第四十七話 賞品授与
熾烈、苛烈を極めた武闘大会も終わった。様々なプレイヤー、それは例えばケインのように私と縁があったものから、クロウのような真の強者とも言えるような存在にも出会えた。
手に汗を握る展開、結果として優勝したのだがそれは最早、時の運と言っていいだろう。ケインの流れるようなスキルの猛攻、ジリ貧でケインがあの技を出せなくなるのが後少しでも遅ければ「韋駄天回帰」を使えない私は無様に敗北を喫していただろう。
クロウなど以ての外だ。彼の代名詞とも言える「雷神」系列の技。魔法使いかと思えば近接格闘も行けるオールラウンダーで、なおかつ器用貧乏とは到底言えない練度だった。それでも、それでも勝てたのは一重にフレイヤとドルヴェラクの技術の結晶であるラグナロクのおかげだ。
ラグナロクには3つの能力がある。1つ目は思考を加速し尋常ではない速度を体現できる「韋駄天回帰」。質量を自在に操る「終焉慣性」。そして最後に、自分が今まで相手に与えてきたすべての攻撃を一つに束ねたものを繰り出す「黄昏神罰」。武器の名前を冠したこの技は与えてきた総ダメージを0.5倍から最大10倍にして繰り出すまさに奥義。しかし完全ランダムではなく0.5倍から1倍までで50%、最大の10倍で言えばその確率は0.0001%と0に近しい。
こんなぶっ壊れた性能をした武器を持って負けてなどいられるものか。というか今回の優勝はほぼほぼラグナロクのおかげと言っていい。私本来の実力じゃクロウには勝てなかった。これからは武器ではなく自分自身を鍛え直さなければいけない。
なんせこの後に私が、いや私たちが挑むのは「神」なのだから。
『全体観測用マニピュレーター作動率――4.27%』
『第一回被験者戦闘力確認の終了を確認、並びに思考内容からの読み取りを実行』
『指定観察対象種:確立存在への干渉が可とされる存在のリスト。その最上位に名称「アイン」を掲載』
『第三衛星ガイアの汚染率50.4%を確認。早急な対応が必要』
『対応策の模索――3体の現在活動中の確立存在【自然種】の消滅を確認後「ノアの方舟計画」を実行』
『引き続きガイアの観測を継続、並びに各地の施設を順次起動。』
『全てはこの星の存続のために』
「ということで!長かった武闘大会、その優勝者が決定したぞーーー!!」
アポちゃんの言葉でうおぉぉ!!!、と観客が盛り上がる。なんせここで現在のプレイヤーの最上位層、トップが決まったのだ。まだ始まって2週間も経っていないのに爆発的な新規参入者が絶えないゲーム、Eclipse Horizonはもう累計100万人がプレイしているという。その100万人のうちの最上位層が決まる初めての公式イベント。さぞかし盛り上がったに違いない。
「栄えある覇者の冠を得たのは一体誰なのか??ということで今大会の第三位から選んでいきます。時間の都合上、いや皆様の身体の都合で⋯ッ、コ゚ホンッ。3位決定戦はできなかったので私の独断と偏見で選ばせていただきます。それでは3位の称号を得たのは⋯⋯ケインだぁぁ!」
「「「おおおおおおお!!!!」」」
見慣れた金髪の青年が壇上へ上がっていく。
「そして、闇に紛れるようなコートで身を隠し、それでもなおその体には熱い情熱を秘めている男が二位だ!その名前は⋯⋯クロウ!!!!」
「よく頑張ったな!」「お前もすごいやつだぞ!」
先程まで私と死闘を繰り広げていた彼が2位の座に座る。
「最後に皆さんは見たであろう彼女の姿。ボロボロになりながらも自分の勝利と楽しさのためにすべてを掛けた少女が、この大会で勝利を勝ち取った!そんな彼女の名前は―――アイン!!」
「すごい!」「どうやったらあんな身体であんなに動けるんだ!」「こっち向いてー!」
拍手喝采、声援の中私は一歩一歩踏みしめるようにアリーナの真ん中の壇上へと歩いていく。たしかに私は強かったかもしれないし、誰にも負け無いという自負がある。だが、私はこんなものなのか?武器の強さに引っ張られているだけなんじゃないか?
