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イケメンを拾うと世界が変わる  作者: ろみ


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二人の癒し手 3

「陛下、問題がありまして」

 私は珍しくブランパパに王城に呼び出され、セイの執務室でブランパパの話を聞くことになった。

「ナツ、カイトから話を聞いた。正直あの娘、この手で縊り殺してやりたいぐらいだ」

 紳士のブランパパがビックリする位ストレートに怒りを吐露している。私の過去の件もあるけれど、お兄ちゃんに対しての高橋さんの態度も相当酷かったしね。

「各地から「癒やし手」に対しての陳情が上がっておりまして、どうしたものかと」

 辺境に現れた治癒の力を持つ「癒やし手」が、辺境の部隊の傷を癒やし、王都への道行きに町々で癒しの力を惜しみなく人々に与えた。その噂には、真実も含まれているのが厄介だった。

 フォークさんとその部下の人々は個人差はあれ、おそらく治癒魔法を受けたことにより魔障害が起こった。しかし、辺境に暮らす人々、王都の外に暮らす低魔力保持の人々には高橋さんの治癒魔法は有効だったらしい。隊員の皆さん以外に体調不良、魔障害の訴えは無かった。噂の「癒やし手」を是非我が街へと、派遣の要請が届いているのだそうだ。

「下手に注目を集めてしまい、やりにくくなりました」

 ブランパパの言葉に、私とセイも考え込む。

 あの面談の日、高橋さんに対してどういう対応をするかを話し合った。私VS過激派4名の話し合いは平行線を辿った。面談が終わったお兄ちゃんとフォークさんも合流して話し合った結果、思想に問題があり野放しにはできないという事で、現在高橋さんは王城内に軟禁されている状態だ。

過激派4名の主張に対しては、本人の希望を聞いた手前、お兄ちゃんも難色を示した。

 魔国には異界人保護法というものがある。異界人が魔国において理不尽に搾取されないように制定されたもので、魔国民が異界人に接する場合は異界人の権利を守らねばならないとされている。異界人の生活の保障についても保護法で義務付けられており、高橋さんは魔国内で生活する事を希望した。人格に問題はあるが、治癒魔法の使用について魔国の管理下に置けるならば、生活の保障をして王都の外で生活させればよいのでは、というのがお兄ちゃんの案だ。

 私もお兄ちゃん案のように穏便に高橋さんと棲み分けられるならそれでいい。

「まず、要請についてですが、あのような話も通じない制御不能の者を、魔国が要請に応じる形で派遣するなど無理ですな。問題が起きるリスクの方が高い」

「そうだね」

「しかし陳情は増える一方です。癒し手など、もともと居なかった事にしてしまいたいが、あの娘を目にした者は多い。悩ましい所です」

「頭を弄って意志を奪ってしまおうか。いう事を聞く人形にして派遣したらいい」

「ちょ、ちょっと待って。セイもパパも怖い」

 そんな悪の魔王とその手下みたいな事言わないでほしい。

高橋さんが急激に王城の厄介案件になっていってる。

今回の騒ぎは気が付けばとても大きくなっていて、もう私の希望を聞いているような段階じゃない。国として、騒ぎの元になってしまった癒し手をどう遇するか、その判断が求められていた。

その時、強いノックの音が響いた。

侍従さんがドアを開けると、ドアの向こうから青ざめたフォークさんが顔を覗かせた。

「陛下並びに宰相閣下に申し上げます。軟禁中の異界人が部屋を抜け出しました。私の部下の一人が手引きした模様です。今、総力を挙げて捜索中であります」

 なんでそんな事になるの。

 急激に変化する状況に判断を迷っているうちに、事態は思わぬ悪い方へと動いていく。

「見つけ次第異界人を拘束しろ」

 ブランパパは高橋さんに対して、もはや保護という言葉を使わなかった。

 フォークさんは短く返答して踵を返した。

 人の話に聞く耳を持たず、城の指示にも従わず、他人を巻き込んで騒ぎを起こした高橋さんは、自分の行いがどんな結果を招くのか考えているのだろうか。

この魔国は、何をしても許されていた学校とは違うのだ。

 高橋さんの治癒魔法の効果は、人によっては強い魔障害を引き起こす可能性がある。高橋さんは自分の魔法の危険性を理解することも無く、城外に抜け出してしまった。

何も起こらない内に早く髙橋さんが見つかるといい。

その祈りは届かずに、不安は現実の物となった。



 その日の夕方、治療院から二度目の緊急応援要請が入った。

 まだセイの執務室にいた私は、お兄ちゃんと急ぎ治療院に向かうことになった。

 お兄ちゃんに抱き上げられて、魔人フォームのお爺ちゃん達と一緒にすぐさま治療院に転移する。

「カールさん!」

「ナツ様、お願いいたします!」

 治療院の療養区画にある一室に案内されると、室内のベッドをカールさんを含め3人の治療士が取り囲んでいた。治療士さんの向こうに青い光がすでに見えている。カールさんの空けてくれたスペースに入り込み、私はベッドに横たわる人を見た。

