不条理
それから俺は、とにかくがむしゃらに戦った。
何体の魔神を切り倒したか分からないし、その間に魔神の攻撃を何回受けたかも分からない。
十の魔神を倒し、十の傷を受けたぐらいまでは数えていたが、やがてバカバカしくなってやめてしまった。
ただ漠然と、襲いかかってくる魔神を切り倒しては、次の魔神の相手をする。
襲いかかってくる相手がいなくなったら、近くにいる味方の加勢に回り、また魔神を切り倒す。
しかし、魔装というのは、疲労までをも無視できるようなものではないらしい。
しばらくがむしゃらに戦っていた俺は、やがて疲労困憊となり、頭も回らなくなってきた。
それに、魔神の攻撃で受けたダメージもバカにならなくなってきた。
満身創痍というほどではないにせよ、全身だいぶボロボロの状態だった。
でもそれでも、そうであっても、俺は戦い続けた。
疲労しきっていてなお、俺の戦力は桁外れのようで、その辺の魔装使いなんかよりも、よっぽど多くの魔神を倒し続けた。
その途中で、トニアの声や、フェティスの声が聞こえた気もする。
でも、彼女らが何を言っていたかは、よく覚えていない。
俺を心配する声だったような気もするし、賞賛するような言葉だった気もする。
そうして、俺は惰性で剣を振りながら――どうして自分はこんなことをしているのだろうと、ふと、そう思い始めた。
俺には憧れがあった。
英雄になりたい、英雄物語の主人公になりたいという憧れ。
でも、憧れしかなかった。
俺には憧れしかなかった。
だから――そろそろ、剣を振るのをやめてもいいんじゃないか。
そう思い始めた。
これだけやれば、十分だろう。
あとはほかの連中が、どうにかすればいい。
俺はもう、これだけやったんだから。
もう疲れた。
そろそろ休もう。
そう思っていた矢先――俺は、その光景に出遭ってしまった。
「か、はっ……!」
それは、一人の騎士だった。
名前は、確か――そう、アランとかいう。
その騎士が、八つ手の魔神の鋭い爪を使った手刀の一突きで、心臓を穿たれていた。
彼が着た板金鎧など、容易く貫かれて。
「あ……」
呆然とする俺の前に、その騎士の体が無造作に打ち棄てられる。
俺は何か、叫び声を上げたかもしれないし、怒りの声を上げたかもしれない。
とにかく、襲いかかってくる八つ手の魔神を、一刀のもとに斬り捨てた。
そいつはすぐに黒いもやになって消えた。
取るに足らない相手。
なのに――
「――おい、アラン! 返事しろよ! おい!」
俺は倒れた騎士のもとにしゃがみ込んで、必死に声をかけた。
本当はこんなことをしている場合じゃない。
こんなことをしている暇があったら、一体でも多くの魔神を倒すべきだ。
それができるのは、俺だけなんだから。
でも――
「平民……どうして……」
死にかけの騎士が、血に染まった手を、俺の胸元へと伸ばしてくる。
その手は、俺の胸ぐらをつかみたいようだったが、小手に覆われた彼の震える手には、そんな力は残っていない。
俺は騎士のフルフェイスの兜に手を向けて、その兜のフェイスマスクを上げる。
くすんだ銀髪のその騎士の顔は、涙に濡れていた。
騎士は俺に向け、弱々しくその口を開く。
「くそっ……どうして、お前なんだ、クルス…………オレと、お前……一体、何が違ったんだ…………オレの、何が悪かったんだよ…………」
言われている意味が、分からなかった。
どうしてとか、何がとか言われても、ただただ困るしかなかった。
「なあ……答えてくれ、クルス……オレの、努力が足りなかったのか……? だからオレは……お前みたいに、なれなかったのか……?」
俺は我知らず、首を横に振っていた。
フェティスが以前、そうである旨のことを言っていたのを思い出したが――あのときああ言った彼女の真意は分からないが、でもそれは、違うと思った。
だって、そんなのは――ただの、運だ。
俺が魔装『ゴッドナイト』を手に入れたのも、俺の魔装適性とやらが人並み外れて高いのであろうということも、俺が努力をして得た結果なんかじゃない。
努力したら、必ず報われるわけじゃない。
努力したら、必ず望む結果が得られるわけじゃない。
結果を運ぶのは――力だ。
力は、努力によって得られることもあるが、それ以外の何かによって得られることもある。
そして、その「それ以外の何か」がもたらす力が強大であれば、結果を大きく左右するのは、その力の有無になる。
ただ、それだけの話で――
「クルス…………なんで、俺は……こうなっちまったんだよ……」
アランは最後にそう言い残して、息を引き取った。
俺は、何も言ってやることができなかった。
そしてただただ、涙があふれてきた。
「うっ、ううっ……うわああああああああっ!」
俺は、鉄の鎧に包まれた冷たい騎士の亡骸を腕に抱え、泣いた。
戦いは、もうすぐ人間の勝利で終わろうとしているように見えた。
残る魔神たちの数は少なく、人間たちはそれを圧倒的多数の兵力で取り囲み、慎重にダメージを与えてゆく。
――でもそんな中、空には徐々に、暗雲が立ちこめ始めていた。
それがまるで、何かの予兆であるかのように。




