9話 放課後三つ巴合戦2
訓練所モニタールーム。
そこは、監督教員が生徒達の自主訓練を観測する為に儲けられた施設である。
そのモニタールームにて、リモリ達の模擬戦の監督を担っている海澤は今行われている三つ巴の戦いをモニターごしに観戦していた。
「同じAランクとは言え、成海は他の二人と比べて体力テストの成績は一歩劣っている。早い決着に成ると思っていたが、存外に食らいついているな。」
海澤の目の前のモニターには爆発を耐えて、氷川の不意を突いて攻撃を食らわせた成海と、成海の攻撃を諸に食らって地面に転がる氷川の姿が映し出されている。
「三者各々、大小の差はあれど、ある程度のダメージは受けている。ここからの勝負は彼らの動き次第で如何様にも転ぶな…。」
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そして、場面は変わり、訓練所ゴーストタウンエリア。
「ほら、お前ら立て。まだ勝負は終わってない。お互い体も装備もピンピンだろ?」
「ええ、言われなくても。まだ手榴弾のストックは残っていますよ。」
そう言って、氷川は今しがた受けたダメージをものともしない軽やかな動きで、立ち上がる。
しかし、そんな彼女とは対象的にリモリは立ち上がれこそすれども、未だに視力と聴力が治らず、成海の言葉に一向に反応を示さない。
「"あれ"はもう戦えないでしょう。先にヤっちゃいますか?」
氷川はリモリの事を指差して、スタンガンを取り出し、そう問い掛ける。
「いや、追い討ちはしない主義なんだ。俺は正々堂々と戦いてえ。」
「先程は私に不意打ちしましたよね?」
「てめえは例外だ。ルール違反じゃねえとは言え。銃とステゴロしか攻撃手段がねえ俺達にバンバン グレネード使ってきたからな…!」
そう言い放って成海は氷川に銃口を向けて、突貫する。
「銃を持って接近するバカが何処にいるんですか?」
「ここにいるぜ!どうせ距離を取って撃っても、てめえには当たらねえだろ。近づいて撃った方が合理的ってやつじゃねえのか?」
成海は氷川に接近戦を仕掛けて、隙を見ては銃を発砲して、決定打を狙いに掛かる。
成海の考えは正しい。
身体能力が氷川とリモリに対してやや劣る成海は接近に持ち込むと反って不利に成るが、だからと言って距離を保ちながの発砲を許してくれる程、氷川は甘くない。
なら、例え不利であろうとも、接近戦を仕掛けて至近距離から銃による決定打を狙うのが合理的だと言えよう。
氷川に接近した成海は手を伸ばせば余裕で届くような距離から発砲する。
しかし…。
「狙いがブレブレですよ。がむしゃらに撃つのは弾の無駄です。」
至近距離から発砲しているにもかかわらず、成海の銃は氷川に一撃も当たらない。
むしろ、銃を発砲した直後の反動のせいで決して小さくない隙を晒してしまい、氷川から反撃を食らってしまう。
「…っくそ!当たれ!」
成海はただがむしゃらに銃を発砲し続ける。
しかし、何度撃っても氷川には命中しない。
「隙だらけですよ。」
やがて、銃の反動によって重心がブレた隙を着かれて、全弾避けきった氷川から手痛いカウンターを食ってしまう。
「ぐふっ!」
カウンターを食らった成海の体は衝撃でバランスを崩し、更に大きな隙を晒してしまう。
そこに追い討ちを掛けるように、氷川からの猛攻が襲いかかる。
成海の腹に50発の打撃。
ノーガードの無防備な腹にスーツて強化された拳が実に50発。
成海は全ての攻撃を受けた後、慣性に従って数メートル後方に何枚ものビルの壁を突き破って、ぶっ飛んで行った。
「…まだ、終わりませんか。意外とタフですねあたな。…いえ、タフなのはあなたではなく、このスーツでしょうか?」
そう言って、氷川は止めを指す為にぶっ飛んで行った成海にゆっくりと近付く。
