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イケメンを拾うと世界が変わる  作者: ろみ


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31/43

魔王の役目 3

「さっき確認したけど、魔獣の異常繁殖はちょうどこの先、俺とフォークの砦を挟んだ間に見られたから、このまま魔獣の群れを砦の方に追い込んでいくよ。虎と小虎は双翼の後ろに隠れてなさい」

 虎と小虎ちゃんが大人しくセイに従い、お爺ちゃん達の後ろに回って2匹とも伏せをした。セイはそれを確認してからおもむろに片手を森に向ける。

「奈津は一応、俺にそのまましがみ付いててね」

 それからセイは、何の予備動作もなくドン!と大きな音と衝撃破を生じさせた。深淵の森の安定感のある大樹すらビリビリと震えるほどの衝撃だ。けれども辺りは、何一つ破壊されることもなく元の姿を保っている。

「ウニャアン・・」

 小虎ちゃんが赤ちゃんみたいな高い声を出して、虎のお腹の下に顔を突っ込んでいた。尻尾はすっかり後ろ足の間に巻き込んでいる。虎は静かに目を見開き、セイが手を向けた方向を見据えていた。

しばらくすると、森の奥から騒がしい気配がこちらに近づいてくる。木々の間に見え隠れしながらこちらに近づいてくるのは、巨大な犬型、猫型、熊、猪といった種類が混在した魔獣の群れだった。

「ううむ、デカいな。それぞれ3メートル級以上か」

「フォーク隊とノエイデス隊だけでは、今回は荷が重いかな」

 ドッドお爺ちゃんと話しながら、セイはこちらに向かってくる魔獣の群れに対してもう一度衝撃破をドン!と放つ。

「グォアアアア!!」

 魔獣の群れは驚いて逃げまどい、元来た道を慌てて戻るものと、更に混乱してこちらに突進してくるものと二手に分かれる。こちらに向かってくる魔獣に、セイとトランお爺ちゃんがピンポイントで火の玉をぶつけると、今度は全ての魔獣達が元来た道へ引き返していく。

「よし、まずは様子を見ながら砦に追っていくから」

 虎と小虎ちゃんにそれぞれ分かれて、私達は砦に向かう魔獣の群れを追い始めた。しばらくは遠くに響く魔獣の鳴き声を聞きながら、私達は魔獣の後を追っていた。

「これは、まずいかもしれぬ」

 しばらく進むうちにドッドお爺ちゃんが呟いた。

「うむ・・・。あの時と似ておるな」

 トランお爺ちゃんも厳しい顔をして辺りを見回す。

 静謐な緑深い深淵の森は、大樹の幹が、苔むした地面が抉られて、スタート地点と比べるとだいぶ荒れた様相になっていた。そして、所々に巨大な魔獣の体の部位が散らばっている。その断面は、食い千切られたというよりは溶けたように紫にぬめる粘液で汚れていた。紫の粘液が付着している部分から薄く灰色の煙が上がっていて、何とも言えない嫌な匂いを発していた。

「虎、小虎、その紫の液に触れるでないぞ。鼻が溶けてはイカン」

 トランお爺ちゃんの注意に、興味深げにスンスンあちこち嗅いでいた小虎ちゃんはスススと虎の近くに寄る。

「先代よ。少し空から確認してもらえぬか。杞憂なら良いが、嫌な予感がする」

「わかった」

 ドッドお爺ちゃんの要請に応え、セイは私を抱えたまま再び深淵の森の上に飛び上がった。進行方向を見ると、大樹が揺れ、土煙が上がり、魔獣の群れが一方向に流れているのが確認できる。その流れの中、密集した大樹の一部が突然崩落したように消失した。消えた大樹と入れ替わるように、空に向かって紫色の液体の塊が勢いよく吹き上がった。同時に魔獣の群れから悲鳴のような咆哮があがる。

「何・・あれ」

 ゾワリと鳥肌が立つ。

 液体かと思われた紫色の物は、空中で形を変えて、巻き添えで空中に舞った魔獣達に手を伸ばすように形を変えた。魔獣達が成す術もなく紫の液体に飲み込まれていく。半透明の液体に取り込まれた魔獣達は、形を失いどんどん崩れていく。魔獣達を飲み込みながら再び紫の液体は深淵の森の中に沈んでいった。それからそう間を置かず、紫の液体は再び森の上に姿を現した。森の大樹を押し分け、押し上げ、なぎ倒し、姿を現したのは紫色にぬめる、熊の頭部を模したような異形のものだった。熊の頭部に見えはするが、紫色の濡れたような表面は安定せず、膨らんではへこみ、様々な大きさの牙や目玉が至る所から現れては埋もれていく。紫の異形から逃げるように、魔獣の群れはフォーク隊がいる砦のある方角へ突き進む。その魔獣達を緩慢な動作で紫の異形は追う。緩慢な動作とは言え、その巨体の為に進むスピードはかなり速い。

