3話 学生人生、寮生活の始まりと困惑
あれから三日後、2130年4月17日。国立【D.H.A.O.】養成学校日本校 入学式。
海澤の必死の説得の元、磐石な監視を付ける事を条件にリモリを養成所に通わせる事が可能になった。
よって早速今日、リモリは支給された制服を着用して入学式に参加している。
但し、採寸の時間が無かったのでサイズがかなりダボダボな間に合わせの制服であるが…。
「新入生諸君、この度は君達が無事、我が校に入学出来た事を大変めでたく思う。不肖ながら、校長であるこの私から諸君に向けて式辞を述べさせて貰おう。」
そう言って、この養成学校の校長が厳格な態度で式辞を述べる。
しかし…。
「…。」
「「「「「「…。」」」」」」
本来、式辞を述べている校長に対して向けられるべき、生徒達の視線が疑惑と恐怖、そして嫌悪感を帯びて、リモリに注がれている。
その理由は明白であろう。
リモリの入学を承諾した、この学校の理事長と、日本の【D.H.A.O.】 上層部の計らいによって、この場に居合わせる新入生、在校生、そして教員全員に既にリモリに関する詳細な情報が知らされているからである。
そう、リモリの情報全て…つまり、リモリがどの様な経緯で日本にやって来たのか、そしてリモリがどの様な存在なのかを既にこの場の全員が知っている。
…リモリが【B.U.M.】に限りなく近い存在であることも…。
それ故に、全員、リモリの事を警戒しているのだ。
その上、上層部から派遣された監視役も軽く数百人は越えており、余計に多くの視線を感じることだろう。
「…えー、以上で校長の式辞を終わりにします。続きまして新入生代表の挨拶です。入学試験成績主席、氷川氷織。」
「はい。」
そう呼ばれて、席を立ち壇上に上がったのは、氷の様に透き通る綺麗な水色の瞳を持ち、瞳と同じ色の髪を腰の辺りまで伸ばした可憐な少女であった。
(あの女の子が入試主席…。そもそも、この学校って入試あったのか…。)
リモリは心の中で、当然の感想を呟く。
リモリの養成所入学は入学式の三日前に急遽決まった事だったので、入学手続きの際にリモリだけ、特待生として入試を免除されたのだ。
故にリモリは今の今まで、入試の存在を知る機会が無かったのである。
「春の暖かな日差しの中、吹く風も柔らかな季節となった今日、私たち314名はこの【D.H.A.O.】 養成学校の第101期生として入学の日を迎えられたことを大変嬉しく思います。本日は私たちの為に、このような入学式を催して頂き、また御来賓の方々からは心のこもった御祝部を頂き、誠にありがとうございます。」
氷川氷織による模範的な新入生代表の挨拶が述べられる。
今年度を持ってこの養成学校は創立101年を迎える。
昨年度がちょうど100周年だ。
2026年に【B.U.M.】による脅威が始まってから三年後に、日本政府は生き残った世界各国…オーストラリアと南アメリカ、北アメリカの協力の元【D.H.A.O.】を結成。
それと同時に日本校、北アメリカ校、南アメリカ校、オーストラリア校の計4校の養成所を設立したのだ。
「…最後までご清聴頂きありがとうございました。」
そう言って、氷川氷織は綺麗な所作で全校生徒と教員の前でお辞儀をする。
その直後に巻き起こる、拍手喝采。
しかし、少し勢いが弱いのは、やはりこの場に招かれざる異物が紛れているからであろうか…?