「昼過ぎには意識が無くなり、先ごろから急速に魔石化が進んでいます。我々では対処できません」

 ベッドには意識のない小柄なお祖母ちゃんが横たわっていた。頭部と胴体全体が青白く強く光っていて、入院着からのぞく両の手足は全て青の魔石に覆われていた。私は魔石部分に両手で飛びついた。

「魔障熱により体調を崩され、療養中の方でした。治癒士の治療を受けて、緩やかに回復されていた所だったのですが」

「何があったんですか」

 カールさんが目線を動かした先には、ベッドから少し離れた場所に椅子に腰かけ項垂れる男性が居た。

「ご家族の話によると、噂の癒やし手から治療を受けたと」

「!!」

 高橋さんはよりにもよって、ここに来てしまった。

 魔障害を発症している人に、魔障害を起こす可能性のある治癒魔法をかけたなんて。

 最悪の形で不安が現実になってしまった。

「ご家族の御友人が、その癒やし手を連れて来たそうです。治療を受けた直後は頭痛や微熱といった体調不良が無くなり、ご本人も喜んでいたそうです。しかしその後、一時間ほどして昏睡状態に陥りました」

 ご家族の男性が項垂れたまま、嗚咽を漏らし始める。

 こうなる事を望んだ訳がない。

 噂の癒やし手に、入院中の大切な家族を治してもらいたかっただけなのだ。

「大丈夫。元通りになります」

 私は意識の無いお祖母ちゃんに語り掛ける。

 お願いだから、元に戻って。

 お祖母ちゃんの硬くなった手足をゆっくりと撫で続ける。

 この人は元気になって、家族の元に帰るはずの人だ。

 グン!と一際手の下の青白い光が強くなった。眩しくてお祖母ちゃんの体が見えない位だ。一番強く光る場所を手で抑える。抑えた個所の光が弱まれば、別の場所へ手を伸ばす。

「・・・何、かしら。暖かいわ」

 お祖母ちゃんの両手足の光がだいぶ弱くなってきて、本来の皮膚の色が戻った時、お祖母ちゃんの意識が戻った。

「お祖母ちゃん!」

 項垂れて泣いていた男性が、意識を取り戻したお祖母ちゃんに抱き着いた。

「ふふ・・・、こんなに大きくなったのに、相変わらず泣き虫の甘えたねぇ」

「ゴメン・・!俺、こんな事になるなんて・・・」

「・・・私、どうしたのかしら?」

 取りすがって泣き続ける大きな孫を、お祖母ちゃんは優しい手つきで撫でている。

 良かった、身体機能も問題ないようだった。

 最後の青い光はお祖母ちゃんの額に留まっていて、しばらく手を当てているとやがて消えた。

 治療士さんからお祖母ちゃんに、お祖母ちゃんの体に何が起こったのかの説明がされた。

「まあ・・・」

 意識を失ってからの自分の状況に、お祖母ちゃんは今更ながら青ざめる。

「辺境にいた友人から久しぶりに連絡があったんです。「癒し手」を紹介出来るがどうするって。王都では辺境からやってくる癒し手の噂で持ちきりだったし、5年も入院している祖母が自宅に帰れるならと、結構な金額を払いました」

 後悔に苦い顔をしながら、お孫さんが経緯を説明してくれる。

 高橋さんは治療の対価を要求していた。お孫さんの友人が高橋さんを手引きして、一緒に行動しているようだ。

「私、大変なことをしたかも知れないわ」

 お祖母ちゃんが青ざめたまま口元を抑える。

「私、癒し手のお嬢さんに私のお友達を紹介したわ。私と同じように、長い間魔障熱に苦しんでいるの。どうか助けてと、お願い、したわ・・・・」

「ご婦人、ご友人の居場所を教えてください」

 カールさんが即座にお祖母ちゃんの友達の情報の聞き取りを始める。

 その傍らでお兄ちゃんは通信機でフォークさんと連絡を取り始めた。

「フォーク、異界人の居場所の情報が入った。隊員を集めて先行してくれ。異界人を確保する際は封魔環を使用しろ。異界人へ対しての攻撃も許可する。異界人の治癒魔法は我々高魔力保持者に対しての脅威となりうる。油断なく無力化してから近付け」

