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新人護衛騎士との出会い

よろしくお願いいたします。

「新しい護衛騎士ですって?」


不機嫌に返すと侍女がビクッと方を弾ませた。怯えた様子にさらに気分が悪くなる。


⋯⋯まあ怖がるのも無理ないわね。


ヘレナ・エルラメドはエルラメド家の厄介者である。プライドが高く高飛車な節があるためエルラメド家に仕える人々から遠巻きにされている。エルラメド家の当主にしてエルラメド連盟の盟主であるパトリックとその愛人であったクロエとの間に生まれ、8歳の時に正式にエルラメド家に入り、母は第二夫人となった。当主の母への偏愛は凄まじく、多大なる権力を持っていたが、3年前私が15歳だった時に正妻が亡くなってからはエルラメド家一番の権力を持っているに等しい。そんな母を持つ娘の機嫌を損ねるのが恐ろしいのだろう。


新人の侍女だから何も知らないのでしょうが、母は私の盾になってくれたことなどない。昔はよく抱きしめてくれていた母のことが大好きだった。

しかし、エルラメド家に入ってからは私のことを気にする素振りなど無くなってしまった。それなのに娘思いの母という印象を人々に植え付けている。

私には無い母の要領の良さに気分が沈ませていると扉からノック音とともに護衛騎士のリアム・エイベルの声が聞こえてきた。


「ヘレナ様失礼します」

「新しい護衛騎士って一体どういうこと!?」


部屋に入ってきたと同時に大声でリアムに問う。この男はリアム・エイベルで、私の護衛騎士である。リアムは苦笑いを浮かべ侍女を下がらせた後に答えた。


「俺も詳しいことは分からないんです。昨日の夜に急遽決まったそうで俺も朝方知ったところです」

「じゃああんたが護衛を辞めるから新しい護衛をつけるって訳じゃないのね?」


恐る恐るリアムへと問えば驚きとともに笑みを浮かべながら首を上下に振った。


「当然ですよ。ヘレナ様の護衛は任せられた任務ですから中途半端で責任を放棄するわけないじゃないですか」


その言葉を聞いて今まで抱えていた不快感が和らぐのを感じる。


「護衛などの人選は守護師団総隊長の総隊長が行っているので総隊長に聞い…たら」


せっかく気分が良くなったというのにその名を聞いたために台無しになった。


ジュリアン・ヒューズはエルラメド連盟に与する有力な家門であるヒュース家の次期当主であり腹違いの姉の婚約者であり、私の⋯⋯。


「顔色が悪いですよ!?大丈夫ですか?」


焦った顔をしながら私に駆け寄ってきたリアムを一蹴する。


「この後新しい護衛騎士との顔合わせになりますけど体調が優れないのならやめておきますか?」

「別にこのくらい大丈夫よ」


くだらないやり取りをしていると扉の方が騒がしくなった。


「どうやら新人が来たみたいですね」

「どんな奴か見てみようじゃない。どれぐらいで辞めるか賭ける?」

「なんでそんな不穏なこと言うんですか。やめてくださいね」


「失礼します。新しくヘレナ様の護衛になったタートレイです。入ってもよろしいでしょうか?」

「いいわよ、入りなさい」


扉が開き部屋に入ってきた新しい護衛は細身の体格で茶色の目と髪を持つよくいるような青年であった。人が良さそうな雰囲気を纏っており、いかにも平凡そうな容貌であったが、どことなく不気味さも感じる、なんともチグハグな人物だ。


「改めまして、タートレイと申します。本日よりヘレナ様の護衛の任につくことになりました。よろしくお願いいたします。」


柔和そうな笑みを浮かべながらこちらを向く姿に先程の不気味さは感じられなくなった。


気のせいだったのかしら?しかしまだ不信感は拭えない。何故なら私の捻くれた気性に嫌気がさしただの私が辞めさせただので護衛が入れ替えなら昔は多々あったが、私につく護衛は一人で二人以上になったことなどなかったからだ。だから新しい護衛がつくという言葉に血の気が引いた。数年ぶりに少しは信頼してもいいと思えるような人物

に出会えたと思ったから。頭の中がぐるぐるしているとタートレイが護衛になった経緯を話してきた。


「私は当主様直々の命令でお嬢様の護衛となりました」

「ジュリアンが選別した訳では無いってこと?」

「はい。総隊長も本日付でこのことを知ったと思います。それぐらい急なものでした」


ジュリアンはエルラメド家の護衛師団の采配をしている。そんなジュリアンでも知らない護衛着任なんてありえない。しかも当主直々の命令ですって?あの男はあんなに偏愛している女そっくりの容姿を持っているというのに私に対しては無関心だった。今までこちらに興味を持ったことがないくせに護衛を付けるだなんて……何か裏があるのかしら?

