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茜色に染まってしまえっ  作者: 朱色
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謎の美男現る。

梅雨の始まりを知らせるような、かすかに雨の匂いを絡ませた春の終わりの風。

生ぬるいから身体と心が無意識に拒否する。

自然に眉間にシワを寄せてしまう。

通り過ぎる大人はみんなそんな顔をしている。

笑顔な人間も確かにいるが、それに隠しきれていない顔もある。


街中を早足で行き交う人間たち。

何に急いているのだろうか。

いくら早く歩みを進めても辿り着く場所は変わらないし、今日という日は

何にも変わらないし、誰にも変えることはできない。


俺、美松茜みまつあかねは歩みを止めて履きなれていない革靴に少しだけ視線を落とした。


履きなれていない革靴は

高校に入学する俺のために早々と母が買ってきたもの。

かなり早い時期に買ってきたからその靴のサイズよりも少しだけ大きくなった

俺の足は今は靴に無理やり詰められている状態である。

だから、足が痛い。


俺の母は入学式の一週間前に交通事故で亡くなった。


勉強の出来が良くなかった俺が第一志望の高校の入試に受かったとき

一番喜んでくれたのは母親だった。


俺の家族は生まれた時から母しかいなかったから、

喜ぶ人間が母親の一人しかいなかった。それでも嬉しかったのは間違いない。

母が喜んでくれて本当に嬉しかった。


革靴に一粒のしずくがぽたりと落ちた。

俺はそこで雨が降りだしているのだと気がついた。

頬には雨か涙か分からないものがつたっていた。


屋根のあるところに急がないと。

そんな気持ちで下を向いていた顔を上げて前に進もうと一歩踏み出そうとした。

しかしそれを遮る何かが俺の目の前にいた。

見あげる隙を与えずその何かは俺の手首を人間とは思えない強い力で握り

俺が歩いてきた道とは逆の方向に走りだした。

手を強く握られていて振りほどけない。走る速さは異常なほどに速い。

引っ張られているからその速さに合わせて走るしかない。ついていくしかない。

なぜか声を発することも出来ない。口から溢れるのは乱れた呼吸のみ。


「はぁっ!はぁっ」


体温になじんだ雨が走ってぶつかる風のせいで冷たい。

そのせいで走ってエネルギーを使い熱くなっているはずの身体が次々と

冷えて感覚が無くなってきている。

足もいつもつれるかは本当に時間の問題だと思う。

下手をしたら脚が飛んで行くのではないか。

そう思うほどに走る脚は凄い勢いで動き、止まる気配がない。


頭ももう何も考えられない。

自分が今どんな状態なのかも分からない。


「おーい。ぼっちゃんや、起きとくれーい」

頬をペチペチと何度も叩かれていることに気が付き

勢い良く目を開けた。

俺の視界に入ったのは長い黒髪を頭の高いところで一つに結っていて

見たことのないくらいに顔の整った男だった。

「だ・・れ・・・??」

俺は乾いた口を微かに動かし微かに言葉を発した。

そんな俺を見た男はその妖艶さで一瞬にして女の子を魅了させそうな笑顔を浮かべた。

「俺は安達という者でございます」

安達と名乗る男は俺の横に置いてあったであろう水の入った湯のみをゆっくりと

手に取り俺に差し出しながら名乗った。

俺は差し出された湯のみを目で会釈しながら受けとった。

「安達・・・さん?」

「安達だけでいいですよ。」

「安達?」

「そうそう。そんな感じですよ。坊っちゃん」

ニコニコしながら俺に水を飲むことを手で急かしている。

俺は急かされるままに湯のみに口をつけ一口二口と水を飲んだ。

あれ・・・

「水じゃない・・・?」

俺は湯のみから口を離し安達の方に顔を向けた。

安達は先程の妖艶な笑顔はしまい込み、妖艶な眼差しをコチラに向けていた。

「おやおや、坊っちゃん。かなりの素質があるみたいだねぇ」

安達のその言葉に対して、え?という一言も発せなかった。

いきなり足の指先から頭の先にわたり、電流が流れるような痛みが

走りだしたからだ。

「ふあぁっ!痛いっ痛いよぉっ!!!!あああああああああっ」

俺はその場でうずくまり、悲鳴をあげた。

「坊っちゃん、我慢です。あなたが王になるために必要なものなんです。