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入学式が終わり、新入生全員が各々配属されたクラスに別れて、教室に集まり、自分たちの席に座る。
リモリが配属されたクラスはAクラスだ。
ここで補足だが、クラスがAだからと言って他よりも優れていると言うわけではない。
このクラス分けには特に意味はなく、実力の優劣に関係なく公平に行われている。
「全員入学おめでとう。私はこの春から二年間Aクラスの担任を勤める。海澤沢だ。よろしく頼む。」
「んえ?」
Aクラスの教室に堂々と現れた見覚えのある姿にリモリは思わず、間抜けな声を漏らしてしまった。
加えて、他のクラスメイト達も海澤の姿を見てざわざわと騒ぎ出す。
無理も無いだろう、海澤が自分達のクラスの担任をするなどと言う話をリモリと他のクラスメイト達は一度も耳にしていない。
それに、海澤は由緒正しき、【D.H.A.O.】の隊長を勤めている、まだまだ現役の隊員だ。
本来なら、養成所の教員など、やっている暇は無いのだが、何故か彼女はこの場で教鞭を執ろうとしていた。
「自惚れのつもりは無いが、この場にいる者達の中で私を知らない者は一人もいないだろう。改めて【D.H.A.O.】三番隊隊長の海澤沢だ。何故私が教員をやっているのか疑問に思う者が殆んどだろう。端的に言えば原因はそいつだ…。」
そう言って、海澤はリモリの事を指差す。
それに呼応して、教室中の視線が全てリモリに注がれる。
「リモリをこの養成所に通わせる条件として、数百人あまりの監視役を付ける事、それに加えて私自身も彼の監視役嫌担任を勤める事を強制されてしまった。…と言うわけで、私は教員としての経験は浅いが、【D.H.A.O.】としての実践経験は豊富だ。私の授業は他のクラス程甘くは無いぞ。」
ほんの僅かに口角と声のトーンを上げてそう告げる海澤。
そんな彼女を前にクラスメイト達は各々十人十色の反応を示す。
恐怖に震える者、望む所だ…と武者震いする者、そして「マジかよ…。」と独り言を溢して、顔を引き攣らせる……リモリ。
「私から簡単にこの学校のシステムを説明しよう。殆んどの生徒は既に知っているだろうが、この学校は二年制であり、全寮制だ。二人一組のルーメイトで一つの部屋をシェアする。消灯時間は夜23:00。食事は食堂で摂る事ができ、外出の際は寮母から許可を取る必要がある。」
ここら辺のシステムは大体、何処の全寮制の学校も同じであり、この養成所も例に漏れず、ごく普通の全寮制を導入している。
「後は教員監督の下であれば、訓練所を使用することが出来る。しかし、監督不在時に訓練所へ浸入した場合はそれ相応の罰則が与えられる。」
ここでこの養成所にしか存在しないシステムの登場である。
【D.H.A.O.】の養成所であるが故に、生徒達は訓練所を使用することが出来る。
監督がいる時のみに限定されるが、それでも生徒達の自由意思で自主訓練を行うことが出来るのだ。
「以上がこの学校の大まかなシステムだ。もしわからない事があれば直接私に聞きに来い。何も無いのなら、これで解散だ。各々、事前に自分たちの部屋が何処なのか、知らされているはずだ。校舎見学するのも自由だが、程々にして早く部屋に移動するように。」
そう言い残して、海澤は教室を後にして行ってしまった。
(色々と聞きたいことがあったんだけど…。直接来いってもしかして職員室まで行けってこと?)
入学式と学校の説明を終えた今、残りの時間は生徒達の自由時間であり、校舎を探索するのも自由なのであるが、周りの教員や生徒達に警戒されているこの状況で、それが出来る程、リモリのメンタルは強くない。
よって、今日は仕方なく、海澤を質問攻めにする事を諦めて、自分の部屋へと向かうのだった。
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リモリは今、心の底から困惑していた。
先程、海澤が自分の担任に成ったのにも困惑したが、今彼が直面しているこの状況はそれに匹敵、あるいは越える程のものであった。
何故なら…。
「今日からあなたの私生活を全て監視し、あなたにより起こる可能性のある脅威を未然に防ぐために、あなたの自由を徹底的に削ぐ為、あなたの監視役嫌ルームメイトに任命された氷川氷織です。よろしくするつもりはありませんが、よろしくお願い致します。」
学年主席が…しかも女の子がルームメイトだったのだ。




