第十七話 その書店、高さ200m
城塞都市ヨルムンガルドとはこの国で王都に次ぐ大都市であり、そこに構える本屋もまた豊富な品ぞろえである。ヨルムンガルドで一番大きい本屋とは?と聞かれたらこの街にいる全てのものはサリア書店と言うだろう。なぜならそこは各種ギルドの施設と同等の大きさの書店であり蔵書数も10万冊を超えるとも言われている。
そのような話を街の人に聞いてみたら言われた。今更ながらこのように質問した際に全く違和感なく回答ができるこのゲームはすごいな。会話のテンプレートがあるようには感じられず、一昔前の3回ほど同じ質問をしたら同じ回答に戻るようなものでもない一人一人が思考しているかのような受け答え。それを全NPCに使うという開発側の驚異じみた執念。長らくインターネットに触れていながったがおそらく今頃「Eclipse Horizon」の作り込みのすごさやゲームの完成度についての話が飛び交っているに違いない。なんせ私もこのゲームに魅せられた一人なのだから。
それは一旦置いといて私は地図を買うためにサリア書店に行くことにした。話によると冒険者ギルドの施設と同じくらい、つまりビル1個分ほどの大きさの書店らしい。大きすぎだろ。まあこれだけ大きいのならば町中をぶらぶら歩いていても見つかるに違いない。
サリア書店を探しながら改めてヨルムンガルドの町並みを見てみると、レンガ造りの建物や噴水など少し昔の、中世ヨーロッパを思わせるような光景が広がっている。当然のように道は舗装されているがそれも城壁に囲まれているところのみ。なぜこの世界では現代のように都市と都市の間に道を作らないのだろうか?ゲームだからと言われたらそれでおしまいだが事実、この世界の住人の扱う装備はとても強い。ドルヴェラクの工房の装備が強かったようにこの世界にも強力な装備が溢れかえっているはずだ。強力な装備があるということは強い人間がいるということ。それならばこの星における人類たちの生息範囲は広がっているはずなのに……
作り込まれているゲームだからこそ細かなところにも意味があるんじゃないかと考えてしまう。しかし、私自身はそこまで考察が得意なわけでもなくどちらかというとフィールドワークのほうが好きなタイプだ。自身の手で未知を解明していく面白さもあるだろうがその結果をネットで調べることとなってもいい。どちらにしても楽しいことには変わりなく人には得意不得意があることもまた確かだからだ。
『あ、あれ!あの大きな建物ってサリア書店じゃない??』
仮面からミリィが飛び出して教えてくれる。どうやら仮面の中からでも周囲のことは見えるらしい。
ミリィの指さした方向を見ると「サリア書店」とデカデカと書かれた円柱状の塔がそびえ立っていた。土地面積自体はたしかに少なそうだが優に200mは超える塔、言うなれば神話に出てくるバベルの塔のようなものだ。
「え…思ってた数倍はでかいんだけど。」
『そうだねぇ、ここまで大きい本屋さんってどこにもないんじゃない?』
「とりあえず中に入ってみよっか。」
高さ200mを超えるサリア書店、ここの入口は一回の大きな扉だった。開けてみると中にはカウンターが一つありそこにとんがり帽子を被り目の下にはクマをした女性がいた。全体的に疲れてそうだけどちゃんと休憩したら超美人になりそうな女性だった。
「ようこそ〜、サリア書店へ。私がここの店主のサリアよ…昨日の疲れが抜けきってないだけでいつもはもう少し元気だから心配しないでね。で、今日は何を探しに来たの?」
「この国の地図ってありますか?私達交易都市ジョーヌの方に行きたくて…」
「あぁ、地図ね。3種類あるんんだけどどれにする?お手頃でジョーヌ辺りまでの地図が書かれた『ヨルムンガルド周辺地図』、10万サリーでこの国全体を網羅する『アーク王国地図』、そして最後に30万さりーするけどこの星全体のことが書かれた『ガイア観測地図』の3つよ。お姉さんのおすすめは最後なんだけどどれにする?」
