山の道標
小さな山が、こんもりと在った。その山を覆う木々が、裾野にも広がり森となっている。遠目に見れば小さく感じたものの、近くへやってくるとまた印象が変わった。
街道を外れて、しばらく経っていた。森は人の入るような場所の気配ではない。しかし、密集する木々に空間が見受けられた。獣道があるようだ。伸びた草を踏み分けて、森を進む。
頭上の蔦を手で避けながら、バイスが前方を指差した。
「ほら、トルク君。」
バイスの足取りには迷いはない。指差された方を見れば、石柱があった。トルクよりは低い。示されなければ、草に覆われて見落としていた。
「……ああ、なるほど。何らかの気配がありますね。」
石柱に近付くと、森とは異なる気配を感じた。妖精や精霊がいるようなはっきりした感覚ではないが、ぼんやりと、精霊が居た後のような、残り香のような気配。それも近付いて分かるような微かな感覚だった。
「とりあえず、何かはありそうだね。」
バイスは草を掻き分け、先へと進む。
「いやしかし、迷いそうだ。」
そう苦笑しながらトルクを振り返った。トルクは腕を組んだ。そっと草を指先で避けながら、石柱に触れてみる。
模様が描いてある。ラカラの街の傍にある森の、そこにある祭壇に描かれているものと似ているような気がした。しかし、トルクの知っている形とはまた違う。祭られているものが違うからだろうか、それとも別の意味のものなのだろうか。
じっと見ているうちに、ふと顔を横へ向けた。
「あっちですね、バイスさん。」
木の間へと足を向ける。ガサガサと草が音を立てる。バイスの横をすり抜け、さらに先へと進んだ。
足元が上り坂になってきている。山の斜面を登り始めていた。
立派な幹の木の傍で立ち止まり、その横で絡み合っていた蔓に手を突っ込んだ。撫でるように擦りながら、隙間を開いていく。すると、その中に石柱が入り込んでいた。大きさも、形も先ほどの物とほぼ同じだ。
トルクの後ろから見たバイスも気付いた。
「へえ、よく気が付いたな。それに、この石もよく隠れたものだ。」
頷いて感心している。
「さっきのを見ているうちにピン、と来たんです。多分道標みたいなものなんでしょうね。あ、次のがあっちにありますよ。」
足元の草で転ばないよう気を付けながら、トルクは足を踏み出した。
「私には分からないな。精霊術士ならではの道標なのだろうか。」
バイスは首をかしげながら、トルクに続いた。




