第五十九話 四天六合 其の六(ケイン視点)
僕が今向かっている街はジョーヌでもハインツでもない。中継都市テレポンスだ。
アインと武闘大会の決勝で戦った相手のクロウから教えてもらったこの街に、僕は大勢のプレイヤーを率いて向かっている。
最初はいけ好かないやつだと思っていたクロウだがアインとの戦いで心持ちが変わったのだろうか。今では以前見え隠れしていた他人への驕りが一切見えなくなっていた。
そんな彼から連絡が来たのはアインとクラン「スピカディア」を設立してからいくらか時間が経ってからだった。その内容はいろいろな街に行ける都市を見つけたということだ。クロウが任されたのは鬼人の地区。クロウは中継都市テレポンスから鬼人の地区へ先行した。
とは言ってもクロウが一人でアインが恐れるようなモンスターは止められないだろう。倒すためにはプレイヤー同士の団結が必要だ。ということで僕は第三の街であるハインツでプレイヤーを集めた。
初めはネットの掲示板に少し書き込んだだけだった。与太話だと思われるかもと不安だったがアインがかなり話を進めてくれていたようでプレイヤーたちの協力も容易に得られた。アインの行動の速さには驚かされるばかりだ。
クロウが鬼人の地区へ行けたテレポンスならば竜人の地区にもきっと行けるだろう。そう考え、僕は鬼人の地区と竜人の地区に加勢したいプレイヤーはハインツに集まってほしいと呼びかけていった。
僕が思っていたよりも今回の戦いにプレイヤーたちは関心があるらしく、1日待つだけで1000人ほど集まった。それに今回集まってくれたプレイヤーはハインツまでこれている猛者。申し訳ないがドワルニアに集まってくれているプレイヤーよりは質が上だろう。まぁアインがいるなら問題はない。
少し気がかりなのはクロウからの連絡が一向にこないことだ。鬼人の自治区で何かがあったのか?といらぬ心配をしてしまう。武闘大会での戦いぶりを見れば杞憂であることは当然なのに妙な胸騒ぎがしてやまない。
「えへへ、ケインさん具合が悪いの?」
「そうなの?」
そう聞いてくるのはおそらく小学生と思われる男女のプレイヤー。狐のような耳をゆさゆさと揺らしている。たしか名前は───
「クルトとセレナ、だっけ?」
「そうだよ!ぼくはクルト!」
「あたしはセレナ!」
「「二人で一つなんだ!」」
元気がいいなぁ。周りのプレイヤーたちは武闘大会での僕とアインの戦いを見ていて萎縮してくるし、何気にこの子たちだけが気兼ねなく接してくれるのかもしれない。
「そうそう、斥候役の人がケインさんを読んできて!って」
「そうなの?ありがとう。あとケインでいいよ」
「「ケインお兄ちゃん?」」
ぐっ。あざとい。特にピョコピョコと動く耳が。確か狐の獣人なんて選べなかったはず⋯⋯ユニークか。
「それじゃあ僕は向かうよ」
「まって!僕もついていく」
「あたしもよ!」
「危険かもしれないんだよ?ここで待っといたほうが良いんじゃない?」
「いーや、僕強いもん!セレナには勝つぐらい!」
「ぜーったいあたしのほうが強いもん!クルトなんて一捻りだよ!」
むむむむ⋯⋯ゲームだとは分かっているけれども子どもに危険な目を合わせるわけにはいけないし⋯
「あっ!モンスターだ!」
「火山の中なのにワイルドボアなんているんだ!」
「えっ、どこ?こっちに近づいて!」
「大丈夫、大丈夫!クルトの魔法で倒してあげる!」
「セレナの拳のほうが強いもん!」
「「勝負だー!!」」
「って、おーい!」
クルトとセレナがワイルドボアに攻撃を始めてしまった。まぁ危なくなれば助けてあげるでいいだろう。
「何故世界は廻るのか、何故世界は創造されたのか、我求むは世界の叡智、世界の真理。今ここに我の望みを叶えるため世界の理を捻じ曲げ、断裂し、古代の水災を実現させよ!────泡沫世界!!」
「我らが祖たる黄金よ、栄光を掴みし黄金よ、その権威を前に世界は平伏す。その純然たる覇気を以て我の身体を支配下におけ!血を!肉を!骨を!一切合切我が思うままに動かせ!───生命律令!!」
