7-17 「そこで眠る」
ノイズが走る。手放したものが遠のいていく。俺は奏さんに会うよりも前から色彩のことを知っていた、山にいた佐波に教わって力を使っていた。どうして忘れてたんだろう、どうして俺は、佐波のことを手放したんだっけ。どうして俺、佐波のことを忘れたんだっけ。
『あなたはまだ子供だから』
『約束は、果たせないですけど』
『どうか、忘れて』
何かがあった。おれじゃ力が足りなかった。覚えていることすら危ないから、追いかけることは許されないから、俺は、今まで。
「あたま、いてぇ……」
どうしよう、何も分かんなくなっちまったよ。全部投げ出して眠りたいって気持ちと騒ぎ続ける俺の何かが喧嘩してる。眠りたいって誰よりも思ってるはずなのに、なんで俺は素直に眠れないの。
「さなみ……」
人であることすら怪しかったおれに戦い方と人であることを教えてくれた佐波。一緒に行こうって約束した、強くなったら良いよって言ってた。大人になれば、大人だったら、突き放されることなんて!
子供だからって逃がされた、遠ざけられた。守りたいって言ってたのにおれは守られてしまった。そのまま全部忘れて、きっとそのまま何もかも思い出すことなく終わる筈だった。俺一人じゃ、その未来を変えられなかった。今もまだ、取り戻せない欠片が遠くで漂っている。
きっと佐波にとっておれじゃ足りなかったんだ。頼れるほどおれは強くなかった。……おれにすら届かない今の俺じゃ誰も守れやしない。奏さんは充分だって言ってたけど、俺一人で勝てたことなんて一個もないじゃん。
『─────!』
さざめきが鼓膜を震わせる。何だろう、耳障りな訳じゃない、ただちょっとだけ、今の俺には遠くて騒がしくて、無意味に思えてしまうだけ。聞こえる音をちゃんと認識出来ないなら、それはもう俺にとって必要のないものなのかもしれない。
記憶が曖昧に溶けていく。後悔が海みたいに広がって、そこに何もかもが流されて。コールタールみたいに底のない其処へと、ただ落ちていけたら楽になれるかもしれない。
目を閉じた、逃げようとして耳を塞いだ。遠くなった記憶を抱えて落ちて行った。それでいいじゃないか、そのまま閉じてしまえば、もうこれ以上苦しむ必要なんて。
『─────!』
聞こえても届かない。届いたって響かない。それでも俺の何かが騒いで、俺の思考を止めさせない。眠りたい俺を引っ叩いてでも起こそうとする俺がいる。聞けと、聞き取れと、俺の魂揺さぶって意地でも寝かせない何かが全力で俺のことを邪魔してくる。
「どうして……」
「それはな」
胸倉を掴まれて雑に持ち上げられた。酷く固い音が俺に当たって落ちる。ぼんやりと滲む視界が黄色で埋まる。なんだっけこれ、だれ、だったっけ。
「お前が、こんなところで」
少しだけ力が緩んだ、視界からちょっとだけ黄色が遠のいた。ふ、と息を吸い込む音がして、そうして一瞬の沈黙。
「折れてるからだよ!!!!」
正面衝突。




