8話 放課後三つ巴合戦1
あれから午後の授業を何事もなく終えて、遂に迎えた放課後。
リモリ達は海澤監督の下、使用許可を貰って訓練所に来ていた。
今回使用許可が下りたのは無数に建ち並ぶ無人ビルで埋め尽くされたゴーストタウンを模した訓練所。
通称、ゴーストタウンエリア。
数ある訓練所の中でも今回の模擬戦に最も適していると判断して海澤が斡旋してくれたのだ。
「ルールはどうする?」
「三つ巴の個人戦。S.O.スーツは必ず着用。銃や道具、体術、遮蔽物の使用は自由だ。」
リモリの質問に対して、この模擬戦の言い出しっぺである成海が簡潔に答える。
「敗北の基準は?」
「それなんだが…どうすっかな…。大きな怪我とか負わせる訳にもいかねえし…。」
そこで成海とリモリは何を持って敗北と見なすかを悩み出す。
訓練用とは言え、S.O.スーツを着用した状態で戦うのだ、ある程度の防御力は見込めるとは言え、気絶するまで戦えば今後の訓練に影響する怪我を負うかもしれない。
「それなら、問題ない。訓練用S.O.スーツには一定以上のダメージを受けると、バリアを張ると同時にスーツを強制的に脱着させる安全機能が備わっている。それが発動したら敗北と見なせば良い。後、銃は模擬戦用のを使え、今日お前達が訓練で使用した銃とは違い、人に向けることを想定した威力になっている。」
そう言って、海澤は3丁のライフル銃を取り出して、リモリ、氷川、成海に手渡した。
「…私は参加する気は無かったのですが…まあ、良いでしょう。このアホ二人を先生公認で潰せる好機ですしね。」
満面の笑みで銃を構えながら、そう宣う氷川。
公認も何も、海澤非公認の時も好き勝手暴れていたような気がするが、ここは敢えて触れないでおこう。
「…それでは改めてルールを確認する。この模擬戦は三つ巴の個人戦。対戦会場は訓練所ゴーストタウンエリア。三者全員S.O. スーツの着用を強制し、体術、銃、道具、遮蔽物の使用は自由とする。一定のダメージを受けて、スーツの安全機能が発動したものから脱落とする。以上が現時点で決定しているルールだ。他に追加したいルールはあるか?」
「いや、これで良い。」
「俺も。」
「問題ありません。早く始めましょう。」
海澤がルールをおさらいし、成海、リモリ、氷川の順に異論や追加のルールが無いことを確認する。
そして遂に、待ちに待った模擬戦の開始である。
「これ以上ルールに異論はないと見なし、ただ今より模擬戦を開始しする。三者各々お互いの位置が確認出来ない場所に着き次第スーツに搭載されている無線機能で合図を出せ。準備出来次第、私から開始の合図を出す。」
そう言われて、三人はその場を離れて、お互いの姿が見えない適当な位置に着く。
そして無線で海澤に合図を送る。
「リモリ、準備できた。」
「氷川氷織、準備完了です。」
「俺の方は問題ねえ。さっさと始めようぜ!」
「全員の合図を確認した。ただ今より、開始の合図を出す。三つ巴の個人戦、時間無制限、課外試合。開始まで3秒前…3…2…1…。」
ブゥー!!
その瞬間、甲高いブザーの音が訓練所内に響きわたり、模擬戦が開始した。
「よっしゃ!先手必勝!」
模擬戦開始直後、早速動き出したのはこの勝負の言い出しっぺにして、目立ちたがり屋の成海。
彼はスーツにより強化された身体能力を利用して、ビルの屋上から屋上へと飛び移り、他の二人の行方を探す。
「…おっ!特待生見つけた!」
ビルの屋上から見下ろす事で成海は早速地上を走っているリモリの存在を視認する。
そして、リモリに気づかれないようにその場でしゃがみ、銃を構えて、スコープ越しにリモリに狙いを定める。
「まず一人。」
「その銃の射程距離ではギリギリ届きませんよ。」
成海がリモリに向かって発砲しようとした刹那、成海の背後に突然氷川が現れた。
「っ!?お前いつの間に…!」
「隙だらけでしたので、一つ手土産を持ってきました。」
そう言って氷川は懐から火薬式のグレネードを取り出して、ピンを抜く。
「今朝、アフロのセットの仕方を知りたがっていましたよね?特別にあなたの体に教えてあげます。」
そう言って氷川はピンを抜いたグレネードを成海の足下に転がして、その場から直ぐに距離を取る為に隣のビルの屋上に飛び移った。
「は?」
その数秒後、成海の間抜けな声と共にグレネードが起爆し、ビルの屋上ごと成海の体か吹き飛んだ。
「今度こそ…まず一人ですね。後は…"あれ"を倒せば私の勝ちですね。」
成海が吹き飛ぶ姿を見届けて、氷川は次の標的をリモリに変える。
視線の先にいる彼はまだ、自分が狙われている事に気付かずに、周りを警戒してキョロキョロしながら地上のコンクリートの上を駆け抜けている。