刹那、ワイルドボアの姿が消える。ワイルドボアがクルトの魔法で水に全身を包まれてもがき苦しみ始めたかと思えば、次の瞬間にはセレナの拳でワイルドボアは跡形もなく消えていた。
「セーレーナー!!折角詠唱までしてケインお兄ちゃんにカッコつけるはずだったのに獲物を横取りしないでよ!」
「はぁ!?だってクルトが格上相手の魔法を発動するからでしょ!それにあたしだって詠唱するの恥ずかしいのに!」
「恥ずかしいならしなければいいのに!僕はかっこいいと思うけどね」
「フン!」
やっばい。二人が喧嘩を始めちゃった。どうにかして止めなければ。
「まぁまぁ、どっちも強いってことは分かったから。着いてきてもいいよ」
「「いいの!?」」
こういうときは息ぴったりなんだなぁと思う。さっきまでの猛攻が嘘みたいだ。
このゲームでの「魔法」の立ち位置は結構ルーズだ。詠唱してもしなくても効果は変わらない。戦闘時はしないほうが早いから殆どが無詠唱だ。そして一般的に誰でも覚えられる魔法はその詠唱がほぼすべて共通でダサい。誰がランク付けしたかわからないがまとめサイトに乗ってる「ノーマルスペル」に位置する魔法たちがそれだ。
でも今クルトとセレナがした魔法は違う。かっこよさではなくその文言が。
いつだったかネットの掲示板にある情報が乗ったことがある。それは詠唱について完璧に理解したという猛者だ。どうせよくいるホラ吹きだろうとみんな静観していたが次第に興味深い内容が挙げられていった。曰く、詠唱は魔法体系を表す前半と、その体系のなかで区別をする後半に分けられるらしい。前半は同じ大系で2,3種類ぐらいしか無い。
あのときは眠かったのもあって今確認されているすべての詠唱に目を通した。だからこそ僕の目には二人が異常に見える。
二人の文言に似たものは一切見かけなかったのだから。
「もしかしてクルトとセレナは⋯⋯」
「うん?どうしたのケインお兄ちゃん?」
「あたしに応えることがあれば教えるよ?」
「いや、なんでも無い。なんで二人はそんなに強いのに武闘大会に出なかったのかなって」
「だってその時は⋯」
「小学校の用事があったから!」
納得。たしかに日中の午前にある武闘大会は子どもたちは参加しづらいかぁ。今思えば盲点だったな。
それに今この疑問は二人には言わない。聞くならもっと仲良くなってから、だな。
「それじゃあ斥候役のプレイヤーのもとに行こっか」
「「うん!」」
二人と横に並びながら仄暗い坑道を歩いていく。
今いるのはハインツとテレポンスの間に位置する無も無き火山。火山の中というだけあって長袖だと少し暑い。
「ケっ、ケインさん!ご報告があります!」
斥候役のプレイヤーが遠くから喋ってくる。心理的にも物理的にも距離があるのはきっと見間違いじゃないだろう。
「それで?どんな事があったの?」
「それが前方にトロッコと大穴が空いていまして⋯⋯どうやら分かれ道だそうです」
「トロッコって今も使えそう?」
「想像の10倍は大きい代物ですね。トロッコと言われればトロッコなんですけど広い視野がなければ壁にしか見えないと思います」
「そっか、じゃあみんなでそのトロッコのとこまで行ってみようか」
もしこれでトロッコが使えるなら大幅な行程の短縮になる。けどこれをクロウが教えてくれなかったのは何故だろうか?聡明な彼が見落とすわけがあるまいし。なんでだ?
実際にトロッコを見てみると優に100人ほど入りそうな大きさだった。手始めに僕とクルトとセレナ、そして100人のプレイヤーで乗ってみる。
トロッコは溶岩の上やひび割れた坑道を猛スピードで駆け抜けていった。
「面白いね!ケインお兄ちゃん!」
「とろっこ?って乗り物、なんかジェットコースターみたい!」
クルトとセレナも面白かったようだ。
そうして僕らはトロッコを使ってものの20分ほどでテレポンスに到着した。




