表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

3 目覚め

 翌朝、鳥のさえずりでロイの目が覚めました。ソファに寝ている少女はまだまぶたを開けません。


「……このまま目覚めないとか言うんじゃねぇぞ」


 そしてロイは椅子から立ち上がり、消えかけた暖炉に薪を放り込んで魔法で火をつけました。冬の早朝の習慣にはあくびが出ます。


「ん……」


 突然のことにロイは反射的に振り返りました。少女が目を覚ましたのです。 


「ん、あれ、えっ……? えっ、ここどこ!?」


「起きたか。おはよう、お姫様? リースは寒かっただろう。とりあえずここで休むといい」


 リースの森に来客なんて何年ぶりでしょう。ロイは嫌味たっぷりに『森の王』として少女を歓迎します。


「あ、ありがとうございます。わたしは朝日(あさひ)ひまるって言います。あの、あなたは?」


 短く明るい茶髪と黒い瞳。白のコートに黒のスカートを着た少女は、朝日ひまる――そう口にしました。


「俺? 俺はロイ。ただのロイ。四季の森ことリースの森へようこそ。森を統べる王――『森の王』、またの名を『灰被りの王』とは俺のことだ。

 あと、敬語は使わなくていい。動物たち(あいつら)を思い出すからな」


「う、うん。分かった。じゃあロイって呼ばせてもらうね」


「あぁ、それがいい。俺はお前のことをヒマルと呼ぶ。それでいいな?」


「うん、いいよ」


「なら自己紹介は終わりだ。後は穏便(おんびん)にお前を送り届けるだけ――」


「ねぇ、なんでロイは森の王様になったの!? 魔法は使える!? あとなんでひとり暮らししてるの!?」


 怒涛(どとう)のひまるマシンガンに、初めて耳が馬鹿になったのかと疑いました。


「……な、何を言うかと思えば。そんなもの、聞いても必要ないだろう。まぁ、どうしてもと言うのなら教えてやる」


「どうしても知りたい! ロイのこと、もっと知りたいもの」


「ふふ、ははっ。そうか、そこまでして俺のことが知りたいのか。いいだろう、俺は崇高な『森の王』、お前の質問に答えてやるよ」


「本当!? ありがとう、ロイ!」


 ひまるの心からの笑顔に調子が狂いますが、お願いされたら王として引き下がるわけにはいきません。


「まずは俺が『森の王』になった経緯だが……。俺は元から『森の王』となるべく育てられた()()使()()だ。幼少期には森の動物たちと共に過ごし、魔法の素質もあったから余計にもてはやされた」


 今となれば身の毛がよだつような過去ですが、それはそれ。思い出として頭の片隅に取っておきます。


「ある人……先生からは褒められるし、動物たちも期待してくれていた。森を駆け回った日々が懐かしいよ」


「それなりに期待されてたんだ。すごいなぁ、ロイは。あれ? でも、ロイって人間じゃなくて魔法使いなんだ? 人間の姿してるのに」


「その辺はあれだ。俺たちの世界では魔法が使えない者は人間、使える者が魔法使いとして分かれている。分かりやすいだろう? 特に元から……血筋から歴史のある魔法使いは、正真正銘の後継者として生きていくことになるからな」


「後継者って、魔法を継ぐ人としてってこと?」


「当たり。俺はただの一度も両親を見たことが無いが、俺自身はさ、魔法使いとして生まれたことを誇りに思っているんだよ」


 この時初めて、ロイは他人(ひまる)に顔をほころばせました。


 ロイの両親は所在不明で捜索願いを出しているのですが、何年経っても見つからないのは多分、そういうことなのだと彼には分かりきっています。


「なら、ロイはとびきりすごい魔法使いなんだね。そんな嬉しそうな顔してるんだもん。さっきロイのこと知ったばかりなのに、分かる気がする」


「それは何より。なんせ俺は『森の王』だからな、今ならひとつぐらい願いを叶えてやってもいい」


「願い……。あ、魔法で星を出せたりって出来る!?」


「星? そんなもの、基礎中の基礎だぞ。本当にそれでいいのか?」


「うん、お願い!」


 そんな笑顔をされたらロイでもたまりません。基礎がなんだろうが、ロイはそれに全力で答えるほか無いのです。


「目覚めよ、我が光。そして答えよ、我らが星よ――!」


 パチバチッ!


 白い光と小さな電光とともに『きらきら星』が現れます。

 星は上から下へと降りかかり、数秒もしないまま燃え尽きて消えてしまいました。


「わぁ……すごい」


 先ほどの元気はどこへやら。人は本当に感動することがあれば、落ち着いてしまうみたいです。

 ひまるはしばらく何も言わず、星の素晴らしさを噛みしめていました。


「すごい。すごい、けど……」


「うん?」


「――これじゃない。わたし、お空に浮かぶ星が見たい」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