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挙式

「えっ!」

ルルドはものすごくドキッとした。予想外の問い過ぎる。

慌てて次の言葉を口にする。

「当然!」


とはいえ、一瞬、動揺のために間が開いていた。

アイシャはルルドの返事に、悲しそうに目を伏せた。


えっ!


ルルドは相当に焦った。

「アイシャちゃんが好きだよ! リュイスちゃんのことは、いやもう、だって、結婚して子どももいるだろ」

「結婚してなかったら、リュイスお姉様が、良かった?」


恐ろしい事を言うんだな、女の子って!


「いやもう昔、ずーっと昔、失恋で終わったから! 僕は今に生きてるから! 今はアイシャちゃんだから!」

ムロイみたいな調子の良い言い方になった気がする。しかしここは分かってもらわなければ大問題だ。


「絶対、絶対。僕、こんな可愛い子に好きだって言って貰えて幸せだから!」


身を乗り出して必死で幸せを強調すると、悔しそうに疑わしそうにしていたアイシャが、途中でホッと表情を緩めた。


信じてくれたらしい。


恐ろしいな。


でもそうか、ルルドの初恋はリュイスだと、アイシャも知っていたわけだ。


物凄く驚いた。


しっかり、好きだって言っていかないと危ないかもしれない。とルルドは思った。

それが、ルルドが幸せになる条件のようにすら思える。


「良かった」

と回復してくれた様子のアイシャが嬉しそうだ。


ルルドもホッとする。

「アイシャちゃんと一緒に違う場所にいけるのが、楽しみだし嬉しいよ。あ、でもできれば空の船が行けるところが良い。仕事もあるから」


アイシャの瞳が喜びで輝く。

「うん! ルルドくんと一緒で私も嬉しい! 絶対絶対、お嫁さんにしてね!」

「うん。約束だ」


飛びつくように抱き付いてきたアイシャを、ルルドは受け止める。

何度も確認されるたびに、きちんと答えようと改めて思う。


とはいえ、きっとすぐ結婚はない。

アイシャの父が怒るだろうし、8歳7ヶ月差を埋めるには早すぎる。


長い恋人期間になりそうだ。

大丈夫かな。ルルドの方が捨てられないか心配になってくる。

コツコツと、アイシャが好きだ、と伝えた方が良い気がする。


互いにとって、最高で最後の恋になって欲しい。


***


3年と半年後。

空から次々と、空の船が降りてくる。

傍に大きな家が建っている湖を船が囲む。そんな数。


船から降りた人たちが湖に向かう。

湖の中央には、島があって、歩いていける。そこに遺跡の入り口がある。

とはいえ、多くは湖の淵に横並びに建っている建物に入っていく。


建物に入って、聞いていた通りに用意されている料理を楽しみながら、大勢が中央の島から主役が現れるのを待っている。


***


クロルとリュイス夫妻には、アイシャの布を売って貰った。

クロルとリュイス夫妻は、その売り上げのお金と、他の国の見事な品々を家に持ってきた。


アイシャは母親たち、ドルノやノルラともそれを見て、リュイスがオススメしてくれたという新しいドレスを買った。美しい布はベールに。アイシャの母は刺繍をした。


余談だが、家族中が、クロルとリュイス夫婦の持ち込んできた品々から買い物をした。

母たちへと父たちから、母たちも父たちへと購入した。

ディアンとドルノ、イーシスとノルラも同じだ。彼らもすっかり夫婦である。

イーシスとノルラには男の双子が生まれていて、ディアンとドルノは女の子が生まれている。


ルルドとアイシャは、結婚する日を大分前に決めたので、色々準備万端のはず。

ただ、仲良くなった人すべてに来てもらいたいと思った結果、かなりの大人数になった。


ドルド国での幅広い年代の友達は勿論、トンボの国からも5人そろって来てくれる。酒場のオヤジと、結局勇者でなくて正義の怪盗らしい、美人クライスとイケメンムロイも。

そして、ルルドたちがこの国に来る時に大変世話になり、ディアンとは仲間になった冒険者たち。

トンボの国の後に行ってみた国は5つで、交流したり、色々教えあった仲間たち。


イーシスとノルラが、何人だって大丈夫だ、湖のフチの建物は多いから、と言ってくれた。料理担当をしてくれるのだ。

便利な道具もたくさんあるし、と動じた様子がないので安心した。

頼もしい。さすが人気料理店の名物夫婦。


ただ、外国を周り続けているクロルとリュイス夫婦からの案で、多くの部屋の中央に料理と菓子を置いて、皆に欲しいものを取ってもらうことになった。大勢に対応できる形式だからだ。