「紫の化け物が魔獣を飲み込んでどんどん肥大していってる。あれは何?」

 セイの報告にお爺ちゃん達が言葉を失った。

「それは、アルデヴェンネであろう。この世の中で最悪の災禍だ」

 トランお爺ちゃんの顔が強張っている。いつもひょうひょうと余裕の顔を崩さないお爺ちゃんの緊張した様子に、私の緊張も否応なしに高まる。

「それはどんなもの?」

「2000年前のスタンピードが発生した際に、初めて確認されたものだ。2000年前、アルデヴェンネの蹂躙により魔国は3分の一の国土を失い、人族はその半分が命を失った。アルデヴェンネは魔獣を飲み込み、融合し、際限なく肥大していく。そして魔獣と共に取り込んだ魔力が尽きるまで止まらぬ。アルデヴェンネの体液は全ての物を腐食させ、土地は長きに渡り植物が芽吹かなくなる」

「そんな、フォークさんとお兄ちゃん達がいる砦に向かってるよ!」

「そっか。まあどうにかしてみようか」

 私とお爺ちゃん達が軽く絶望しているその横で、セイだけがそんな事を言う。

「トランウィッシュ。アルデヴェンネに有効な攻撃はある?」

「ううむ。アルデヴェンネの体液が土に染み込む前に、森を焼き払うなどはしたが・・・。本体に攻撃するなど、思いつきもしなかったぞ。王都の城ほどの巨体が迫ってくるのだ。逃げるほかない」

「森を焼き払った後、土地は死ななかった?」

「うむ。すぐに森は新たに芽吹き、ゆっくり元の姿を取り戻していったな」

「じゃあ、高温でアルデヴェンネを一気に消滅させる」

 言いながらセイは私の両脇に手を入れて高く持ち上げる。

「俺と奈津を合わせたら、まだ俺の1.5人分の魔力がある。歴代魔王の中でも最高の魔力を持つこの俺の、最高出力の魔法をアルデヴェンネにご馳走してあげようか」

 セイが楽しそうに目をキラキラさせて私を見上げてくる。強がりでもハッタリでもない、セイはそれが出来ると言っている。

「死ぬ気は全くないよ。それに誰も死なせない。奈津、俺についてきてくれる?」

「もちろん、どこへでも!」

 セイが性急に私にキスをして、強く胸に抱き込む。

「奈津に出会わせてくれた神に、アーウェンと地球の神に感謝を」

「セイ、大好きだよ」

 お返しに私もセイの背中に両腕を回して、強く抱きしめる。

 私もアーウェンと、地球のたくさんいる神様に感謝を。

「虎と小虎、チェンジで。俺達は虎に乗ってアルデヴェンネより先に砦に向かう。双翼は俺の攻撃の方向に注意して、小虎と迂回しながら砦を目指して」

「相分かった!」

「小虎よ。怪我をせぬのがお主の一番の務めよ。気を付けながら母の後を追うぞ」

 私とセイが虎に乗り移って、小虎ちゃんが悲し気な鳴き声を上げた。それをお爺ちゃん達がなだめている。これから安全とは言えない道中なので、小虎ちゃんの事はお爺ちゃん達に任せて、私とセイと虎は先を急ぐことにした。

「虎。アルデヴェンネを追い越して、前方の砦に向かう。全速力で頼む」

「グルゥアアアアア!!」

 虎は気合十分。勢いよく目的地に向けて駆けだした。

「スタンピードの先鋒はもう砦に届いているかもしれない。想定よりも魔獣のサイズが大きかった。カイト達ならしばらく持ち堪えてくれると思うけど、長期戦は厳しい」

「虎、ごめん。急いで」

 虎は懸命にアルデヴェンネの後を追っている。その体液を避けながら最短距離を選んで進んでくれているけど、無傷では済まず、虎の前足は薄っすら紫に染まり、純白の毛皮に血が滲んでいる。

