7-18 「それは、後悔の海を往くもの」
ぶつかり合った頭から心なしか煙が出ている気がする。多分血は流れていない。赤くはなっているだろうけど。
「いてぇ……」
「目は覚めたか?二発目いっとく?」
「なんで……」
少しだけ視界がはっきりして、それでようやく目の前にいる黄色が人だと認識できた。誰だっけ、知ってるはずなのにまだ出てこない。こんな顰め面してる黄色い人いたっけ。
「良いか恭也。今お前は怪異……というかその核である呪いをモロに受けて精神汚染を受けてる状態だ」
「……」
「呪いの媒体自体は見つけて封じ込め……たいところだけど、それやると恭也の精神ごと閉じ込めかねないから俺がここにいる。怪異の方もサボさんが捕縛術式に切り替えて対応してくれてるらしい」
「…………サボテンマン……」
「そうサボテ……サボテンマン?そんな呼ばれ方してんのあの人???」
へーいっていう軽いノリのサボテンが一瞬思考を通過してった。なんだっけ、俺、サボテンマンに何か任されて……。
「まぁいいや……俺の目的はここから恭也を追い出すこと。精神汚染引っぺがして、受けた恩を返すためにここにいる」
ここから追い出されるのか。どこにも行くあてなんかないのに。受けた恩って何だろう、俺がやったことってなんだっけ。まだ黄色い人の名前は出てこない。
「もう……いないのに」
「は?」
「さなみは、もう、いないのに?」
戦う理由も、立ち上がる理由ももうないんだよ。思い出した以上、手放した事実を見ないふりすることなんかできない。届かなかった事実を背負って、それでどうすればいいの?
「……いなくても、進むしかないんだよ」
「詭弁だよ」
「そうだよ。だって遺されたら進むしかないんだから」
「どうして」
「ここで俺達が立ち止まったら、消えたら、次の誰かがまた遺されるからだよ」
ぽつり、言葉は力なく地面に落ちて吸い込まれる。責務と義務で塗り固められた言葉だ、説得力とかそういうのはない。聞き取れるだけの音に感情は乗らない。
「たとえ俺達はただ一人でも、それでも進むことに意味がある。後悔の先に何があったって、少なくとも俺は、俺のエゴであんたを救いに来た」
「……」
「お前が言ったんだろ、『いつだって想像するのは大勝利の自分』って。ソウさんにも大雅にも、俺は結局何一つ力になれなかった。あんな無力な思いはもう二度としたくない」
ソウさん、大雅。……そっか、恵斗か。俺が認識したことで黄色い人が恵斗として視界に映る。……ああやっぱりぶつかった額は赤いや。
「お前がいなくなったら俺は引きずるからな。奏さんだってあれでお前のこと凄い気にかけてるから絶対引きずるし、……お前、玲士さんを一人にすることを受け入れられるの?」
「れい、し……」
『きょーくん』
玲士が一人になる、俺が佐波と離されたときと同じように、何の心構えもなく、何の予兆もなく。……それは。
「玲士の、傷になる……」
「あっやべもしかして心の傷になるのが目標だったりする?」
玲士には幸せに生きてほしい。傷付けたくなんてない。……もし俺が今ここでいなくなることで玲士に消えない傷が残ってしまったら、俺は俺のことを許せないだろう。
「……」
両手で思いっきり頬をひっぱたく。見てた恵斗が引くくらいに強く。ジンジンする頬も手も、まだ俺が生きてる証拠だ。
「恵斗」
「お。おう」
「ありがと。目ぇ覚めたわ」
「……!おう!」
まだ頭は重いけど、やけに意識ははっきりしてる。さっきまで聞き取れなかった声も、何も見えなかった周囲も、全部全部、ちゃんと認識できる。
『きょーくん!』
「玲士が呼んでる。早く戻んねーと」
佐波はもういないかもしれないけど、外に出たら聞かなきゃいけないことが沢山あるんだ。こんなところで蹲ってるのは時間の無駄だぞ俺。