 フォークさんに指示を出してから、お兄ちゃんは私を見る。

「ナツ、人命にかかわるかもしれない。このまま一緒に来てくれるか」

「もちろん!うぐぅ!」

 私が返事をするやいなや、お兄ちゃんは再び私を担ぎ上げる。

「ナツ様!お気をつけて!!」

 カールさんに見送られながら、私とお兄ちゃん、お爺ちゃん達はお祖母ちゃんの友達の元へと向かった。


 現場は閑静な住宅街の一軒家で、玄関扉の前でフォークさんが待ってくれていた。

「状況は」

「既に異界人とそれを手引きした者は制圧しています。残念ながら、治癒魔法の行使を止めることは間に合いませんでした。ナツ様、お願いします。お早く」

 フォークさんの後に続いて一軒家に私達は足を踏み入れる。

 一階の最奥にある部屋に入ると、室内は数名のフォーク隊の隊員さん達が警戒を緩めず武器を構え、一点を見つめていた。

 武器を構えた隊員さんに囲まれた、床に座り込んだ人物と目が合う。

 今回の騒ぎを起こした高橋さんが驚いた顔をしてこちらを見ていた。

「え・・・、何。噓でしょ。清川?清川なの?」

 ドクンと大きく心臓が跳ねた。

 どうにか会わずに済めばと思ったのに。

 高橋さんは一目見て私を認識した。

「ナツ様!こちらに」

 フォークさんの声にハッとして、この部屋の主を確認した。

 部屋のベッドに横たわる女性は、その体全体から青白い光を強く放っている。私はその女性に駆け寄った。

「治癒魔法を使われた直後のようです。到着した時には、既に意識はありませんでした」

フォークさんの説明を聞きながら女性の状態を確認する。皮膚の状態は全身が発光していて良く分からない。女性の胸元が特に強く光っていた。私はすぐさま女性の胸元から喉元を両手で抑えた。服の下に手を滑らせて、直に女性の肌に触れていく。まだ硬化は始まっていない。

「あの、妻はどうなったのでしょう」

 ベッドサイドには女性の旦那さんなのか、年配の男性がおろおろと立ち尽くしていた。

 光が少し弱まった女性の胸元を目視で良く確認すると、その胸元は青い斑点が薄っすらと点在していた。私が手を当てている為か、繋がりかけていた青い斑点は目に見えて少しずつ小さくなっていく。

「魔石化が始まる寸前だったと思います。魔障害を発症した人に、治療院の治療士以外が治癒魔法をかけると、魔障害が酷くなる場合があります」

 治療士さんの施術と高橋さんの治癒魔法はあきらかに別物だ。高橋さんの魔法は誰にでも有効なものではなく、使い方次第では人の命を奪ってしまう。

 私の説明に、旦那さんの顔色も変わる。

「どうか、どうか!妻を助けてください!」

「出来る限りのことをします」

 この女性は治癒魔法が使われた直後だからなのか、先ほどのお祖母ちゃんよりも光の減退は早い。女性の呼吸は落ち着いていて、身体機能も損なわれていない。

「ちょっと、清川!何してくれてんの!せっかく奇麗に全身光らせてやったのに!」

 私の背後で高橋さんが叫んだ。

 高橋さんの言葉に頭を殴られたような衝撃を受けた。

 高橋さんにはこの光が見えていて、女性をこのような状態にしたの?

 この光が何なのか知ろうともせずに。

 高橋さんの声にショックを受けながらも、私は女性から目を離さず手当を続ける。

「おじさん!約束通りそのおばさん治したんだから、お金払ってよね!」

 高橋さんの言葉に、ベッドサイドに膝をついていた旦那さんがゆらりと立ち上がった。

「この!何が癒し手だ!」

 旦那さんが高橋さんに向かって走っていく。

「きゃあ・・!」

 高橋さんが悲鳴を上げる。

 フォークさんか誰か、旦那さんを止めたようだ。

 私は背後に構わず女性への手当を続ける。光はどんどん小さくなっていって、胸の上でやがて消えて無くなった。幸いすぐに女性は意識を取り戻した。旦那さんと会話も出来ていて、治癒魔法の影響は綺麗に取り除けたようだった。