貴重な食材を勇者ディアンがとってきてくれた。

イーシスに教えられ、きちんと処理をした状態で届けてくれるそうだ。役に立てて嬉しいとディアンは言う。

薬草や野菜は、皆で家のそばに作っている畑から使う。

量が全く足りないところを、ルルドの大勢の友達も毎日のように、食材を届けに来てくれた。皆食べる事と飲むことが大好きなので、良いものを知っていて、厳選したと言いながら持って来てくれる。


これほどの人数、全員に楽しい気持ちになってもらいたい。

ルルドとアイシャは相談して、アイシャが演出の案を考えることになった。


いろいろありつつ、今日が、結婚すると決めた日。

結婚式だ。


ルルドは25歳半ば、アイシャは17歳を超えた。

お祝いの酒を皆と一緒に飲みたい、というアイシャの希望によるものだ。


式は、湖の底のホールで誓い合って、ルルドとアイシャだけでダンスをする。

アイシャはあの場所を大変気に入っていて、ルルドと躍った回数をきちんと覚えているぐらいである。物語に出てくる登場人物の気分になれるのが良いとかアイシャ本人は言っている。

ルルドは希望を叶えたいし、可愛い願いだなと思っている。できることは全てしよう。


珍しく二つの家族が全員集合。

ルルドとアイシャ以外の夫婦には皆子どもが生まれていて賑やかだ。


ぬいぐるみたちも手伝ってくれる。

例えばルルドと一番の仲良しの黄色い鳥のぬいぐるみキイロちゃんは嬉しそうにあたりを走り回っている。

ディアンが勇者の旅にも連れて回っているぬいぐるみ白いトラのトピィはディアンとドルノの間に生まれた子どもの世話だ。


結婚式。

ホール、皆の前で夫婦として生きることを誓い合う。

この場にいるのは家族とぬいぐるみたちだけだが、皆が手を叩いたり歓声を上げる。


ルルドとアイシャで、仲良く記念のダンスを踊った。

たまにアイシャを持ち上げると、見事な刺繍の施されたアイシャの衣装がフワリと舞う。

アイシャ自身が飛び切り嬉しそうでルルドも幸せ。


さて、集まって待ってくれている皆のところに向かう時間だ。


小さな頃のように、皆で梯子を順番に昇って、ここ専用の空の船に乗り込んだ。

今日は運転を、ぬいぐるみのクマが担当してくれる。


湖の底から上昇して、水中に、そして空中に。


湖の傍の建物で待ち構えていた人たちが、湖から現れた船に歓声を上げる。


「用意は良いか」

と言ったのは兄クロルだ。


「あぁ、頼むよ」

とルルドは答えた。


「皆で行くよ、1、2、3、せーの!」

ディアンの掛け声に、男性陣が魔力を振るう。


空に浮かぶ船から、光の花が打ちあがった。

アドミリード家の新しい発明品であり、ルルドがアイシャと一緒に作ろうと約束した道具。


魔法のような花では無いけれど、現れる美しい文様は、あの魔法のように皆を魅了する。見ていて楽しさがこみ上げる。


ちなみに魔力で打ち上げるが、父たちの道具と違うのは、作る作業の中に魔力を必要としない部分が多い事だ。特に、文様になる部分。

つまり、作りたいなら女性陣でも手腕を発揮できる。


この日のために作り上げたのは3つ。


1つ目に皆が感嘆し、消えたところで2つめを。アイシャが一生懸命デザインを考えて、ルルドとアイシャだけで作り上げたもの。


最後に、3つめ。1つ目がアドミリード家ばかりで作ったのに対して、こちらはアイシャの家族だけで作ってみたものだ。

単に途中からそうなっただけである。後付けの理由としては、両家がルルドとアイシャでさらに結びつきを強くした、という表現だ、とかなんとか。


建物の窓から空を見て、皆が驚き歓声を上げているのが分かる。


ぬいぐるみのクマの運転が運転する船から、ルルドたちは湖の傍の建物に飛び移った。