きっとタートレイのことを注意深く監視しておく必要がありそうねと思案しているとリアムが口を開いた。


「よろしくなタートレイ。先輩としてビシバシ鍛えてやる!」

「よろしくお願いします先輩。先輩の忍耐強さと誠実さはこの屋敷でも有名ですから先輩を見習って頑張ります」


どうやらリアムはタートレイの人あたりの良さを感じ取ったのか気に入っている様子である。しかも忍耐強いって遠回しに私のこと貶してるわよね?新しい護衛の警戒しておく必要があるけれど、今回リアムは使い物になりそうにないわね。


「ヘレナ様、そろそろ朝食にしましょう」


そうリアムが提案してきた。正直お腹がすいているけれど⋯。


「⋯食べたくないわ」

「昨日もあまり食事を召し上がらなかったではありませんか!今日という今日はしっかり食事をとっていただきますからね!」


そう言ってリアムは侍女に食事の準備をさせるために部屋を出ていった。

新しい護衛と二人きりにするだなんて本当に何を考えているのかしら!ほんとに使えないんだから!


「ヘレナ様さっき俺の事不気味だの警戒だの思ってましたよね?」


図星をつかれたことと、先程の人懐っこい雰囲気が崩れヘラヘラ態度に様変わりして動揺をしてしまったをいけないわヘレナ。弱い姿を見せてはダメ。弱い姿を見せれば相手は付け上がる。そんなこと二度とさせてはいけない。


「そんなに警戒しないでくださいよー。俺は嬉しいんですよ。俺の事不気味だって感じたんでしょ?」

「?⋯意味がわからないわ」

「分からなくていいですよ。そう感じたってことは俺と同類ってことですから」


本当に意味がわからない、この男の考えていることが。こちらの考えていることを知り尽くしているような受け答えと意味の分からない発言に辟易しているとリアムが食事を運んできた侍女と共に部屋へと入ってきた。手際よくテーブルに食事を並べたらそのまま侍女は部屋からさがった。


「人間は食事を取らなければ体調を崩してしまいます。少しでもいいので食べてくださいね」


リアムは必死に説得を試みるがヘレナの心は動かされずに椅子に座ったまま微動だにしない。


「食べたくないというのなら無理に食べさせる必要はないんじゃないですか?」


タートレイの発言がリアムの癪に触ったのか鋭い視線を向けていた。


「主人の健康を気遣うことも俺たち護衛として大切な心構えだぞ」


リアムがタートレイを叱責するとタートレイはすぐさま弁明をしてきた。


「そうですね。すみません言葉が足りませんでした。食べる気がないと言うなら食べる気を起こさせればいいと思いまして」


斜め上の発言にヘレナとリアムは呆気にとられる。


「というわけで一緒に厨房へ行きましょう!」

「何がというわけでなのよ!、私がそんなところに行くわけないでしょ!」



✶ ✶ ✶



結局、タートレイの行動はヘレナ様をおもってのことだの護衛騎士としての心構え指導しておくからだのとリアムから説得され厨房へと来てしまった。


「今から料理をしていくのでそこで見ていてください。直接料理している所を見ればお嬢様は安心して食事を取ることが出来ると思うので」

「あなたが料理をするの?」

「そうです」

「こんな所まで私に足を運ばせた挙句待たせるつもり?」

「はい。待っていてください」


そう言ってタートレイは手際よく料理をし始めた。白菜を切りますだの卵を溶きますだの料理の様子をいちいち説明している。それを聞き流しながら料理をしている所を見ているといつの間にか漂ってきた匂いに鼻腔をくすぐられる。


「夢中で見ていますけどそんなに面白いですか?」


私の様子が物珍しかったのかこちらみ向いて興味津々そうにリアムは尋ねてきた。


「料理なんて使用人の仕事を見る機会なんてほとんどないのだから少し珍しいと思っただけよ」

「少(・)し(・)ですか」


少し含みを感じるが言い返したくなったが逆に墓穴を掘りそうな予感がしたのでやめた。そうこうしている内にいつの間にかスープができていた。


「あまり食事を取っていないという事だったので胃に優しいスープを作りました。部屋までスープを運びますから召し上がってください。先輩、食器を運ぶのをお願いしてもいいですか?」


食器を運んできたタートレイを見たリアムはそれを承諾し、料理と食器を運ぶ護衛騎士二人とその主人という謎の構図ができてしまった。

部屋に着くとタートレイは早速食器にスープをよそい目の前に出してきた。タートレイの後ろで食べろとリアムがジェスチャーをしてきたことと、鼻腔をくすぐるスープに空腹を感じる。先程の料理をしている光景を思い浮かべながらスープに口をつけることにした。


「……美味しい」

「良かったです」


微笑むタートレイに少し居心地の悪さを感じたが胸が暖かくなったように感じた。きっとスープのおかげなのだろう。


「お嬢様の朝食の時間は9時頃のようなので私が毎朝8時に厨房で朝食を作りますので顔を出せば私が料理をしているところが見れるでしょう。それ以外にお腹がすくことがあったらその時に作ります」


いくら主人とはいえ、どうして初めて会った人間にそこまですることができるのか不思議でしょうがなかった。それでも悪くはないと思いながら、ふとタートレイの方をむくとさらに目を細め微笑んでいた。


そしてその目は少し光っているように見えた。







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