今この問いにうまく答えることはできない。だけれどもいつかまたこのような大会が来て、武器の強さに見劣りしないような自分になれた時にしか御大層な言葉は言えない。だってそんな状態のままで見られたくない人達がいるのだから。
だから私が今ここで言える最大限の言葉は――
「私は、強くなる!だから、みんなも、私と対等になるぐらい強くなってほしい!!」
「任せとけ」「任せといてよ」
隣から私の杞憂なんか吹き飛ばしてくれるような言葉をかけてくれる人達がいる。ただそれだけで今は十分だ。
「コ゚ホンッ、ではでは優勝者並びに入賞者には賞品がございます!一応こちら秘匿となりますのでインベントリに送らせていただいたものを見てくれると嬉しいですね。」
ふむふむ?どうやら賞品は私たち1位、2位、3位の人しかもらえなく優先順位があるようだ。そしてもらえる賞品はアイテム、武器、スキルルビーなど様々だ。しかしその中からとりわけ興味を引くものが存在する。
それは「質問権」だ。アイテム欄の中にひっそりと存在したこれは良く有りげな言葉とは裏腹にどこか異質なものを含んでいる。それにゲーム、特に「Eclipse Horizon」のような世界観が異様なほど作り込まれたゲームにおいてそれは格別だろう。世界の謎を聞いても、強くなる方法を聞いてもいい。考察勢なんか垂涎の品だろう。
あぁ、だからか。このリストが秘匿されている理由は。万が一流出した時に何かしら問題が起きるかもしれないからか。
隣を見てみるとクロウもケインも真剣に悩んでいるようだ。そんな中私がアポちゃんに聞く。
「私が欲しい賞品が決まったけどいい?」
「はいっ、勿論です!それでいかがしますか?」
「うん⋯『質問権』にする。それで私が聞きたいのは―――」
「そのことに関しては難しいですが、どちらかと言うとYESですね。私たちは少なくともそういう認識です。」
ざわざわ
アポちゃんの言葉に観客席のプレイヤーたちの声が飛び交う。それはホントなのかと隣と聞きあう声やそうだったのかと納得する声。
そして私は――
「そう、だったのか⋯⋯」
静かにそう呟くだけだった。
聞いた質問は「この世界のNPCは人間なのか?」といった質問。今まで高度なAIによるものだと思っていたのだが今この場でアポちゃんは人間だと言った。
それがたとえAiの願望だったとしても変わらない。この世界におけるNPCは全員例外なく自身を人間だと思っているということがわかったのだから。
ミリィもフレイヤもドルヴェラクもみんな確かに生きている、ただのゲームの登場人物なんてものではない存在なのだ。だから⋯
「私のしようとしたことは間違っていないんだ」
声にならないかすれ声が私の喉を通っていく。
「みなさんも、少し驚いているようですが私の言ったことは本当です。私の名前、アポカリプスの名前にかけてそれは保証します。」
先程までは打って変わったような真剣な声でアポちゃんが言う。
「そんなに身構えないでくださいっ。では二位のクロウさんも欲しい賞品を選んでください!」
「うん、僕はこの『世界樹の枝』をもらおうかな。一応こう見えて魔法使いだし、手を抜くことだってもう無いだろうしね。武器を新調することにするよ。」
「おお、お目が高い。では3位のケインさんは?」
「僕はね⋯この防具にしようかな。名前は『天使の羽衣』だね。」
「そちらもすごい防具ですよ!流石です。」
各々欲しい商品が決まったようだった。自分の武器や防具を新しくした二人に比べて私はただの質問。だけど後悔はない。なぜならそれが私が一番欲しいものだったのだから。
「これにて武闘大会終了です!皆様ご帰還ください!」
光りに包まれて私は元いたところへと転移した。
さぁ、これからどうしようかと考えながら。