(くそ…全く歯が立たねえ…。同じAランクなのに、ここまで差があるのか…。)
何度も言うが成海の身体能力は他二人と比べてやや劣る。
しかし、あくまでも"やや"である。
ここまで、圧倒的な差が生まれる程に成海の身体能力は劣ってはいない。
氷川が成海を圧倒的している主な要因は戦闘経験の差であろう。
グレネードやスタンガン、銃の扱いに洗礼された体術。
それらがあまり身体能力に差が開いてない筈の成海を圧倒し、身体能力だけなら格上のリモリを無力化するに至った要因である。
(まだ、動けるな…。スーツのお陰で、あんだけ攻撃食らっても致命傷は一つもない。ただまあ、心配なのは安全機能が作動するまで後どれだけ被弾が許されるか…だが。)
成海は突き破った壁の瓦礫を掻き分けながら、立ち上がり氷川を睨み付ける。
「後一歩…ですかね?後2、3発も入れれば安全機能が作動してあなたは私に敗北する。」
「へっ!当てられるもんなら当てて見ろよ…!」
再び成海は銃を構えて引き金を引く。
…しかし、いくら引き金を引いても弾が出る事はなかった。
(はっ弾切れ…?…いや、違う故障したのか…。何枚も壁を突き破った衝撃で。)
完全に絶対絶命、頼みの綱の銃は故障し、再び使い物に成らなくなり、接近戦では氷川には敵わない。
完全なる詰みである。
「銃が壊れましたか。であれば、もうこれ以上はあなたは粘れませんね。一撃で終わらせてあげます。」
そう言って、氷川は懐からスタンガンを取り出して起動する。
バチッ!と言う強烈な破裂音と共に青雷がスタンガンの先端でスパークする。
このスタンガンは氷川がリモリに使用するために改造した特注品である。
故に、この電流一つで今の成海を打ち破れるだけの威力が見込める。
氷川はゆっくりとスタンガンを成海に向けて近付く。
(やっべえ…万事休すか…。ここから挽回する方法は…。)
成海の心は未だに諦めていない。
この絶望的な状況でも勝ち筋を見出だそうと頭をフル回転させている。
やがて、氷川との距離がどんどん近付いて、世界の時の流れがスローに感じ始め、走馬灯を見る後一歩手前まで至った時、成海の頭に一つの記憶が蘇る。
『成海、岩手の海を見てみろ。』
それはかつて成海が【D.H.A.O.】になると決意した切っ掛けとなった憧れの存在の言葉。
今でも覚えている、成海の子供の頃の記憶の一端である。
(海…?はっ!…そうか、海か…。)
その瞬間、成海の頭に一つの天啓が降りた。
成海は手にもっている銃から、弾である海水が入ってるマガジンを取り外し、それをスタンガンを起動して構えている氷川に向かって投擲した。
「っ!」
氷川は咄嗟に投げられたマガジンを回避したが、回避した直後にマガジンの蓋が空中で開いた。
そこから海水が飛び散り、不運にも今起動しているスタンガンの先端部分に降り掛かってしまった。
次の瞬間、氷川に掛かった海水により、スタンガンの電流は氷川の全身に放電した。
「っが!」
強力な電流を食らい、流石の氷川も感電してしまい、全身が麻痺してしまう。
(なっ何とか為った…ここは…追撃を…いや、一旦退こう。)
感電した氷川を前に成海は一時撤退を選んだ。
この選択は成海の単なる下らないプライドによるものである。
やられた事をやり返す場合を除き、成海は追い討ちも不意打ちも好まない。
このまま氷川に追撃を食らわせれば勝てたかもしれない。
でも、その選択は成海に取っては論外だ。
何故なら、正々堂々と戦って勝った方がカッコいいし、目立つからである。
故に成海は今、感電した氷川に背を向けて敵前逃亡をかましていた。
「はあ…はあ…。」
(あいつの事だ。きっと直ぐに回復する。それまでに何か…あいつに抵抗できる何かを見出ださねえと…。)
成海は全力で逃げながら、再び頭をフル回転させる。
この戦いはただの模擬戦。
しかし、それでも絶対に負けたくない。