とりあえず『アーク王国地図』か『ガイア観測地図』のどっちかかな。これからも使っていくしヨルムンガルド周辺だけじゃ足りない。価格だけ見たら安い「アーク王国地図」のほうが良さそうだけど私はこれから錬金王国ドワルニアに行くわけで、正確な場所を知るには「ガイア観測地図」が必要…まぁ、今は懐が暖かいわけだしより多くの情報を得られる方にしよう。
「ガイア観測地図の方でお願いします。」
「ほほう、お目が高い。それで君は30万サリー持っているの?ちなみにこの金額は農民の2ヶ月の賃金に相当するけど。」
「これでいいですか?」
すっと30万サリーが入った小袋をサリアに渡す。
「すごいじゃない、その年でそんなにお金を稼ぐなんて。どうやってこれを手に入れたの?」
「もしかして私疑われています?私は探索者って呼ばれる存在らしくてこのお金はちゃんとモンスターのドロップアイテムを売って手に入れたものなんです!」
「探索者?ごめんなさい、知らないわ。でも疑っちゃってごめんねぇ。それでタンサクシャって言うのはこれからももっと増えてくるのかしら?」
NPCは探索者のことを知らない?確かにNPCと私達プレイヤーの違いはほとんどない。自分から言わないと外見で判断することは難しい。でも、これから先プレイ人口が増えれば増えるほど探索者の数は増えてきてNPCがどうかが判断しづらくなるかもな。
「多分増えてくると思います。」
「ありがとうねぇ。じゃあ『ガイア観測地図』を所望なんだっけね。『幾万の本よ、此処に来たれ』」
サリア書店がある塔全体が震えたかと思うとものすごい速さで一冊の本が飛来してきた。
「これがガイア観測地図よ。代金は頂いたことだし少し中を見てみなさい。何かわからないことがあれば答えるわよ。」
サリアはそうやってガイア観測地図を私に差し出してきた。
「じゃあお言葉に甘えて…ってこれは??」
ガイア観測地図を開いてみると自分の前にウィンドウが飛び出してきた。そこを見ると地球と同じように星の半分が海に囲まれていて真ん中に大きな大陸が一つ、そして周囲に何個もの大きめな島が存在していた。
「この島たちは何ですか?大きな大陸を囲むようにありますけど。」
「これはこの国の地区ね。例えばこの国にはエルフとかドワーフなど様々な種族が存在しているじゃない?基本的にその殆どは真ん中の中央大陸に存在しているの。でも、一応形として各種族が盛んにいる島を何個も作ってそこに「王」として据えているのよ。権力自体はアーク王家が持っているのだけど各種族の長は自身のことを王と呼ばせていて、各地で独自の文化を発展させているのよ。」
「なるほど。統一国家が故に抱える種族間でのプライドによるいざこざをなくすために島にいれている。そして中央大陸に出てみたい人は自分の判断で出ていくってことになっているみたい。よくできているなぁ。」
中央大陸とその周辺の島のことはわかった。最後の問題は、この地図の上。北側のおよそ半分から三分の一に靄がかかっていることだ。
「このモヤは何なの?」
「これは昔にこの星の全てを観測しようとした旅団が唯一たどり着けなかった地域よ。噂によるとそこら辺に近づいた船が次の日には大部分が壊されて帰ってきたって話もあるぐらい謎に包まれている地域なの。」
「謎か…」
言うなれば未実装エリアってことか?今後のアプデに期待してねってことかもしれないがこのゲームでわざわざ今の段階じゃたどり着けない地域を作る必要があったのだろうか。別に地図にデカデカとモヤをかけなくてもここはありませんってことで地図を途中で切ればいい。もしかしたら靄がかかった地域にも頑張ればたどり着けるのかもしれない。
このゲームは謎が多くいつか解き明かせるといいなと思いながらサリア書店をあとにした。
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