あなたが独りぼっちじゃなくなるための痛みなんですっ!我慢ですっ!!」

安達のその言葉を聞いた後からの記憶がなくなった。


目を開けるとそこにはニコニコしている安達がいた。

結っている長い黒髪は月の光りに照らされているのに何故か深く暗い闇を連想させた。

「安達・・・??」

「そうですよ。おはようございます」

安達は俺の目尻に溜まっていた涙を親指で拭い次には俺の頭を大きな手のひらで撫でた。

俺は何もかもが分からなさすぎて

どんな言葉を発せればいいのか分からなくてただただ安達を見つめた。

「何にも分からないって顔してるよ。」

安達はやっぱりニコニコしてる。

「当たり前じゃんかっ!!!ここはどこ!?なんで俺はここにいるの?!なんで・・・ぐすっ」

せっかく涙を拭ったのに何もわからなくて涙がこぼれた。

「そりゃあそうだろうね、坊っちゃんにはなーんにも言ってないもんね。」

俺の頭の上にある安達の手を振り払った。なのに笑顔で陽気で妖艶だ。

「美松茜。君は魔王になったんだよ。」

いきなり安達以外の声がどこからか聞こえた。

「え・・・魔王?」

俺は周りを見渡した。どこか近くで誰かが自分につぶやいた。

「魔王って・・・魔王ってなんだよっ!!どこにいるんだよっ」

俺は叫びに似た声を出した。怖くて仕方ないから。

「ここだよ」

耳元で短い一言が聞こえ、次には座っている背中に何かの温もりを感じた。

恐る恐る首を出来る限りひねり後ろの声がするほうを見た。

そこには人間とは思えない銀色の瞳を光らせる色白で美しい男がいた。

「うわっ!!」

俺は今まで気付かなかったがベッドの上にいたらしく驚いた拍子に転がり落ちた。

「ふはははははははっ!」

そんな俺の姿を見た謎の男は気持ちが良いくらいに大きな声で笑った。

「今度の魔王は面白そうだな」

そう言ってベッドから降りて立ち上がり俺のことを見下ろしている。

「閻魔様、あまりからかうのはやめとけよ」

「閻魔ぁぁぁっ!?」

俺の反応に

安達はさぞかし楽しそうな笑顔を浮かべながらも一応止めに入ってきた。

そんな訳のわからない状況にさらに涙目になる俺はおかしいのだろうか。

バンッ!!

突然、部屋のドアが大きな音を立てて開けられた。

三つ編みにした青い髪の毛を首に何十にも巻いた美しすぎる男が息せき切って走ってきた。

「陛下っ!!こんなところにいらっしゃったんですね!!涙・・・?

はっ!こやつらにいじめられたのですねっ!?私、時雨にお任せください!!

すぐに退治をしますのでっ!!!!!!」

勢い良くひとしきり喋った後に時雨は安達と閻魔という男の方に向き直り

全力で睨みつけだした。

「時雨よ、お前は顔が柔らかいから全然怖くないぞ。逆に可愛いから諦めろ。」

閻魔がつぶやいた。

「きぃーっ!可愛いとはなんですかっ!!もう許しませんっ!!!」

「お?やるかやるか??」

安達がニコニコしながら時雨を挑発した。

「やりますともっ!!かかってきなさいですよっ」

時雨がそう言った途端に

安達がいきなり黒く光り出し、長かった髪の毛が黒い光をまとう一本の刀になった。

それに続くように時雨は青く光り出し、首に何十にも巻かれた三つ編みの髪の毛が

首からするするとほどけて青い光をまとう弓に変わった。

「手加減なんてしないからな。時雨ちゃん。」

安達は一言つぶやくと時雨のほうにはしりだした。

「こちらのセリフですともっ」

時雨も売り言葉に買い言葉。弓の先を向かってくる安達に向けた。

それらがぶつかり合う瞬間。

ゴツンゴツン。

鈍い音が二発した。

「お前ら、何しにここに来たんだ。」

時雨と安達の頭を一発ずつ殴り冷静に呟くものが現れた。

銀色で肩まである髪の毛を緑色のリボンで結っている切れ長な顔の男。

「すまない茜。俺が全てを説明しよう。」

男は俺をお姫様抱っこしてベッドの上に乗せた。

「あなたは・・・?」

「俺は、稲葉だ。茜、あなたの護衛役だ。」

「護衛??」

「そうだ。茜はこの国、魔キラ国の王、つまり魔王になったのだ。

だから、俺はその魔王さまであるお前の護衛をするのだ。」

「え・・・?王様・・・??・・・ま、魔王!?」

つづく☆











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