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裏切り者 10

「か、母さん、どうしてそんな所に……」

「お前にワープの魔法を見せて驚かせてやろうかと思ったんだけど、ちょっぴり失敗してこんな所に飛んじゃったんだよ~。どうしよ~トンフィ~」

 眉尻を下げて情けない顔をしているソフィーを、トンフィーは呆れて見上げた。

「どうしようって――もう一度魔法で降りられないの?」

 トンフィーが大声で問いかけると、ソフィーはいよいよ情けない顔になった。

「昔ならともかく、今じゃワープの魔法なんて何回も使えないよ~。助けておくれ~~~!」

 結局、近所の人達に手伝ってもらって何とかソフィーを下ろしたトンフィーは、それまでの感心はすっかり吹き飛んでしまったのだった。

 次の日、園でその事をメルメルに笑い話のようにしていると、横で何気なく二人の話を聞いていたペッコリーナ先生が急に怒り出した。

「何ですって! ソフィーがワープの魔法を使ったですって~?」

 そのままトンフィーの家まで飛んで行き、ベッドで寝ていたソフィーを怒鳴りつけたのだ。

「ソフィー! ワープの魔法を使ったって言うのは本当なの!」

 目を吊り上げたペッコリーナ先生を見て、ソフィーは布団を目の下まで引き上げて、弱々しい声で言い訳した。

「いや、あの……。ちょっと、可愛い息子に魔法の素晴らしさを教えてあげようかと……」

 もごもご言っているソフィーを、ギラリとペッコリーナ先生はにらんだ。

「魔法はそもそも体に負担がかかるのに、ましてやワープの魔法を使うなんて何考えているの! もしもがあったらどうするの! ちゃんと自分の体の事を考えなさい!」

「は、は~い……」

 ソフィーは情けない声で、結局布団の中にすっぽり隠れてしまった。ペッコリーナ先生はトンフィーに向かって言った。

「……ワープはとても高度な魔法なの。それだけに体への負担も大きいわ。――今度ソフィーが使おうとしたら絶対止めなくては駄目よ?」

 トンフィーは驚いて、こっくりと頷いたのだった。


 ――あれから、二度とソフィーはワープの魔法を使ってはいない。

 しかしあの時は知らなかったが、後に調べたところによると、ペッコリーナ先生の言う通りワープの魔法とはかなりレベルの高いもので、一級以上の資格を持つ魔法使いでないと使えない物なのだ。つまり、

(母さんは一級の資格を持つ魔法使い並みの力の持ち主と言える……)

 ――それなら……あるいは……。

「こんにちは坊や」

 トンフィーはハッとして立ち止まった。考え事をしてボーっと歩いているうちに、いつものあの「嫌な曲がり角」まで来ていたようだ。そして、その手前にはあの不気味な女が立っていた。

「いや、もうこんばんはに近いかねぇ……。今日はいつもと違って随分と遅かったねぇ?」

 トンフィーはゴクリと唾を飲み込んだ。

(いつも……)

 普段はもっと早く帰って来る事を何故知っているのか? 一瞬そう思ったが、特に口には出さなかった。黙って俯いていると、女はトンフィーの手にした本をすっと取り上げた。

「あ!」トンフィーは慌てて奪い返す。

 女はそんなトンフィーを見て、ニヤ~っと笑った。「命の石と死者の復活ねぇ……」

「――あ、あなたも悪魔の兵隊なんですか?」

 本を鞄にしまいながら女の方を見ないで問いかける。出来るだけさり気なく聞いたつもりだが、手の平にびっちょりと汗を掻いていた。

「そうさ……。悪魔の兵隊と言っても、まるで坊や達と変わりないだろう?」

 トンフィーは上から下まで女をじっくりと見る。――確かに。まるで普通の人間の様に見える。

「大丈夫だよ……。坊やの母さんもこんな風に復活出来るから」

「ど、どうしてそんな事が言えるんです? もしかしたら、ゾンビみたいになっちゃうかも知れないじゃないですか。――ほ、ほとんどの悪魔の兵隊がそうなんだから……。あなたみたいな悪魔の兵隊なんて、ま、まれなんだから」

 つっかえ、つっかえトンフィーが言うと、女はまたニヤ~っと笑った。

「坊やは良く勉強しているねぇ……。それなら、どういう者が私みたいな悪魔の兵隊になれるかも知っているんだろう?」

 トンフィーは上目遣いに女を見上げた。鞄越しに「命の石と死者の復活」の本に触れる。

「……強い力の持ち主?」

「クックックック……。本当に良く勉強しているねぇ。――そうさ。坊やの母さんは大丈夫。とても強い力の持ち主だからねぇ」

 満足そうに満面の笑みを浮かべている女をトンフィーは眉根を寄せて見つめる。

「どうして――」

「どうしてそんな事を知っているかって? ……この町の事は色々調べたからねぇ。そんな事より、まだ覚悟は決まらないのかい? 早くしないと、あんたの母さん――」女はそこで一呼吸置いてトンフィーに顔を近づけ、目をぐりっと見開いた。「死んじまうよ?」

 トンフィーは、またまたゴクリと唾を飲み込んだ。背中を、大量の汗が流れ落ちていくのを感じる。

「……あ、あと一か月しか保たないなんてあなたは言ったけど、そんなの嘘だ。昨日だって随分調子良くて――」

 トンフィーが俯きながら言うと、女はつまらなさそうな顔をした。

「急がないと手遅れになっちまうかも知れないよ? あんたが命の石を手に入れるには、ちぃと時間がかかるんだからねぇ……」

 女の言葉にトンフィーは顔を上げた。「……どういう事ですか?」

 女はフンッと鼻を鳴らした。

「貴重な石なんだよ、命の石は。そんな物をただであげるわけにはいかないじゃないか」

 トンフィーはぐっと顎を引いた。――嫌な予感がする。

「お、お金ですか?」

「クックックッ……。お金なんて私にとっちゃあ何の価値もありゃあしないんだよ。――そうじゃなくて、坊やに私の大切な仕事を手伝って貰いたいんだよ」

 女が気持ち悪い程の優しい声で言った。

「……仕事?」トンフィーは更に嫌な予感がした。

「実は、我が王に逆らって反乱を起こそうとする悪い連中がいてねぇ……。ちょっと困ってるんだよ」

「反乱?」トンフィーは首を傾げた。

「自分達の事をレジスタンスとかなんとか呼んでねぇ。国の各地に潜んで、何かと悪巧みをしているのさ」

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