魔王の役目 4
スタンピードをどうにか鎮圧することができた。
私とセイはゆっくりと休息を南東の砦で取らせてもらってから、事後処理が済んだノエイデス隊と、報告を携えたフォークさんとその部下さん数名と一緒に、結構な大所帯で現在のんびりと騎獣に乗って王都に向かっている。
4日ほど食べて寝るだけの怠惰な生活を繰り返したのに、セイの魔力はまだ半分ほどしか回復していない。魔王の魔力の器が底なしであるという事が良く分かった。魔王ではなくなった事が原因なのかセイは魔力の制御もしっくりこないらしく、今回は大事をとって転移魔法は使わずにのんびりと街道を王都へ向かって進んでいるのだ。
セイは魔王の代替わりがあった日から、なんと魔王の魔圧がすっかり消えてしまった。
これまでは周りに気を使って常にユニクロパーカーを目深に被り、何ならサングラスとマスクまでして全身を覆いつくして生活をしていたセイだけど、これからはそんな周囲への気遣いは無用だ。王都へ行く途中の街へ寄って、念願のセイとの街ブラも実現できた。今もセイは素顔を晒して、小虎ちゃんの上でのんびりと街道周辺を眺めている。セイの露になった美貌に、同行している女性隊員はもちろん、男性隊員までポーっとなっている。わかりますよ、セイは格好良いでしょう!
王都までの帰還をエンジョイしながらのんびりと進んでいたのだけど、一週間ほどの行程はそろそろ終わろうとしていた。
私達は隊列を組みながら、王都の正門をくぐり、王城へと真っ直ぐ繋がる大通りへと進んでいく。王都の人達が街道沿いに立ち、私達に手を振ってくれる。隊員さん達は愛想よく気さくに街道の人々に手を振っている。お兄ちゃんはクールにアイコンタクトを取り頷きながら、フォークさんは満面の笑顔で全方位に両手を振りながら凱旋パレードは進んでいく。
そんなお祝いムードの中、セイは私にベッタリ圧し掛かり、頭頂に顔を埋めている。小虎ちゃんに乗っている私とセイの異様な様子に、街道の人々も私達には手を振るのを躊躇っている。セイはファンサをする気が一ミリもない。その代わりと言ってはなんだけど、セイが万全の体調ではないため移動中は魔人フォームになっていたお爺ちゃん達がそのまま王都の大通りに入るや否や、割れんばかりの歓声に包まれた。巨大な神獣に跨った、伝説の双翼の姿に王都民は熱狂した。
未曽有の災害と成り得た今回のスタンピードの被害をほぼゼロに抑えられたのは、裏でスタンピードを操作し、最初にアルデヴェンネを消滅させたセイの力がとても大きい。
けれど南東の砦で防衛線を張り、スタンピードを防ぎ切ったノエイデス将軍、ブライト将軍、そして双翼の二人の活躍はとても分かりやすく、彼らの人気は今魔国中で爆発しているのだ。謎の白銀髪の青年の暗躍は、残念ながら分かりにくかったようだった。英雄になり損ねた形になったセイだったけど、もともと承認欲求がない人なので、今私の頭頂を吸うだけで満足している。
紙吹雪や花弁が舞う王都の大通りを抜けて、隊列はとうとう王城へたどり着いた。
あの日早朝に緊急招集されてから、2週間くらいしか経っていない。でも色々とみんなで頑張った激動の2週間だった。
王城の正門の前には、ブランパパや、居残りの幹部の皆さん、その他の職員達が出迎えに集まってくれていた。
「セヴェルカルム様、ご帰還をお待ちしておりました」
「うん」
「パパ、ただいま」
「ナツ、おかえり」
ブランパパが公の場所で、セイを名前で呼んだ。
セイが本当に魔王じゃなくなったんだなあと、実感した瞬間だった。
隊員の家族達も正門の前で待っていて、それぞれの家族が再会を喜んでいる。
ブランパパの後ろにトーコちゃんや製薬部のみんなもいたので、そちらに向かおうとしたら、物凄い勢いで私の前にカットインしてきた人が居た。
「トーコ!」
「カイト!良かった、無事で。怪我は」
「好きだ!俺と結婚してほしい!」
再会を喜び合う人達で賑わっていた場がシンと静まりかえった。
「初めて会った時からずっと好きだ。俺はトーコと結婚したい」
お兄ちゃんの突然の告白に、フリーズしていたトーコちゃんの大きな瞳からポロリと涙が転がり落ちた。
「そ、そんな事・・・、100年前にちゃんと言っとけよおお!!」
とうとうトーコちゃんは顔をくしゃくしゃにして泣き出してしまった。
お兄ちゃんは迷わずにトーコちゃんを力強く抱きしめた。
「ごめん、トーコ。好きだ。俺と結婚してくれるか」
「うん・・うん!」
トーコちゃんが結婚の申し入れをOKすると、周囲の人々から歓声と祝福の声が大きく上がった。
スタンピードの脅威を退けた英雄のプロポーズ現場を目撃した王都民は、その物語のような出来事を我先にと驚異の速さで広めていった。この時の出来事は、後に魔国中で人気の高い劇の演目の一つとなり、お兄ちゃんを長らく羞恥で悶えさせることとなる。
セイに言わせるとこの一件は、お兄ちゃんが深く考えず本能で動いて上手くいく良くある事例、との事だった。私も正直、想定外の脅威に命が危なかったお兄ちゃんの生還した勢いと盛り上がった雰囲気の末の力業に、トーコちゃんがまんまと呑まれたのではと思わなくもなかった。
けれど、公衆の面前でプロポーズに快諾したのはトーコちゃん自身だ。もうこうなっては、トーコちゃんは年貢を納めるしかないのだ。納める先はエイダお祖母ちゃんだ。
エイダお祖母ちゃんは腕まくりをする勢いで二人のお披露目会の準備を張り切った。
「やっぱり無理」、「私ではノエイデス家の嫁は無理」と、この期に及んで無駄な抵抗を示すトーコちゃんを、エイダお祖母ちゃんは鉄壁の淑女の笑顔で転がしまくり、お兄ちゃんはもちろん無抵抗で転がされた。
そして、一片の曇りもない良く晴れた日。
ノエイデス家の美しい庭園で、お兄ちゃんとトーコちゃんの素晴らしい結婚お披露目会が無事に開催されたのだった。
次回で最終回(予定)です。




