表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼穹の方舟 〜落ちこぼれ冒険者と記憶を失った少女〜  作者: 蒼月 りんね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/43

第二十四話 アウロラの森

カイ視点です。

 翌朝、俺たち冒険パーティー《ザリオ》、ダリオ率いる聖堂騎士団、そしてリゼットがアウロラの森の入口に集まった。

 すべてが集まるとリゼットが一歩前に出て、冷静な声で今回の作戦を伝える。


「これから《アウロラ・パクト遺跡》の“雫”を取りに行きます。森の中は聖堂騎士団が前衛、ザリオは援護。塔の中に入ったら、あなたたちが先頭に立って探索してちょうだい。騎士団は外で待機――以上よ。準備ができ次第、出発するわ」


 全員が短く頷き、それぞれ装備を確認するため散らばって行く。その中で、俺たちはリゼットの方に歩いていき、ヨアが彼女に話しかけた。


「リゼットさん。“雫”があるのは、どのあたりなんですか?」


 彼女はこちらを見て、わずかに肩をすくめた。何か浮かない顔をしているような気がする。


「塔の中よ」


 一言しか言わないことに冗談かと思ってしまう。ヨアも同じことを思ったのだろう、もう一度聞き直していた。


「え?中のどこですか?」

「知らないわ。……だから、これを使いなさい」


 彼女がヨアに渡したのは、銀の装飾が施された小さなコンパスだった。中心の針が淡く光を帯び、ゆっくりと回転している。ヨアは眉をしかめながら、用途を聞いた。


「なんですか。これ?」

「“雫”の反応を感知するようになってるのよ。針の指す方向に進みなさい。そこに雫はあると思うわ……」

「なんか曖昧ですね。……リゼットさんは、一緒に行かないんですか?」


 言葉に棘があるヨアだが、深くは聞き出そうとはしない。リゼットは、ヨアの言い方も気にしてないみたいだ。彼女は静かに首を左右に振る。


「行けないのよ。イオ主任の指示で、塔には”ザリオ”だけで入るように言われているの」


 俺は思わず口を挟んだ。それにアッシュとティアナも続く。エイラだけは何も言わず、辛そうな顔をしていた。


「……塔に入ったら、全部こっち任せってわけか」

「なんだよそれ、無理ゲーじゃん」

「それじゃあ、見つからなくても仕方ないよね」


 アッシュとティアナは、ぼやきながらエイラを連れて持ち場に去っていった。

 リゼットはそんな二人の言葉に少し表情を崩しため息をついた後、残っている俺たちのそばに近づいて、小さな声で呟いた。


「大司教様からの伝言で、「取ってこなかったら監獄に入ってもらう」って言ってたわ」

「そうか……」


 ヨアの返事をする声が固くなった。俺たちには後がないことを実感する。


「それもなんだけど……」


 そう言いかけ、リゼットは、周りを気にしてからヨアに近づき耳打ちする。ヨアの肩がわずかに揺れ、眉をしかめた。その目に、一瞬だけ戸惑いと警戒が浮かんだ。リゼットが顔を離すと、そのヨアの表情には影が落ちていた。


「……ありがとう」


 低く絞り出した声だった。リゼットは肩をすくめそれ以上何も言わず、踵を返して去っていく。その様子を不思議に思いながら見ていた俺は、リゼットが離れてからヨアに尋ねた。


「今、何を言われたんだ?」


 ヨアの表情は曇ったまま、小声で俺にだけ聞こえるように言う。


「……取って来たとしても、そのあとも気をつけろって教えてくれた」


 ヨアはリゼットの後ろ姿を見ながら、その声はどこか張りつめた響きがあった。リゼットが教えてくれたのも驚いたが、教会側の彼女の話にお礼を言うヨアも意外だった。


「彼女の話を信じるのか?」


 俺の質問に、なぜかヨアが目を開くから、何をそんなに驚いているのか不思議だった。


「どうした?ヨアは教会嫌いだろ?」

「ああ……彼女は教会側の人間だが、なんか違うような気がするんだ。教会にもいろんな立場の人がいるってわかったから……大丈夫だよ。警戒はしている」


 メルナに会ってから、ヨアの教会に対しての見方が変わってきたように思う。でも、なにが違うのかはわからない。そんなことを考えていると、ヨアがぼそりと呟いた。


「監獄送りか……」


 その言葉に、今更ながら俺たちの置かれた状況を思い知る。

 ゼルとの旅が楽しくて忘れそうになっていたが、教会に囚われている。俺たちはこの依頼を絶対に成功させないといけない。


 出発の準備が整い、俺たちは森の中へと足を踏み入れた。

 出発すると、指揮権はダリオに移った。号令をかける馬上の彼は、背筋を伸ばし陽光の差さぬ前方へ視線を向けていた。

 出発してすぐ、ダリオがこちらにやってきて、笑顔で声をかけてくる。


「森の中は聖堂騎士団に任せてくれたまえ」


 軽く頷くと、彼はまた馬を進め、先頭へと戻っていった。その背中を見送りながら、昨夜の騎士たちの噂がふと脳裏をよぎる。


 ――セルジオが、ダリオに意見して謹慎。


 昨日、セルジオの話をしたとき、あの穏やかな笑顔の裏に何かを隠していたのだろうか。優しいダリオが処分を下すなんて、何があったのか気になるが、今は考えても仕方がない。


