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1 はじまり/森

公式企画に参加するのは2回目です 

 冬の寒さと森のざわめきで、彼は眠りから目を覚ましました。


 ブラン王国のとある辺境、四季の森ことリースの森。そんな森を守るひとりぼっちの王様、ロイ。

 ロイはお城ではなく、ログハウスに住む王様なのです。


 自分の黒い髪をゆっくりと手ですくった彼の黄金(こがね)色の瞳はまだ、半分しか開いていません。


「今日は()()()()()寒いな……」


 ロイはあくびをひとつ噛みしめて、寝室からリビングへと向かいます。そして冬の習慣でもある(まき)を暖炉にくべて、魔法で火をつけます。

 そうして、王様(ロイ)は木製の椅子にどっかりと座りました。


「朝ご飯……昨日の残り物でいいか」


 今日の朝食は、ホワイトシチューと丸パン。シチューは昨日のディナーの残り物です。


「いただきます」


 重いまぶたをこすりながら、ひとりぼっちのロイは食事をはじめます。 


「ごちそうさま」


 洗い物は面倒くさいので、ぱぱっと魔法でこなしちゃいます。ロイに言わせれば『時短だ』とはねつけるでしょう。


「さて……」


 今日の予定について、ロイの頭はみっつの選択肢が思い浮かべました。ひとつは魔法の練習。ひとつは読書。そして最後のひとつは、外の様子を見に行くことです。


「まずは練習。その後に、外の様子を見に行ってやるか……」


 軽くあくびを出したところで、ロイのスイッチが切り替わりました。


目覚めよ(レヴェイユ)


 青い光とともに杖が出現しました。樹齢(じゅれい)百年を超える木で作られたこの特別な杖は、彼が小さいころに大切な人から与えられた大事なものです。


「目覚めよ、我が光。そして答えよ」


 すると、バチバチと音を立てて杖から光がほとばしります。白い光が星のように現れては消え、最後には無くなってしまいました。


「……こんなものか。まぁいい。先生に言わせりゃ、『基礎に戻ってこそ正解』だからな。


 暖炉の火を消して……よし。後は()()()()挨拶(あいさつ)でもしに行くか。腐っても俺は『森の王』。クソみたいな品性も、少しはマシに見えるだろ」


 外出用の黒いローブと青のマフラーを身につければ準備万端です。


「本当は行きたくないんだよな……。だって、くっっそ寒いし」


 そんな理由で森に顔を出さなければ、また皆の反感を買ったり笑いものになったりするので、今日ぐらいは本当に家から出ないとまずいのです。


「あ゛ぁーーっ! 寒い、寒いぞこれは! もう帰りたくなってきた、早く冬眠したい……」


 ドアを開けただけでもうこれです。『森の王』らしからぬ言葉は横に置いて、ロイは『(いこ)いの木』へと向かいます。


「マジで寒い……。なんだってこの国はこんなに寒いんだよ……」


 ぶつくさと文句を言いながらも、王様である彼は前に進むのです。


 かつてこの森を燃やしてしまったロイは責任を取るために森の中に家を与えられ、『堕ちた王』、『灰被りの王』と呼ばれあざけられてきました。


 それでも自分自身を制御するために、ひとりぼっちで頑張ってきたのです。


「感傷に浸るほど暇じゃないんだけどな、俺」


 そうこうしている内に、森の住民たちが集う『憩いの木』に着いてしまいました。


 森の中心にある、樹齢何年かも分からない大きなモミの木が目印のこの場所は、『森の王』ロイと動物たちの出会いの場でもあります。


「よぉロイ。やっと家から出たな、このねぼすけめ。皆なんだかんだで王様を待ってたんだよ」


 鹿のベローが悪態をつきながら、王様(ロイ)を歓迎します。


「なんだかんだ、かよ。後、俺の寝起きはいい方だ。体の芯から冷えてもすぐに起きれる」


「はは、そいつは良いや。しかし王様は籠城(ろうじょう)がお好きなようで」


「何が言いたい」


「いくら冬が嫌いだからって、引きこもるのはやめろって言ってるんだよ」


「うるせー‼ それくらい許せ、馬鹿!」


 ベローは笑いながら自分の住処(すみか)へと走り去っていきました。


「……くそ、どいつもこいつも俺を馬鹿にしすぎだろ」


「あ、あのっ、ロイ様おはようございます。今日は貴方に会えて何よりです……! これ以上の幸福はありません!」


 今度はうさぎのソフィアがやってきました。彼女はロイに心酔(しんすい)している、数少ない存在です。


「おはよう、ソフィア。うん、それくらい褒めてもらわないと、俺の割に合わないってもんだ」


 そうしてロイはソフィアに笑顔を向けました。一部の動物たちが黄色い声を上げたのも、ロイにはしっかり聞こえています。


 なんたって彼は『森の王』。少ないけれど肯定派もいるにはいるのです。


 森の王様は動物の声を聞き分けて当然なのですから。


「じゃあな、さようなら。雪道には気をつけろよ」


 動物たちに別れを告げ、背を向けたところでロイは深くため息を()きました。


「……今日のあいつらはあんまり怒ってなかったな。むしろ馬鹿にされて笑われたというか。あと、ソフィアのおかげで持ち直せたのはまだ良かった。あいつ、本気で俺のこと好きだし。

 ――いやぁ、『森の王』はモテて大変だなぁ! くそったれめ」



◇◇◇


 足の指がかじかんできたところで、ロイは自分の家にたどり着きました。


 しかし、そのままドアを開けるわけにはいきません。今日の夜から吹雪(ふぶ)いてくると、『(いこ)いの木』で動物たちが話していたのです。


「こればっかりは、魔法で頼るわけにはいかないんだよな」


 ロイはそう呟きながら、外壁に立てかけてあった斧を手に取りました。そう、(まき)割りです。これだけは魔法に頼ることなく、小さい頃からずっと自分の力だけでやってきました。


 ロイの大切な人……先生いわく、『魔法使いだとしても自分の力を使わないと、いずれ魔法だけにしか頼らない廃人になる』、と。


「はぁ、疲れた……」


 吹雪に備えるため、いつもより多く薪を割りました。今夜が勝負だと思うと悪寒が走ります。


 薪割り用の(おの)を立て掛け、元の場所に戻してから家の正面に立ちました。


「……念のために、厄除けの魔法でもかけておくか」


 呪文を唱え、家全体に厄除けの魔法をかけました。少なくとも雪のせいでドアが開かない、なんてことは無くなるでしょう。


「ただいま」


 誰もいない、冷え切った部屋に声が響きます。ロイは()()()に薪を入れ、もう一度火の魔法を暖炉にかけました。


「無事に夜を越せればいいんだけどな……」


 そんなことを考えながら、椅子に腰かけて浅い眠りにつきました。

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