そんな彼に氷川はビルの屋上から飛び降りて頭上から奇襲をかける。
「これで終わりですね。」
氷川は完全に勝利を確信して、自由落下の勢いと自分の体重を乗せた渾身の蹴りをリモリに放つ。
しかし…。
「ん?うわっ!危な!」
氷川の蹴りがリモリに直撃する寸前に気付かれてしまい、敢えなく攻撃をかわされてしまった。
氷川は侮っていたのだ、リモリと言う存在の力を。
体の組成が殆ど【B.U.M.】に近い彼は身体能力は勿論、感覚器官までも常人のそれを凌駕している。
ビルの屋上から飛び降りた氷川から発生した風を切る音が不運にもリモリに気付かれる原因になってしまったのだ。
「うえ!?お前…何処から降りてきたの?」
「呑気に敵に聞いてる場合ではないでしょう。わかっているのですか?私達は今敵同士なのですよ。」
そう言って困惑するリモリに構うこと無く、氷川は猛攻を仕掛ける。
銃による発砲、蹴りや拳を交えた体術。
流石主席と言ったところか、体術の心得があるようで、洗礼された動きでリモリを翻弄する。
しかし、リモリもまた普通の人間ではない。
彼の卓越した身体能力と反射神経で防戦一方ではあるものの、氷川の攻撃を全て紙一重で避けていた。
(やっば、反撃の隙がない…。こいつ、今日の射撃訓練の時の銃の扱い方と言い、普段からグレネードやスタンガンを持ってる事と言い明らかに戦い慣れてる。)
リモリは避ける以外に何も出来ず、反撃のタイミングを完全に見失っていた。
一方氷川の方は…。
(私の攻撃が全て避けられている…。今は私のペースに持ち込めているとは言え、体力も力もあちらの方が上な以上、長期戦は得策ではない。となると一気に決める必要がありますね。)
隙を与えない猛攻を仕掛け続ける傍らに状況を冷静に分析していた。
そして、このまま避けられ続けて長期戦になるのを危惧して、氷川は一気に勝負を仕掛ける為に再びグレネードを取り出して起爆させる。
「また、それか!」
リモリは咄嗟に後ろに下がって、襲ってくるであろう爆発に備える。
しかし、二度も同じ手を使う程主席は甘くない。
氷川が今しがた起爆させたグレネードは爆発を起こす事は無く、代わりに太陽を一分間肉顔で視認した時に匹敵する程のダメージを目に与える強力な閃光を放った。
「っ!?何だよこれ…目が…。」
リモリの目は一時的に視力を失い、氷川の姿を視認する事が不可能になった。
しかし、それだけでは終わらないのが氷川氷織と言う女である。
先程、ビルから飛び降りる際の風を切る音で自身の接近を察知された事を覚えていた氷川はリモリの視力を奪った後、間髪入れずに音爆弾を取り出して起爆した。
チュドーン!!
「がっ!耳が…。」
視力と聴力を両方失い、匂い以外完全を感じなくなってしまったリモリ。
そんな彼の腹部に氷川は容赦ないドロップを食らわせ、数メートル先まで吹き飛ばす。
「ぐふっ!」
「もう完全に私の勝ちですね。どうします?まだあなたの安全機能は発動してないようですが、降参するなら、これ以上痛め付けるのを止めてあげても良いですよ。」
「…。」
氷川の言葉にリモリはただ無言で返す。
これは意地で答えないのでは無く、耳が聞こえないため氷川が話していることすら気付いてないのだ。
「あ―そう言えば耳が聞こえないんでしたね。でしたら、戦い続行ですかね?それか海澤先生からのドクターストップを…「まだだ!」
そこでリモリの言葉が氷川の言葉を遮る。
「まだ、俺は動ける。まだ戦える!」
耳が聞こえないはずなのに…目が見えないはずなのに…リモリはまるで、氷川の言葉を否定して反抗するようにそう叫んで立ち上がる。
「高々模擬戦ごときに何熱くなってるんですか?」
「お前こそ、高々模擬戦ごときにグレネードとか本格的な武器持ち込んで、随分なやる気じゃねえか?」
「っ!?」
その瞬間、氷川の背後に先程グレネードの爆発でヤられた筈の成海が現れた。
それと同時に成海は氷川の脇腹に強烈な回し蹴りをお見舞いした。
蹴られた氷川は衝撃で銃を落としながら、数メートル地面を転がる。
「ぐはっ!」
「やっと、まとなダメージ受けたんじゃねえか?なあ、主席さんよ!」
「何で、あなたが…。」
「俺があの程度でくたばるわけねえだろ!せめて痛み分けにまで持っていかねえと言い出しっぺの面目丸潰れだ。」
そう言って、成海は先程氷川が落とした銃を拾い上げながら、リモリと氷川に近付く。
「さっきの爆発のせいで俺の銃がダメになっちまってよ。悪いけど使わせてもらうぜ。」
予想外の成海の参戦。
三つ巴の戦いはまだ続く。