それは何度も言うが成海が誰よりも目立ちたいから。
誰よりも目立って強くて格好いい【D.H.A.O.】隊員に成りたいからである。
何故その様な思想を持つのか、何故その様な夢を持つのか、今から語ろう成海の過去の話を。
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成海鳴海と言う男は2111年に岩手県奥州市に生まれた今年19の青年である。
彼は昔から体が周りより丈夫で身長も高かった。
スポーツは万能で、どんな競技でも少し練習しただけで、何百回も練習した凡才よりも優れた成績を残せる程にスポーツの神に愛された人間であった。
誰もが口を揃えてこう言っていた。
『成海は将来らじもねえ【D.H.A.O.】隊員になんす。』と。
成海本人もそう思っていた。
子供の頃から目立ちたがり屋の彼は自分も将来【D.H.A.O.】のような目立つような仕事に就くのだと思っていた。
彼は物心着いた頃から目立つ物が好きだった。
スポーツ選手、アイドル、スポーツカー、そして【D.H.A.O.】。
男の子なら誰もが抱く願望、夜空に煌めく星々のように自分も誰よりも輝くスターに成りたい。
誰よりも多くの【B.U.M.】を討伐して、誰よりも目立って誰よりもカッコいい【D.H.A.O.】隊員になるとそう息巻いていた。
しかし、そんな考えはある人間によって矯正された。
その日はいつもと変わらない夜だった。
唯一違う点をあげるとするなら家族の用事で少し遠出したことくらいだろう。
その日の成海は家族と共に三陸海岸沿いの旅館にチェックインを済ませて、一人で夜に光る三陸海岸のイルミネーションを眺めていた。
その光が成海はめっぽう好きだった。
誰よりも輝き、目立つこの光が自分に勇気をくれた。
だから、いつまで眺めても飽きなかった。
そんな時、イルミネーションに夢中になっていた成海の背後に一人の影が近付いてきた。
「ガキが一人でこんなどごいて、何さしてるべ?さっさと家に帰んす。」
突然声を掛けられて、成海は慌てて後ろを振り向く。
そこにはダークグレーの髪を腰辺りまで伸ばし、赤い瞳を持つ着物の女性が立っていた。
「…なんだ、四堂隊長か…。何か用?」
成海が四堂と呼んだこの女性は東北地方を管轄する二番隊隊長の四堂皇姫。
つまり、【D.H.A.O.】の隊長格である。
しかし、成海はそんな彼女を前にしてもあまり驚いている様子は無い。
その理由は田舎特有の市民と公安職の距離の近さによるもの。
東北はかなり面積が広い地方ではあるが、四堂皇姫は頻繁に地域の子供達と交流しているため、成海も四堂と浅からぬ縁を結んでいる。
「何だとは何だ!人がもっくやみしてんのに。」
「いらねいらね。俺をくする必要ねえべ。それよかイルミに集中してえから帰って。」
そう言って成海は四堂を邪険に扱って、再びイルミネーションに集中する。
「相変わらずだねえ、おめさんは。目立つ物目立つ事がめっぽう好きなんだなあ。」
「たりめえよ。俺は将来誰よりも多くの【B.U.M.】を倒して目立つ【D.H.A.O.】隊員さなんだ!」
四堂の言葉に成海は年相応の子供のように自分の理想を口にする。
しかし、成海の発言に四堂は何か引っ掛かるようで、眉を潜めながら、気になる部分を聞き返す。
「誰よりも【B.U.M.】を倒す?【D.H.A.O.】は【B.U.M.】倒すんじゃなくて市民を守るんがお仕事だど。」
「んな目立たねえ仕事なんてごめんだべ。俺は【B.U.M.】を倒す。それ意外は俺意外の人間がすれば良い。」
「こんのおだぶつが!そんな考えの奴が【D.H.A.O.】さ成るなんて100年早いべ!」
二番隊の隊長として成海の思想が気に食わなかった四堂は声を荒げて成海を叱りつける。