「ナツ様、ありがとうございました。申し訳ありません、取り押さえる際に少々手こずりまして。私の部下達も見ていただけますか」

 フォークさんに呼ばれて数人の隊員さんが近づいてくる。

「これは・・・」

 隊員さんの片手や、腹部、ふくらはぎと言ったあちこちにソフトボール大の青白い光が纏わりついている。

「以前、異界人より治癒魔法を受けた際と同じ感覚がしました」

 自身の光る腹部を押さえながら、隊員さんのうちの一人が答える。この方は、前に緊急要請で手当てした隊員さんだ。

「この異界人はあまり能力を制御できないようで、取り押さえられる際に興奮して治癒魔法を周囲にまき散らしたようです」

 聞けば聞くほど、高橋さんの置かれた状況は良くない。魔国の軍人さんに再び被害が及んでしまった。

 隊員さん達をこのままにしておいて良いことは一つも無い。青白い光がくっ付いている隊員さんに一人ずつ手を当て、光を取り除いていく。

「その節は大変お世話になりました。本日も、ありがとうございます」

 二度目の手当をする隊員さんにお礼を言われる。私が黒子頭巾だとバレてる。今日は気が動転して、頭巾を付けていなかった。治療院からこちらのお宅に来るまで、何人の人と会ったのかもうわからない。この件については後でブランパパと相談だ。

 とりあえずは異界人が魔国民の命を奪うという最悪のパターンは回避できた。

 そして最後に、一番気の重い後始末をしなければならない。

 私は視界に入れないようにしていた、高橋さんに向き直った。

 高橋さんは両腕を掴まれ、半ば床に押し付けられる様にして座っている。高橋さんの隣には後ろ手に腕を縛られ横向きに倒れている男性がいる。この人が高橋さんを連れ出した人なのだろう。

 お兄ちゃんは私の隣に立ち、そっと私の片手を拾って握りこんだ。私はありがとうの気持ちをこめて、ギュッとお兄ちゃんの手を握り返す。

 高橋さんはねめつける様にこちらを見上げている。

「何、清川。異世界デビューでもした?チートとかしちゃってんの?マジウケるんだけどー?」

「私は全然面白くない」

 私が言い返すと、高橋さんは一瞬怯んだ。

「私は高橋さんが言う事、昔から面白いと思ったことない。ここは異世界だけど現実だし、高橋さんは今日2人、人を殺すところだった」

「はっ・・はあ?!何わけわかんない事言ってんの?!清川のくせにイキってんじゃねえよ!」

 さっき、一瞬高橋さんが怯えた顔を見せた。

 私に初めて言い返されたからだろう。

 その怖気づいた気持ちをごまかす様に、高橋さんは私に罵声を浴びせ続けた。

「あんた何様なの?男引き連れて気が大きくなってんの?清川、あんた大人しい顔して相当男食ってんでしょ?!このクソビッチ!お前の周りの男共、全員セフレだろ!」

 ゴッと風が吹く音がしたかと思ったら、お兄ちゃんが隣に居なかった。

「聞くに耐えん。ここで処分していいか」

 落ち着いた静かな声音がかえって怒りを感じさせる。高橋さんの処遇については穏便な方法を訴えていたはずのお兄ちゃんが、高橋さんの後頭部を掴み、そのまま床に強く押さえつけていた。高橋さんは失神したようで、両手もだらりと力が抜け、ピクリとも動かない。

「閣下、ここではこの家の方の迷惑になりますよ」

 フォークさんに指摘されて、お兄ちゃんはしぶしぶと言った感じで高橋さんから手を離した。

「お兄ちゃん、私、後はセイの判断に任せるよ」

 私と高橋さんの過去は抜きにして、今回魔国の沢山の人が高橋さんから被害を受けた。

魔国として、問題を起こした異界人にどのように対応するのか、高橋さんの件は全てをお任せしたいと思う。

「お兄ちゃん、帰ろう」

「・・・そうだな」

 お兄ちゃんに手を差し伸べると、厳しい表情のまま固まっていたお兄ちゃんの表情が緩んだ。

 この場の後始末はフォークさんにお願いして、私達はセイとブランパパが待つお城に戻った。


 学校での高橋さんは、私にとってとても怖い存在だった。今日まで、顔を見ただけで胸がドキドキする位怖い存在だった。けれど高橋さんと初めて向き合ってみると、私を威嚇するように叫び続ける高橋さんにあれ?と思った。高橋さんは自分でコントロールできない状況に怖がって、癇癪を起しているまるで子供のようだった。あれほど怖かった存在が、私に必死に虚勢を張り続けていた。

その姿を見たら、もういいやって思った。まだ当時を思い出して心は痛むと思うけど、高橋さんを思い出して落ち込むループからは抜け出せそうな気がする。

 魔国に日本から一人で転移してきて、今まで高橋さんは誰とどんな生活をしていたのだろう。私がちーちゃんと魔国に来た時は、セイが全面的に生活の手助けをしてくれた。

 高橋さんにも生活の手助けをしてくれた人はいただろうけど、魔国の事を教えてくれる人はいなかったのかな。高橋さんの行いを、親身になって注意する人も傍にいなかったのかな。怖いもの知らずで思うままに振舞った高橋さんを、少しだけ可哀想に思った。


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