3.公爵令嬢カタリナの悲憤
和やかに喋っている彼らを、中庭に面した窓、図書館の特別書庫から見下ろしている人影があった。
はちみつ色の豊かな金髪を巻きに巻いた公爵令嬢、カタリナだ。
「きいいいいいい……!
けまらしい! けまらしいですわッ!」
「けまらしい」というのは、昔流行った言葉で、汚らわしいと羨ましいを合体させたものだ。
「アルフォンス殿下とジュスティーヌは、入学式からバカップル垂れ流し!
サン・フォンとレティシアは、『親が決めた婚約だから』とか言いながら、あからさまな両片思い!
婚約者のいないノアルスイユは、当のジュリエット以外の学院生全員に好きバレしてるに違いない露骨すぎる片思い!
ああああ、どうしよう。
自分で婚約者を見つけないといけないのに!」
カタリナは、手近な本棚を正拳突きでドスッと殴った。
このカタリナ、サン・ラザール公爵家の三女で、たいそうなイケメン好き。
三女とはいえ公爵令嬢なのだから、とっくの昔に婚約が決まっていないといけない立場なのだが、送られてくる候補者の姿絵にいちいちダメ出ししているうちに、縁談をあれこれ準備していた祖母にキレられ、だったら自力で相手を調達しろということになったのだ。
で、まずは新たな出会いを求めて貴族学院に入学したのだが、学院内でさっぱりモテない。
カタリナ自身は、誰がどう見ても華やかな美少女である。
黄金色の巻毛、エメラルドのような瞳に整った顔立ち。
体型だって、コルセットを締めなくても最新流行のドレスを着こなせるほど腰は細く、お胸は十分成長して、良い感じにメリハリがついている。
だが、モテない。
家格もルックスも抜きん出ているのに、なぜモテないかというと、そこらの十代男子では対応できないほどに癖が強い、高飛車な振る舞いゆえなのだが──
「なんとかしないと……
このままじゃ、家柄だけはいい偏屈男のところに嫁入りさせられてしまうわ」
ぐだぐだしているうちに適齢期が過ぎてしまえば、祖母以下こわーい親戚たちに詰められて、なんらかの理由で結婚しそびれた男性のところか、でなければ後添いとして嫁がされてしまう予感しかしない。
そうなったら、相手の姿かたちがカタリナの好みかどうかなんて、考慮してもらえないに決まっている。
ドスドスと、カタリナはさらに本棚を殴った。
このカタリナ、高慢ちき令嬢属性だけでなく、暴力ヒロイン属性もついているようだ。
「ッて!!」
ドサドサっと本棚の上に積み重ねられていた未整理の本やら手稿が落ちてきた。
脳天を直撃されて、思わず両手で頭を抱えてうずくまる。
「なんなのよ一体ッ!」
涙目になりながら、カタリナは床の上に広がった十冊ほどの本を集め、テーブルの上に積み上げていった。