抗議
「納得いきません、フェティス団長!」
午前中の訓練を終え、昼食を取った後の午後。
王都近隣の村の近くに出現したというワイバーンの討伐を命じられたアランは、またもや団長室を訪れ、その執務机を叩いていた。
俺はというと、そのアランの隣に立って様子見だ。
ちなみに、午前の訓練で受けたいくつもの打撲傷は、王国騎士団付きの治癒術士に治癒魔法をかけてもらったおかげで、今は痛みも消え、あざも残っていなかった。
一方、机の向こう側では、騎士団長のフェティスが気にした風もなく、羽根ペンで羊皮紙に書き物をしていた。
そして彼女は、そのまま顔を上げることもなく、アランに言葉を返す。
「――一応聞いておくけど、何が気に入らないの?」
「決まっています、今回の討伐計画の派遣戦力に関してです! 騎士がオレ一人と、兵士が四人――ワイバーン討伐のための戦力としては、あまりにも少なすぎます。通常、最低でもこの二倍……いや、兵の損害を最小限に抑えるには、この三倍から四倍の戦力は必要です」
そう言うアランに、フェティスは「はぁ」とため息をついて、顔を上げる。
「あのねアラン、あなたわざと一人、戦力計算から外してるでしょ?」
フェティスにそう言われると、アランはぐっと言葉を詰まらせる。
「騎士ならもう一人、クルスを配属したでしょ。それにクルスがいるんだから、派遣戦力としては十分すぎるぐらいよ」
「ですが……こいつはただの平民で、素人です。信用できません。こんなやつを戦力として扱うわけには――」
「却下。アラン、あなたももう一人前の騎士なんだから、そんな子どもみたいなことばっかり言ってないで、少しは大人になりなさいな」
「ぐっ……!」
アランはなおも何かを言いたそうにしていたが、言葉が見つからなかったのか、そこで口をつぐむ。
そして拗ねたようにきびすを返し、「分かりました。失礼しました!」と言って、ずかずかと団長室を出て行った。
バタン、と強く部屋の扉が閉められると、部屋に残ったのは、執務机の前に立った俺と、その向こう側に座ったフェティス騎士団長だけになる。
フェティスは事務仕事に疲れたのか、軽く伸びをしつつ、俺にほほえみかけてくる。
「もう、甘えちゃって、困ったものよね。悪いけどクルス、アランのことサポートしてもらえないかな? 私、あなたには期待してるの」
そうおだててくるフェティスだが――納得いっていないのは、アランばかりではない。
俺はフェティスに、それを切り出す。
「フェティス団長、一つ聞いていいっすか」
「別に、無理に敬語使わなくてもいいわよ。――で、なぁに?」
「そっか、それじゃ……なんでフェティス団長は、俺とあいつ――アランを組ませようとするんだ?」
俺がそう聞くと、フェティスはあははっと笑いつつ答える。
「んー、そうしたほうがいいっていう女の勘……っていうのじゃダメ?」
「ダメ。俺、結構あいつにムカついてる」
「あらら、そう? そこはこう、クルスの大草原のような広い心で、包み込んであげてほしいなー、なんて」
……ちっ、おだて上手だな、この人。
さっきもそうだけど、うまいこと、こっちの自尊心をくすぐりにくる。
「……フェティス団長、人を使うのがうまいな」
「まあ、それはね。私の仕事の半分は、人を使うことだから」
「騎士団長って、もっと背中で人を引っ張るみたいなやり方するのかと思ってた」
「私にそういうのが無理なの、分かるでしょ? 私にやれるやり方でやるしかないの」
「そっか。……それなら、思惑に乗せられてやってもいいけどさ。でも我慢の限界はあるからな」
「ん、了解。もうヤダって思ったら、また言いに来て」
こう言われれば、もうちょっと我慢してみるかという気にもなってくる。
本気でどうしても嫌になったら、もう無理って言えばいいという前提があれば、心持ちはだいぶ違う。
それに実際、アランの生身での戦闘技術は相当なもので、盗むべき技はたくさんあるように感じる。
あいつが指導者として不適切なら、こっちはそれを割り引いて、利用してやればいいんだ。




