魔装使いの少女
男の遺体を簡易に埋葬してから、俺は再び荷馬を引いて、リンドバーグの街へと戻った。
ちょうど日が沈みきる直前ぐらいに、街の門にたどり着く。
門番とはもはや顔なじみなので、挨拶を交わして街へと入ろうと思ったが、さすがに呼び止められた。
「クルスお前、さっき村に帰るって、出て行ったよな?」
「ああ、そのつもりだったんだけどな。ちょっと野暮用ができちまって」
「そうか。……ところでお前、その腕輪、すげぇ高そうだな。銀製か? さっきそんなもん付けてたか?」
門番のノルドが、俺の右腕にはめられた腕輪に気づき、聞いてくる。
……このボロ服の農夫が、こんな高価そうな腕輪なんか身につけていたら、そりゃあ目立つよな。
「いや、これが野暮用の正体なんだよ。王都に届けろって言われた」
「はあ? なんだそりゃ?」
ここまで話が進んでしまったら、全部話さざるを得なくなる。
俺は先ほどの出来事を、門番のノルドに洗いざらい話した。
「魔装『ゴッドナイト』……本当にそう言ったのか、その男!?」
ノルドは俺の腕にはまった腕輪をまじまじと見ながら、俺に繰り返し聞いてくる。
「ああ。何なら手に取って見るか?」
俺は自分の腕にはまった腕輪を、外して、ノルドに見せようとする。
だが――
「……あれ? 外れねぇ」
引っ張っても、押しても揺らしても、腕輪が腕から外れない。
まるで腕と一体化してしまったかのように、びくともしない。
「外れない? そんなことあんのか? ま、まあいい。それよりちょっと待ってろ。その話、俺には手に負えそうにない。お偉いさんに連絡してくる」
そう言ってノルドは、街の奥の方へと走って行ってしまった。
「おい! お前がいなくなったら、門番どうするんだよ!」
「すぐ戻る! 代わりにやっといてくれ!」
いいのかよ、そんなんで……。
俺はあきれながらも、少しの間、ノルドの見よう見まねで門番業務を引き継いだのだった。
どう見ても農夫な俺がやっているもんだから、不審なことこの上なかった。
しばらくするとノルドは、一人の少女を連れて戻ってきた。
完全に日が暮れて、夜の帳が下りた頃だった。
ノルドに連れられた少女、歳の頃は多分、十七か十八か――まあだいたい俺と同じか、それよりちょい上ぐらいだろう。
銀髪をショートカットにした、冒険者風の身なりの少女だった。
顔立ちは整っているが、どこかボーイッシュな雰囲気があり、衣服越しのほのかに膨らんだ胸がなければ、美少年だと勘違いしたかもしれない。
「ノルドお前、お偉いさんを呼んでくるって言ってたよな?」
俺は第一声、ノルドにジト目でそう言ってやった。
厳つい兵士長とか、オシャレな髭の貴族のおっさんでも来るのかと思っていたから、拍子抜けしてしまった。
だがその俺のツッコミには、ノルドではなく、少女が前に出て答える。
「言いたいことは分かるけどね。ボクは代理だよ。ついてきて」
銀髪の少女はそう言って、俺の腕輪にちらと視線をやってから、きびすを返し、街の中に向かって歩いて行く。
一方ノルドが、俺から門番業務を変わり際、そっと耳打ちしてくる。
「お偉いさんと仲の良い冒険者だそうだ。あんなナリで、結構な有名人らしいぜ」
そう言って、俺の背中を叩いて来る。
それに押されるように街の中に入った俺は、仕方なしに少女の後について行くことにする。
少女はそんな俺を振り返って見ると、すすすっと俺の方に寄ってくる。
そして俺の真横について歩調を合わせると、声をかけてきた。
「最初に話を聞いたときには耳を疑ったけど、実際にそうして魔装器を身につけているところを見ると、あながちオオボラというわけでもなさそうだね」
その少女の言い分に、俺は少しムッとする。
「ホラって、そんなウソついてどうするんだよ」
「まあ、確かにね。でも、それだけ信じられない内容だっていうことだよ、キミの言っていることは。――えっと、キミ、名前は?」
「クルスだ」
「クルスね。ボクはトニア。見ての通りの冒険者だよ。ただし――ボクも魔装使いだけどね」
そう言って少女――トニアは、自分の右腕を俺に見せる。
そこには、俺が身につけているのと似ているが、少し違う形状の銀の腕輪がはめられていた。
少し驚いたが、なるほどとも思った。
彼女も魔装というものの使い手ならば、魔装という秘宝の話で、お偉いさんとの間にこんな少女が出てくるのもうなずける。
「魔装使い……その魔装って結局、何なんだ?」
「え……? あ、ああそっか、何も知らないで使ったっていう話だったっけ。……うーん、魔装が何か、かぁ。なんて説明したらいいんだろうなぁ……」
トニアは隣を歩きながら、あごに手を当てて、思案顔をする。
「まあ、とりあえず言えるのは、魔装っていうのは、使用者の力を増幅してくれる魔道具だっていうことだね。合言葉を唱えると、一時的に身体能力や魔力なんかが大幅にアップした『着装状態』になれる。高位の魔装なら、まさに人間離れした能力を持つことになるね――ああ、そこそこ。そこが市長の屋敷だよ」
説明を聞きながら夜の街中を歩いていたら、トニアが一件の大きな屋敷を指さした。
トニアに連れられ、俺はその中へと入ってゆく。