「ごめんね。お願い」

 虎が応えるように咆哮をあげる。

 そしてとうとう前方にアルデヴェンネを捉えた。歩く災禍はのたりのたりと、大樹を押しのけ、押し曲げ、紫の体液で地表を濡らしながら逃げ遅れた魔獣を取り込みつつ前に進んでいる。さっき空の上から見たときは、熊の頭の形をしていた。アルデヴェンネの頭部は、今は犬のような、猪のような、鼻が長い魔獣の形をとっている。空から確認した時よりもアルデヴェンネは明らかに大きくなっている。捕食した獣を象っているつもりなのか、不完全な魔獣を模した異形の化け物は歩みを止めず辺境の砦に向かっている。

「虎、アルデヴェンネを迂回。その前を走るスタンピードも無視していい。まずはカイト達がいる砦へ急げ」

「ガウルゥアア!!」

 スピードを落とさずに虎はアルデヴェンネを迂回し、前方を走るスタンピードに並走しつつ魔物達をどんどん追い越していく。

「見えた!砦!!」

 アルデヴェンネがみるみる後方に下がり、並走する魔獣達も追い越して、私達はとうとうフォークさんとお兄ちゃん達がいる砦に辿り着いた。

「一度カイト達と合流する」

 更に砦に近づくと、群れからはぐれて砦に辿り着いた魔獣数匹を3人一組で隊員さん達が攻撃している様子が見えた。あのカーキ色の隊服はフォークさんの部隊だ。スタンピードの先頭が辿り着いたら、ここはもっと激戦区になる。

 虎は砦の外壁に飛び上がった。砦の外壁はただの壁ではなく、外壁の上に幅広い通路が通されていた。

「陛下!!」

 そこにはちょうど陣頭指揮をとっていたフォークさんがいた。

「カイトは」

「今しがた、後方に御下がりいただきました。東よりこちらに向かう、30メートル級の異形の姿を確認いたしました。フォーク隊が時間を稼ぎます。陛下もノエイデス将軍と共に王都へ避難をお願いいたします」

「嫌だし」

「は?」

フォークさんの決死の覚悟の報連相を、セイは気の抜けた一言で切って捨てた。

「とりあえず、カイトを呼んで。俺がどうにかするし、誰も死なせないし。あと、俺はもう陛下じゃないし。クルムの治世の門出を血で汚したりできないでしょ。これは俺からクルムへのはなむけなんだからね」

「は、はい」

 セイに圧倒されながらもフォークさんは踵を返し、お兄ちゃんを呼びに走った。少しして、フォークさんと一緒にお兄ちゃんが外壁の上にやってくる。

「セヴェルカルム!ナツ!」

「カイト、今砦の外にいる隊員を全員下がらせて。これからアルデヴェンネの討伐を行う」

「ア、アルデヴェンネ・・・。あれが・・・」

「そうだよ。通常の部隊で歯が立つわけがない。犬死にさせるつもりもない。分かったらフォーク隊、さっさと下がれ」

「御意!」

 フォークさんは顔を引き締めて、弾かれたように階下に駆け下りていく。

「セヴェルカルム、策はあるのか」

「まあ、策というよりは、純粋に全力で魔法をぶつけるだけ」

「お前が魔国内における最高戦力だ。ここは任せるが、ナツを預かろう」

「お兄ちゃん。私、セイと行ってくるよ」

「ナツ!」

「お爺ちゃん達が言ってたよ。あれは最悪の災禍だって。2000年前に魔国の3分の1が無くなったんだって。このまま放っておいたら、真っ直ぐ王都に行っちゃうでしょ。だから、セイのお手伝いしてくるね。私に残っている魔力を全部セイに使ってもらう。セイが大丈夫って言ったら、大丈夫だから」

「・・・わかった。セヴェルカルム、思う事をやってくれ。だが、もしもの事があれば、お前達を回収して、全軍撤退だ。速やかに王都に避難指示を出すからな」

「もしもは無いよ。必ず奈津と二人で戻る。それより俺の攻撃が終わったら、討ち漏らしたスタンピードの掃討は2部隊に任せるよ」

「了解した」

「じゃあ、ちょっと行ってくる」

「お兄ちゃん、またね!」

 心配そうなお兄ちゃんに手を振って、私達は空中に再び舞い上がった。

 砦の外に散らばっていた隊員さん達が、こちらに戻ってくるのが見える。はぐれ魔獣が隊員さんを追ってくるけど、外壁に阻まれている。魔獣のサイズも小さめなので放っておいて大丈夫だろう。

 私達がやってきた方角を見ると、魔獣達の鳴き声と、移動に伴う土埃が深淵の森を不穏に揺らしている。そして深淵の森の上に大きく姿を現すほど巨大になったアルデヴェンネが、じりじりとこちらに向かってくるのが見える。

