言う事はヒカリの為に温存してくれたと認識していいかな。 …では時間も押してきた所で出発しますか!!」


 流石に12年もやってれば何時に監獄島が此処を通るかなど朝飯前。丁度挨拶を済ませた所で俺達の足元に巨大な影が近づいてくる。全員がそれを感慨深そうに見上げる。


 12年前、初めて此処で見上げた監獄島は圧巻の一言だったな…。恐らくはコレだろう。そのまま彼等は互いの顔を見合わせると、インベントリから機械仕掛けのクリスタルを取り出し、大空へと掲げ、こう叫んだ。


  「「友よ! 我が元に来りて翼となれ!!」」


 唯一、ソレを持ち得ないヒカリだけが取り残されるように、わたわたと周囲を見回している。


  「ふぇ…何がどう…って…えええええっ!?」


 集まった古参プレイヤーの数だけ呼び出された空中戦闘用マウント『クリスタルワイバーン』 水晶から出来た煌めく体躯は透き通り、ガラスのように脆さを思わせる工芸品のようでもある。だが見た目とは裏腹に高い耐久力と遠・近距離攻撃が可能な飛行型マウントユニット。それらが一斉に持ち主の側へと降りると、各々が乗り、空へと飛び立って行く。そんな光景を唖然として見ているヒカリを摘まんで俺のマウントの後部へと乗せる。


  「ふわっ…すご…これ、翼竜? でも、キラキラ透き通って綺麗ー…」


  「クリスタルワイバーンと言ってな、監獄島へ行く為に必要な奴だよ」

 

  「そうなのですか…あれ? でもこの子も捕食者(ドラゴンズ)…」


  「ああそうか。掻い摘むと蝗は外来種。こいつ等は元からこの世界にいる奴等だよ」


  「なるほどです。つまり捕食者(ドラゴンズ)とは敵対関係に当たる種族…です?」


  「excellent!(素晴らしい) ご名答だ。さぁ、しっかり捕まっていろよ、こっからは色々と激しいぞ」




 こうして、俺達はフィナーレイベントである『世界の終焉(おわり)嘲笑(わら)う者』へと飛び立つのだった。




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