ルルドに関してはアイシャを抱き上げた状態で飛び移ったので、皆がまた歓声を上げた。


勇者とお姫様! というヤジのような声を誰かが上げて、皆が楽しそうに囃し立てる。

アイシャちゃん可愛い! と黄色い声を上げたのは、トンボの国からの女の子だ。目を輝かせて頬まで染めている。大好評。


ルルドとアイシャで、多くの部屋を周り、挨拶をさせてもらう。

皆、すでに食事中。イーシスが減りを確認して動き出す。


アイシャの母が、頼まれたようで、ニコニコしながら歌い始めた。

ルルドの母は、孫たちに手を引っ張られて、自分たちも食事をとる事にしたようだ。


ルルドの父は、ルルドが他の国で仲良くなった人たちと酒を飲み始めた。

アイシャの父は、最後の娘の嫁入りに明らかに泣きそうなのを、客に肩を叩かれて祝われている。


兄クロルは商売での知り合いも多い。いろんな人から声をかけられている。

リュイスもクロルと同じ様子。新しい品物を知っているので女性から人気のようだ。


ディアンは勇者仲間と情報交換し始めた。真面目だ。

ドルノの方も、仕事上の相談を上の世代の人たちとし始めた。真面目か。


イーシスは料理担当で働いてくれている。

ノルラも菓子が美味しいと女性たちに声をかけられて嬉しそうに対応している。


なんて賑やかなんだろう。


そして、いろんな人たちと知り合ったのに、自分たちの家族は結局それぞれ互いの家族に両想いの相手を見つけたのか。

世界が狭いようで、狭いなんてはずはない。


隣に立つアイシャがルルドを見上げて笑っている。


ほっぺたをくすぐってみる。

キャア、もぅ! とはしゃいだ声も嬉しそうだ。


僕は幸せだ、とルルドは改めて思った。


そして奇跡で物凄い事に、今日も明日も続くのだ。


あぁ、幸せだ、とルルドが思わずつぶやくと、私もよ、とアイシャも言った。



***

***

***



ちなみに、ルルドとアイシャの結婚式は評判になった。

聞かれるままに、アイシャが友人に嬉しそうに、湖の底の部屋で誓いと記念のダンスをした、と話した影響は大きそうだ。

その結果、いろいろあって、アイシャは湖の建物を使った結婚式をする仕事をすることになった。次々と友人から頼まれ続けたからだ。


なお、式のための色々なものを仕入れに、兄のクロルとリュイスも協力してくれる。


イーシスとノルラは料理担当。お客さんが増えて喜んでいる。


勇者ディアンはあまりアイシャの仕事とは関わらないが、ドルノはお金の計算を見てくれるのでとても助かる。


父たちは道具を作ってくれる。


母たちも手伝ってくれる。


ルルドは、アイシャのお客さんを船で迎えに行くことも多い。違う国の人も多いからだ。


ルルド自身の仕事については、もちろん続いている。家の側に着陸させた船で、改良や修理。


そしてアイシャは、なかなか楽しそうに動いている。


アイシャ自身が服をデザインしてみたり。色々試しながら出来ることが増えるのを喜ぶ彼女が見れるのは、ルルドにとって幸せだ。


***


年に一度、ルルドとアイシャが結婚式をした日に、湖に光の花を打ち上げるのが恒例になった。

見に集まってくる人も多い。


年々、空に広がる紋様は工夫されて美しさを増す。


一応、作った家の魔力がある人が打ち上げるルール。


今年は、アイシャが子どもと作った初めての光の花を打ち上げる。


どんなデザインかは、ルルドには当日まで秘密だという。楽しみにして見て欲しいということだ。


今日も感嘆の声を上げる。愛してやまない家族と共に。

 

 

おわり

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