7-16 「誓いに成らず、願いに生れず」
俺を透過して風が吹く。俺をすり抜けて赤い毛玉が楽しそうに山を駆け上がっていく。人というにはちょっと野性味が強いなあれ。この頃はまだそんなもんだったのかもしれないけど。
頭がぼんやりと痛い。痛いというか思考が纏まらない。なんだっけ、何で俺こんな夢見てるんだろう、夢かな、夢じゃないとおかしいか。
「あの毛玉。……俺、だよなぁ」
もうちょっと人としての自覚を持てよ俺。山駆けあがるのに人の動きは邪魔だからって堂々と人であることやめやがってよぉ……。誰もそれについて指摘なんかしてこない、そもそもこの山に登るのは俺だけだから。
「お、来ましたね。おはようございます」
██が笑う。毛玉は喜ぶように跳ねて、そうしてようやく人の姿をなんとなくとった。……ちょっと毛深いけど。おい尻尾生えてるぞ毛玉、猿達みて姿設定してるだろお前。
「相変わらず認識ガバガバですねぇ。大丈夫です?ちゃんと人間出来てます?」
「そういわれると思って!」
ビシ!っと元気よく取り出したのは……写真?覗いてみれば兄弟三人が映ってる。おお……ちゃんと人の姿してるじゃん俺。
「え、毛玉が三人……!?」
「おとーと!」
「いやこれ分身じゃないですかぁ……すごいですね兄弟っていうかもうこれ三つ子」
「おれがにーちゃん!」
「そうですね。あなたが一番おっきいです」
楽しそうだな二人共。周囲の猿達も写真見て驚いてたりどや顔してたり。平和ってこういうのを言うんだろう、誰も彼もが自然体、警戒してる様子が微塵もない。
「おれおっきい!」
「子供としてはですよ。まだまだあなたは子供です。せめて僕に一発くらい入れれないと」
「むん!」
「ウキ!」
「威勢は良いんだけどなぁ」
良いだろ威勢。今も威勢だけは負けないぞ。大きく跳ねては弾かれてを繰り返す毛玉は……お、ちょっと考えたのか目に色が見えた。
弾かれた瞬間、██を透過して背後へと回り込む。ただこの場合の障壁は██を全方位から包み込んでるから……あー勢いよくバウンドして転がってったわ。
「ふっふっふ……甘いですよ赤毛玉」
「すきない!」
「ウッキ!」
「悔しかったら攻略法を考えましょうねー」
思考じゃなくて身体が回ってるな毛玉……。ぶっちゃけ今でもあの障壁超えるのって難しいよな?いやどうなんだろう、楽園兵……じゃないな、受容体を再現出来れば無効化出来たりするんだろうか。
「ウキ」
「もぐら?」
「掘るのはお勧めしませんねぇ。そもそも掘れるイメージつけてませんけど」
「ウッキ」
「ウキウキ」
「どんなイメージ……じゅうたん!」
「あー言いたいことはなんとなく分かります。結界って極論幕みたいになるんですよね……」
「じゃあハサミで切る!」
「おっと危ない」
言いながらハサミ出して切ろうとした毛玉をひょいと躱す。間違いなく今の俺よりは拙い動きだけど、イメージの応用力とか実行スピードは毛玉の方が上だな。悔しいけど。
「カッター!」
「お、考えましたねぇ。避けますけど」
手玉に取られる毛玉……完全にあしらわれてるぞ毛玉。
『んー……毛玉の方が早いねぇ』
いや流石にそれは嘘だろ。確かに俺より毛玉の方が使いこなせてるような気はしてるけど!
「……ん?」
何かが頭に引っ掛かる。もやついた思考の中で何を思い出して俺は突っ込んだ?考えるほど重くなる頭抱えながらそれでも思考を動かす。
「あたんねー!」
「そりゃ子供相手に負けるほど弱くないですもーん」
「むー!」
「あ、普変とか心神者は別です。あれは子供だろうと勝てないので」
「あいたいひと?」
「いえ。違います」
即答じゃん。じゃあ違うんだ、でもその名前を知ってるのはそういうことなんだよ。呼吸が苦しくて胸を押さえる。重たくて仕方ない頭抱えて膝をつく。
「大体、キキョウさんや原初のお二人とは違って何も遺してないので、会ったところで初めまして一択なんですよねぇ」
「でもあいたいんでしょ?」
「……ええ。叶うなら」
「じゃあ行こうよ。おれつよくなったらここからでられるんでしょ?一緒に会いに行けば良いじゃん」
「……ふふ」
微笑みがまた目に焼きついた。嬉しそうの裏に隠された諦めに今更になって気付いてしまう。何でだよ、まだこの頃はそんな表情する必要ないだろ、なぁ。
「楽しみにしてる」
「おう!」
「なんで、手放したんだよ……」
なぁ、佐波。