「よし、余力は考えないで全力を出すよ。奈津は俺にしっかり掴まっていて」

「わかった!」

 セイが右掌をアルデヴェンネに定める。

 セイの掌の前に白い光る球が生まれた。それは静かに大きくなっていく。セイが掌を真上に向けると、私達の頭上に移動した白い光は更にどんどんと大きくなっていく。まるでもう一つの大きな太陽のように、直視できないほどの強い光の玉が際限なく大きくなっていく。

「奈津がいなかったら、ここまで出来なかった。ありがとう」

 私の頭にセイがキスを一つ落とす。

 セイが軽いモーションで右手を前方に振り下ろした。

 ヒュンと小さな音と共に、視界の全てが白く染まる。私は堪らず目を瞑った。

 一瞬遅れて爆音が響き渡る。それから、飛ばされそうなほどの強風があとからやってきた。

 何も見えない中、セイが私を抱きしめる腕の力だけが唯一私達が無事でいる事の証に思えて、私はセイに必死でしがみ付いた。轟音と共に強風に嬲られるまま、しばらく空中に留まっていると、やがて段々と音と風が収まってきた。

「奈津、アルデヴェンネは消滅したよ」

「本当?」

 セイの言葉に私は固く閉じていた目をそっと開く。

「良かっ・・た・・・?」

 アルデヴェンネは欠片も残らず消滅したようだった。

 そして、砦からアルデヴェンネの進行方向に向かって、幅数百メートルの焦土が一直線に伸びている。深淵の森を突き抜けて、海にまでセイの魔法は達したのかもしれない。焦土の果ての地平線が薄っすら青く見えていた。アルデヴェンネと共に、地形が変わるほどに深淵の森も消滅してしまったかもしれない。

「アルデヴェンネの腐食液も一緒に焼き払えたから丁度良かったね」

 ちらりと後ろを見る。砦は無傷だ。巻き込まれた人もゼロ。きっと森は力強く再生していくはず。

「うん、良かった!」

 セイは緩やかに地面に向けて下降していった。私達の下では虎が待ち構えている。

「虎、良い子。頑張ってくれてありがとう」

 私達はふわりと虎の背の上に乗る。腐食液に触れた虎の前足の怪我が心配だったけど、セイが言うには一晩寝れば治るとの事。帰ったら虎にも小虎ちゃんにも沢山ブラッシングしてお礼をしないと。

「セヴェルカルム!ナツ!」

 お兄ちゃんと黒い隊服に身を包むノエイデス隊の皆さんが外壁の外に飛び出してくる。お兄ちゃんは背中に長剣を佩いていて、戦闘態勢に入っていた。

「無事で良かった!後は任せてくれ」

「うん、あと少し余力はある。双翼が到着するまで助力するよ」

 セイとお兄ちゃんが話している間も、地面から魔獣の大群が近づく振動が伝わってくる。

「セヴェルカルム。お前からいつもの魔圧を一切感じないぞ」

「そう?」

「ああ。だが魔力は変わりないだろう?」

「うーん。少しは魔力上限減るかもねぇ。今までの魔力量は魔王の恩恵だったのかもしれない」

「そうか。けれど、これから楽しみだ。お前とゆっくり、色々話したいことがある」

「じゃあ、帰ったらね」

 眼前まで大型の魔獣達が迫ってきていた。そしてセイとお兄ちゃんは会話を打ち切ると同時に、セイは高火力の火の玉で、お兄ちゃんは背後から引き抜いた長剣で目の前に迫るそれぞれの魔獣を一撃で倒した。

「おらぁ!フォーク隊!いい所を見せろ!ノエイデス隊に遅れを取るんじゃねーぞおおぉ!!」

 フォークさんの檄と共に、フォーク隊も外壁の外へ勢いよく飛び出してきた。

 ちょうどセイが作り出した一本の焦土の線を間に、左右に分かれてとうとうスタンピードの先頭が砦に到達した。そこからは砦の外壁を守る防衛戦となった。

 最大の脅威、アルデヴェンネが消え去ったとしても、この砦を突破されれば3メートルを超す巨大な魔獣達が街々を蹂躙しながら王都に迫ることになる。

 3人一組でどうにか一体の魔獣を倒しても、その魔獣を乗り越えてすぐさま次の巨体が隊員たちに迫る。一匹の魔獣に取り掛かっていると、その脇をすり抜けて別の魔獣が砦の外壁に体当たりをする。からくも城壁からの魔法攻撃で応戦をしながら、どうにかギリギリの所で防衛線を守っている。お兄ちゃんとセイ、フォークさんと、個人の大きな力はあるけれど、それを上回る数が次から次へと押し寄せてくる。セイも火球を次から次へと魔獣にぶつけているけど、顔色が見るからに悪くなっている。

「セイ、大丈夫?!」

「すごい。俺、生まれて初めて魔力切れを起こしそう」

 大丈夫じゃない!

