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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第三章・安寧と秩序
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天狼の追跡戦

ルナと団長が他の部隊へと合流しに移動を始めた同時刻、東の地の丘にて。

一匹の青い大狼、天狼は高速で駆けていっては氷帝を追い続けていた。

やがては森林の地帯へと入っていき、氷帝は逃げながらも氷を発生させては天狼に攻撃を仕掛けていく。

しかし天狼の敏感な感性で攻撃を察知しては、前へ跳びながらも簡単に避けていく。

氷のつぶても地面から生やす氷の棘や茨も天狼にはかすりもせず、着実に氷帝との距離を詰めていた。

その気になれば全力で氷帝の首へとかじりつくこともできるが、それをしないのは警戒してるためだ。

接近しなければ攻撃はできないが、隙をついて接近しなければ体を凍らせられる恐れがある。

それだけは絶対に避けないといけない。

だから天狼は距離をじわじわと詰めては、氷帝への攻撃のチャンスを狙っていた。


「ふむふむ、なかなかに素早いのう。これではらちが明かないと言ったところか。それじゃあ少し策にはめてやろうではないか。場所もちょうどいいしな」


氷帝はにやりと悪意のある微笑みをしては、走る先の方向を少し変えた。

さっきまでは直線的な逃げだったが、少し旋回気味にして移動している。

これは明らかに何かを狙っているなと天狼は思うが、逆に攻撃のチャンスだと踏んで、あえて氷帝へ追いつくことはせずに距離を開けながら追跡した。

すると氷帝は森林で隠されていた洞窟へと入っていった。

洞窟の入口は人工的に木の扉が据え付けられているから、何かの簡易的な施設だと察しは着く。

ただの鉱山としてか、それとも魔物の休憩所か。

天狼もあとに続いて洞窟の中へと入っていった。

洞窟の中は窮屈で薄暗いが、人が三人は通れそうな通路のスペースではある。

それにランプを照明としていて、眼が全く効かないというわけでもない。


「氷帝は……奥へと、臭いが続いているな。それと……この臭いは誰か、いるようだな」


天狼は臭いを嗅ぎながら走って、地下へとなっている洞窟の奥へ進んでいった。

そして洞窟の一番奥へと辿り着こうとしたとき、天狼は更に奥にいる人影を見る。

目を凝らしてみると、その人影の正体は兵士の格好をした人間で、ここが隠し基地的な扱いなのだと天狼は理解した。

しかし、何だか変だ。

警戒しながら一番奥へと行くと広い空間へ出たのだが、嫌な臭いがする。

どういうわけか氷帝の姿が見当たらないだけではなく、この空間そのものが基地にしては異質だ。

武器や食料は置いてあるし、戦闘準備や休憩には最適な場所ではあるだろう。

それでもこの場所は生活感がありすぎると言えばいいのか、中途半端な印象を天狼は受けた。

乱雑な椅子、汚れた机とベッド、使い古された鎧に血が染み付いている武器、新鮮なのに中には混ざって腐敗している食料、痛みが激しくて穴が多く意味をほとんど成していない木の壁による住居スペースの分け方。

とりあえず天狼は氷帝の臭いを嗅ぎながらも、ここにいる複数人の兵士に話をかけた。


「おい、お前たち。今ここに魔物が来たはずだ。ずいぶんとのんびりしているようだが、見てないのか?」


天狼の偉そうな言葉を聞いては、声をかけられた兵士は下品に笑った。

人間の存亡の危機で作戦中のはずなのに、とても危機感や緊張している様子はない。

兵士がまるで、私には関係ありませんよと言わんばかりの顔だ。


「魔物ぉ?あー見たぜ、今ここでよ~。ほら、目の前に青い狼がいるじゃあねぇか!あっぎゃはははははは!」


冗談を言いながら馬鹿笑いをするだけで、天狼の質問に答える気が無いのがすぐに分かる。

軍でこのような不真面目な奴がいたのは天狼はこの目で見て来ていたが、この状況で馬鹿丸出しな言い方をするのはさすがにいなかった。

天狼は床に転がっている空の酒瓶を一瞥(いちべつ)しては、獲物を狩る目をして言った。


「そうか。見なかったならそれでいい。それで、もう一つ答えてもらうぞ、お前たち、何年ここに住んでいる?汚物にまみれた獣くさいぞ」


天狼が侮辱した言葉を吐いたとき、一人の兵士が槍を天狼にめがけて突如振ってきた。

しかし天狼はその攻撃を想定していたみたいで、いとも簡単に避けてしまう。

それから少し距離を取ったと思わせた瞬間、全速力で地面を蹴っては一人の兵士の首にナイフを突き刺して、兵士達の後ろへ移動していた。

そしてナイフを刺された兵士が首から血を噴いて倒れるとき、天狼は殺意を込めて吠える。


「お前たち、兵士の格好しているだけで兵士じゃないな?体に染み付いている臭いが何十年も野宿しているものだ。それもかなり不潔で、鼻が曲がりそうなほどに臭い。山賊か、そういう類のならず者だと臭いで分かる。どうして氷帝と手を組んでるか知らんが、下賎な思いで魔物を助                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              けるのは愚かと知れ!」