「おめえがどれだけ目立っても、それを見る人が居なかったら意味ねえべ。成海、岩手の海を見てみろ。こんだけ派手に輝いても見てくれる人がおらほしかいねえ。どんだけ目立つ舞台があってもギャラリーがいなければショーは成り立たん。んだから、助けんだべ。おめえが本当に目立ちてえんなら、それを見届ける人も助けなければ、意味ねえんだ。」
「…っ。」
これが成海の価値観に変革をもたらした出来事である。
目立ちたい、目立つ事…物が好き、それは今でも変わらない。
しかし、今の成海は自身のハイライトを見せる為に見て貰う為に見てくれる人間を助ける。
人を守って目立つ…そんな【D.H.A.O.】隊員を目指す様になった。
四堂皇姫は成海鳴海の価値観を変えて、再び【D.H.A.O.】になる決意をする切っ掛けとなった成海の憧れの人なのである。
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(負けたくねえ、四堂隊長に教えられた事今でもずっと守ってんだ。俺は沢山の人を助けて、助けた人達の前で目立ちまくる。その為にはこんな模擬戦ごときで負けてられねえんだよ!)
次の瞬間、成海は足を止めて逃げるのをやめる。
そして、数分後に成海の元へ感電から回復した氷川が超スピードで追い付いてきた。
「これ以上の逃走は無意味だと、漸く観念しましたか。」
「何が逃走だ。そんなダセエ事する訳ねえだろ。ただ自分を見つめ直す時間が欲しかっただけだ。」
そう言って、成海は氷川の前で腰を落として臨戦体制を取る。
「この状況で自分探しですか。本当にあたなは何がしたいのですか?」
「へっ決まってんだろ。俺のしたいことはいつだって変わらねえ。ただ目立ちてえんだ!見せてやるよ…俺のハイライト!」
その瞬間、成海の纏う雰囲気が変わる。
突然、成海が着用しているS.O. スーツが青色に光り出し、人一人吹き飛ばせる程の旋風を纏う。
「くっ!その姿まさか…!」
氷川は吹き飛ばされないように何とか踏ん張りながら、成海の異変を観察する。
どうやら、氷川は成海に起こったこの異変に心当たりがあるようだ。
そして、氷川と同じく成海の変化に心当たりのある人間がモニタールームにもう一人…。
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「あれは…【限界突破要請】…!まだ教えていない筈だが…。」
モニタールームで一人この戦いを観戦していた海澤はそう独り言を呟く。
【限界突破要請】とはS.O. スーツが持つリミッター解除機能の効果範囲を一時的に拡張する技能である。
例えば、普段リミッターを100%まで解除出来るスーツを着用している時、【限界突破要請】を使用すれば120%以上までリミッターを解除する事が出来るのである。
とても強力な技能である反面、デメリットも存在する。
安全にリミッターを解除するのがS.O. スーツの本来の機能であり、それを無理矢理拡張しているため、体への負担がかなり大きい。
「本来なら2年の訓練で教える範囲の内容だ。それに教わったからと言って皆が出来る物ではない。かなりの高度技能な為、使える者は限られてくる。それこそ将来の幹部クラスの素質でないと会得は困難だ。」
しかし、成海は出来てしまっている。
一年でありながら、無意識に、誰に教わるでもなく【限界突破要請】を会得してしまったのだ。
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再びモニタールームから場面は代わりゴーストタウンエリア。
「何かよ、体の調子がすこぶる良いぜ!今ならお前を倒せそうだぜ!」
「…っ!」
氷川は突然覚醒した成海を警戒して構えを取る。
予想外の成海の覚醒。
この三つ巴の勝敗は再び予想が着かなくなった。
この戦いはまだまだ続く。