 甲冑が木漏れ日に鈍く光り、列を成した聖堂騎士たちが音もなく進んでいく。

 俺たちはその後ろ、荷馬車の荷と並んで揺られながら進む。リゼットは別の馬車に乗っている。……どうやら、俺たちは荷物扱いらしい。


 塔の入口までは二日。濃い緑が陽を遮り、湿った土が蹄にぬかるむ音を返す。野営の準備が整った。俺たちを含めた五十名ほどの部隊は、息を潜めるように森の奥へと進んでいった。


 一日目は、驚くほど静かだった。

 出てくる魔物も弱く、聖堂騎士団は疲れも見せずに森の中の広場――防御石に囲まれた安全地帯に野営地を作った。塔までの道には、こうした“守られた場所”がいくつもあるらしい。

 

「なあ。……なんか、おかしくないか?」

 

 テントを張りながら、アッシュが話しかけてきた。


「何がだよ。ちゃんとテントになっているだろう?」

 

 地面に最後の杭を打ちながら答えると、アッシュは苦い顔で首を振る。


「そうじゃなくて――教会の方だよ」

「教会?」

 

 俺が顔を上げると、アッシュは周囲を気にしながらさらに声を潜めた。


「この塔って、普通は誰も入れないんだろ? それなのに、俺たちをわざわざここまで連れてきた。ってことは……入れる確証があるってことだ」

「なるほど。でも、それならなんで俺たちを使うんだ。入れる確証があるなら、自分たちで行けばいいじゃないか」

 

 そう言うとアッシュの顔が曇った。その時近くにある焚き火の火がぱち、と音を立てるとアッシュは質問に答えずに、その火の方へ歩いていき近くに座り焚き火の火を整えた。俺も後を追って隣に座り、問いかけた。


「アッシュは、その答えをわかっているのか?」

「そんなの決まってるだろ。……最初に入るのは、捨ててもいい存在なんだよ」


 その低い声の言葉に勢いよく顔を向けると、そこにあった瞳は、火を映しているのに、冷たいものに見えた。


「……捨ててもいい連中?」

「ああ。初見だから中で何が起こるかわからない。だから最初に入るのは、捨て駒でもいい連中ってことだ」


 “捨て駒”その一言が胸の奥に刺さった。けれど、不思議と納得もしてしまう。俺たちは、教会にとって替えのきく存在。それはつまり、俺たちの命は教会の掌の上にある。

 その現実の重さが、夜気よりも冷たくのしかかった。見上げた空は静かで、星々がまるで他人事のように瞬いている。


(……だが、死んでたまるか)


 胸の奥で小さく息を吐き、アッシュに視線を戻す。


「みんなで、村に帰ろうな」


 一瞬、アッシュの動きが止まる。やがて、深く頷きいつもの調子で答えた。


「ああ、当たり前だろ」


 森の奥から吹いた風が火を揺らし、火の粉が夜空に舞い上がる。

 その瞬間、柔らかな声が背後から響いた。


「カイー、アッシュー! ご飯持ってきたよ。ほら、ちょっと多めにもらっちゃった!」

 

 ティアナとエイラが皿を掲げて笑う。その後ろでは、ヨアが食料箱を抱え、苦笑いを浮かべていた。焚き火の光に照らされる三人の姿は、まるで日常の欠片のようで、今の現状を忘れさせてくれる。張りつめていた空気が、そっとほどけていく。

 アッシュと目が合い、どちらともなく笑い合った。

 

「なに? 面白い話してたの? 教えなさいよー」

 

 ティアナが詰め寄る。その瞬間、笑い声が夜空に弾けた。その笑いが、いつまでも続けばいい。心から、そう思う。


 

 夜、俺たちザリオのメンバーは明日に備えて、全員眠りについていた。


 ――その静寂を、突風が裂いた。


 「ぶおおおおお……!」

 風が唸り、テントが大きく揺れる。勢いよく上半身を起こした。


「なんだ!?」


 衝撃で目を覚ますと、同じく起きたヨアと視線がぶつかる。すぐに外から誰かの叫び声が聞こえてきた。


「起きろー!!火が燃え移るぞー!!」


 その言葉に慌ててヨアが、寝ているアッシュを揺さぶって起こし、俺は先に外へ飛び出した。



 目に飛び込んできたのは――炎に包まれたテント群だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