 魔力切れになりそうと言いつつ、火力の勢いは衰えず一撃必中で5メートルを超える熊型魔獣を一人でセイは倒す。元魔王が無双をしているので、私達の周りには隊員さんが誰もいない。お兄ちゃんは遥か向こうで、セイと同じく無双状態だ。こちらには気付かない。セイは熊型魔獣を倒した後、額から顎まで流れる汗を拭う。汗だくになるセイなんて、見たことがない。

 もうセイが、限界かも!誰か!!

「皆の者!よくぞ持ち堪えた!初代魔王が配下、ウォーエンドッド!」

「同じく初代魔王が配下、トランウィッシュ!これより我ら助太刀いたす!」

「お爺ちゃん達―!!」

 これには戦場全体から歓声が上がった。

 虎に騎乗した私とセイの前にドスンと落ちてきたドッドお爺ちゃんは、右腕を振り切り突進してきた5メートル級の猪型魔獣を遠くへ殴り飛ばした。その勢いを殺さずに背後から突進してきた熊型魔獣を回し蹴りで反対側に蹴り飛ばす。

「先代、後は我らに任せるがよい!」

「うん、任せた・・・」

 のっしりとセイが後ろから私に体重をかけてくる。セイはもう限界だ。

「虎!急いで砦の中に戻って!」

「ガウルルル!!」

 高らかに咆哮を上げ、虎は回れ右して砦へと走り始める。

 虎に並走して、ひょっこり現れた小虎ちゃんも砦に向かい始めた。

「小虎ちゃん!良かった、怪我は無い?!」

「グアァウルンルルル!」

 小虎ちゃんは機嫌良さそうにピンと尻尾を立てて、虎の隣を走っている。良かった、どこも痛くしなかったようだ。虎が軽々と砦の外壁を飛び越えるのに、小虎ちゃんも続く。

 砦の内部、突然中庭に現れた私達に、後方支援の皆さんがどよめく。

 誰に声をかければとキョロキョロしていると、一人の男性がこちらに駆けてくる。

「最愛様!」

 私を知っているらしいその男性は、虎の3メートルほど手前で跪いた。

「私はニール・ノックスと申します。以前に最愛様より、治療院にてこの命をお救い頂きました」

 思い出した。手首から先の左手の欠損があった人だ。あの時は比較的短時間で魔石化を解くこともできて、幸い意識もすぐにしっかりしたと思った。

「お仕事に復帰されたんですね。良かったです」

「錬金術士の方によい義手を調整していただけました。この度の国の災禍に微力ながら務めを果たせる事は、私の大きな喜びです。さあ、お疲れでしょう。陛下と一緒のお部屋をご用意いたします」

「ありがとうございます」

 虎が姿勢を低くして、意識がほぼ無いセイを隊員の人達に引き渡す。

「此度の魔王陛下の御働きに、我らフォーク隊一同より心からの感謝を」

 いつのまにか中庭には多くの隊員の皆さんが集まってきていて、セイと私に向かって一斉に一糸乱れぬ礼をとる。

「ど、どういたしまして」

 セイが応えられないので、私が微妙な返しをしておく。

 虎と小虎ちゃんは暴れ足りない様子でうずうずしていたので、好きにしておいでと声掛けすると、親子そろって外壁の向こうへ消えていった。小虎ちゃんはともかく、虎は戦場で大きな戦力になってくれるはず。

「さあ、最愛様。陛下とご一緒に」

 女性隊員さんが案内についてくれて、私とセイは一室をお借りしてようやく休むことが出来た。こんこんと眠り続けるセイのベッドサイドに腰かけると、私も途端に睡魔に襲われる。それからはもう睡魔に抗えず、私とセイは泥のように眠った。


 スタンピードは早朝に発生してから、その日の夕方には南東の砦にて鎮圧された。3名ほど身体を欠損する大怪我を負ったけれど、一人も死亡者を出すことなく今回の危機を乗り切ることが出来た。

 大怪我をした隊員達は錬金術部門が開発していた、疑似魔力回路を内蔵した義手、義足を利用し、3名ともがしばらくして軍部に復帰できた。この3名には私は手当をしていない。この事は、錬金術部門が作成した義手と義足が、欠損による怪我から魔石化に続く魔障害を防げる事を立派に証明することとなった。

 


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