「う、うっせぇ!俺たちだって好きでやっているじゃねぇよ!一週間ほど前、ここがバレて従わないと全滅させるって脅されているんだよ!えぇぇい、三文芝居なんて七面倒臭(しちめんどうくさ)い!全員でこの狼をぶっ殺しちまうぞ!」


その叫びが開戦の合図となり、一斉に兵士の姿をしたゴロツキ達は武器を手に天狼へと襲いかかって来た。

数は多いが、天狼は星の騎士に匹敵する戦闘力とズバ抜けた俊敏性がある。

だからゴロツキなど、天狼の相手になるわけもない。

天狼はゴロツキの斬撃を避けると、ほぼ瞬間的な移動でゴロツキ達の武器が置いてある場所に姿を現した。

そしてそこで適当に剣を一本だけ口で咥えて拝借しては、天狼は駆け出した。

常人の目では追いつけぬ速さで一人のゴロツキの頭を切り落としては、次のゴロツキの胸を剣で刺し貫く。

その剣を刺したまま四本足でゴロツキを蹴り飛ばしては、天狼は次の獲物となる別のゴロツキへと視線を移した。

その視線を感じ取ったのか、狩る目を向けられたゴロツキは武器を構える。

でもそれでは天狼相手には遅すぎる行動だ。

視線を向けられたときに、がむしゃらでもいいから武器を振っていないと対処する猶予もない。

だから武器を構えたまま、そのゴロツキは天狼に首を牙で抉られることになる。


天狼は牙に付いた血を吐き捨てては、地面に着地するなり次へと駆け出す。

他のゴロツキの武器を手から奪っては他のゴロツキに刺し、同時にベルトからは複数本のナイフを宙へと投げ飛ばした。

そこからは、ゴロツキ達にとっては走る影しか視認することができなかった。

宙に七本はあったナイフが地面に落下するまでの数秒、地面に近づくほど落下していくナイフの本数は減っていた。

天狼が一本ナイフを咥えてゴロツキの急所に刺しては、次に移動しながらナイフをまた咥えてゴロツキに刺しているのを繰り返しているのだ。

気づけば、誰も視認することはないのだが、地面に落下するはずだったナイフは全て消えていた。

それはつまり、ナイフが全て落下する前に天狼がゴロツキに突き刺してしまっていたのだ。

これでゴロツキ全員は戦闘不能となり、動けないでいた。

絶命している者もいれば、痛みでうめき声をあげては動けない者もいる。


「これで全部か、余計な体力を使ってしまったな。それにしても、こんなので俺を仕留めるつもりだったのか?疲労しているとはいえ、幹部も浅はかなものだな」


天狼は一通り片付け終わるなり、すぐに臭いを嗅ぎ直しては氷帝の居場所を探った。

そしてここでようやく、天狼は本当の異常に気づく。

氷帝の臭いが出入り口への道の方が濃い。

隠し通路でも使って移動したのか、どこかで巻かれていたのか、ゴロツキの相手している間に逃げられたか。

どちらにしろ追わなければいけない。

天狼はすぐに出入り口の方へと戻っていった。

すると、出入り口の扉をみたとき氷帝の本当の狙いを天狼は知ることになる。

別に氷帝は兵士に変装させたゴロツキで、天狼を仕留めるつもりではなかったのだ。


「くそっ、これは……!」


天狼の視線の先には、分厚い氷で覆われた扉があった。

氷は大きく洞窟の出入り口を侵食していて、扉は氷の壁となっている。

もはや扉の数メートル先までは氷で完全に埋め尽くされていた。

これでは脱出不可能だ。

天狼が自分の行動に悔いているとき、すでに洞窟の外に出ていた氷帝は氷の塊となった出入り口を見て、冷酷に話すのだった。


「あっはっはっは、これであの青狼は身動きがとれまい。では私は王子と姫君を仕留めに行こうか。王様はブラッドウルフに任せているから、手練が来ない限り問題なく討ち倒すじゃろう。さて、勇者アテナとの戦闘は予想外じゃったが、妾の戦闘はここからじゃぞ。人間どもが」


そう言って氷帝は洞窟から離れていく。

洞窟内にいる天狼は、それを追うことも止めることもできない。

天狼はすぐに脱出しようと爆破の式術を使おうとしたが、すぐにその行為を思い止まる。

洞窟内の爆破は危険で、もしここしか出入り口無いなら下手に破壊するわけにもいかない。

しかし氷の厚さは異常な程で、溶けるの待っていたら丸一日は費やしそうだ。

火炎の式術も密閉された洞窟内で使ったらどうなるか分からない。

そのため打つ手が無くなってしまった天狼は舌打ちをして、氷で覆われた扉を眺めることしかできなかった。


「チッ…、穴でも掘った方が確実で早そうだ。こうも身動きが取れなくなったら、惨めな気分になるぜ………」


天狼は自分の浅はかさに腹を立てては、一度洞窟の奥へと戻っていくのだった。

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