7-22 「願いに為る」
「で、結局祠の異変は解決しなかった訳だが」
あーそっか。そうなるのか。……実はもう分かってるんだけど、流石に昔の俺が色彩練習のために増やしたりしてたっていうのは……。樹の配慮を速攻で無下にするよな、うん。
「あ、今の祠異変に関しては俺分かるぜ?」
「サボテン?」
「この山の記憶さ。山が過去を懐かしんで昔日を繰り返す……つまり犯人はこの山そのもの!」
「ああ成る程…………いや、昔祠が増えたり減ったりしてたっていう事実は残るのかよ」
「そこはほら、祠だって成長期もあれば家出したいときもあるんだよ」
「一理あるな……」
「増える理由にはなってないよ」
「記憶って美化されるから……」
おいおいそれで良いのか樹。唯一真っ当な突っ込みいれてるの奏さんじゃん。しかもなにが複雑って、今こうやって祠が増えたり減ったりしてた理由はサボテンマンの言う通りなところなんだよな……。
「……良かった」
ワイワイガヤガヤしてたところにぽつりと溢された言葉に、気付かれない程度の視線を向ける。慈愛の笑み浮かべてるな佐波……じゃなくてかすみ。俺が最初に見たとき輪郭が揺らいでて、名前を持った瞬間から安定したの、……間違いじゃなけりゃフミや来華の同類とみて良いのかな。佐波がこの山から出られなかった理由は分かんないけど、今でもそうなんだろうという嫌な確信がある。
「佐波……かすみの方がいいのか?」
「どちらでも……と言いたいところですが、偽装の意味も込めてかすみでお願いします」
「おっけ。かすみ、一緒にヘレティック行くぞ」
「……」
「この山から出られないのは知ってる。準備も検証も済んでるから」
「準備?検証?」
おー不思議そうな表情。分かるぜ、山出れないっていう相手に準備と検証って何だって話だよな。俺も実のところ殆ど分かんないまま検証してたもん、グッジョブ俺の本能。
「同化して抜けて、模倣して上書きする」
「???」
おっと分かんない感じか?そうだな俺も言ってて分かりづらいって思うよ。簡単にいうとバグにバグ重ねて常識書き換えるみたいな作戦だけど……ダメだったら最終手段ごり押しという名の奏さん出すだけだよ。
「樹~かすみが山の精霊でこの山から出られないから拉致ろうと思うんだけど」
「一瞬でも外に出られれば固定すっぞー」
「さっすが樹!」
ちゃあんと言いたいこと把握してくれんの良いな。山の境界線まで下りて来て、皆が見てる中で俺はかすみごと気配を馴染ませる。
今回は出来るだけ存在を残さない方がいい。何せこれは第一段階、出たら戻すとはいえ、出れなかったらお話になんないからな。一歩、二歩と歩みを進めて完全に山から出た瞬間、俺は佐波を模倣する。
「今っ!」
気配の強さで山が反応するその前に、予約投稿していた定義の上書きが発生する。世界の常識を俺じゃ一瞬しか歪められない、けど今回はその一瞬で充分!
「おりゃあ!」
樹が小さな紙を叩きつければ……おお、引力が消えた。かすみも変化に気付いたのか目を丸くしてるし……改めて樹、それを独学で習得してるの色々と規格外だよ。
「これで良いか?」
「おっけーありがと!」
「樹おにーさんさいきょー!」
フミに誉められて照れてるな。いやぶっちゃけ色彩じゃないけど色彩持ちと拮抗するだけの実力があるの訳分かんないにもほどがあるって。魔術って何なんだろうなぁ、色彩とは全然関係無いのかな。
「きょーくん。かすみちゃんを連れ出すのは良いけど……何か理由があるの?」
「うん。かすみには会いたい人がいるらしいから」
「なるほど……会えるといいね」
「はい」
会ったところで初めまして、そう聞いてるだけで特徴とかは一切知らないけどな。まぁ時間はあるしゆっくり探せばいいんだよ。
「サボテンマンはこれからどうすんの?」
「おいおい俺はさすらいのサボテンだぜ?」
「ああこいつは連れて帰るよ。頼まれてるんだよね、『見つけ次第捕獲しろ』って」
「おっとこいつぁ想定外だぜ」
迅速に捕獲されてるなサボテンマン……奏さんが誰に捕獲を頼まれてるのかは知らないけど、サボテンマンがそこまで抵抗してないってことは別に逃げてた訳じゃないのか。
「かすみ」
「あ、はい」
俺がぼへっとサボテンマンを見てたらいつの間にかフミが隣に来てた。いたずらっこのように笑みを浮かべてフミはかすみを覗き込む。
「きょーやにーちゃんは凄いよ。おれと来華を助けてくれた、色んな人と出会って、色んなことをしてくれた。世界救っちゃうくらい、にーちゃんは強いんだよ」
「……!ぼくの知らない間に、そんな強くなったんですね」
「だから、きっと大丈夫。一人じゃだめでも、二人なら」
「ええ。……本当に」
微笑みに諦めはない。もう大丈夫だと、遠くで子供の笑い声が響いていた。




