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2枚目、ひらり

《支払日が遅れることは、先方了承済。》


 コモリさん、仕事が早いです。早くて、助かります。私がチェックしてお返しした書類は、ほとんど訂正期限当日に来るんです。コモリさんは、訂正箇所が毎回ありますが、その日中か翌日に訂正して、課の連絡箱に入れてくれます。


《請求書の印を契約書と同じにしてもらいました。確認お願いいたします。》


 それは別にふせんで言ってくれなくても、構わないんですよ。コモリさんは、面白い人です。……はい、確かに、社印は一致しています。児童福祉課は、子育て施設に委託料を支払っているんですね。どこも業者に経営をお願いしているんですか。私がここに入庁できたのも、そういうことが関係していました。


 私は、今年4月にT市に就職しました。私は、T市の代表的な会社「タカラベ義肢(ぎし)」の社長の姪、ということになっています。


 なぜ、「ということになっています」なのかというと、私は、本当は「タカラベ義肢」の製品だからです。「タカラベ義肢」の一大プロジェクトで作られた、100パーセント人工の人間なんです。義手・義足・義眼などが作れるのだから、全身作り物でできた人間もできるんじゃないか、という社長の大胆な発想から私は生まれました。


 もちろん、採用試験では本当のことを開発チームから伝えています。市長、副市長、教育委員長、部長級の職員、人事課は私の正体を知っています。でも、当分は極秘事項となっています。市長としては「世界初のアンドロイド職員」でいずれPRしたいので、ぜひ働いてほしいとのことでした。

 でも、もう私が本物の人間じゃないことに、職員の方々がうすうす気づいているんじゃないかと思っています。「表情がかたい」「氷のように冷たい印象」「指示待ち人間」だと所属課、隣の課の職員が小声で話されていました。そういえば、新人採用研修が終わって、同期の女性たちから「ロボットみたい」と冗談っぽく言われたこともありました。今思えば、私が「普通じゃない」ことを指摘したんじゃないでしょうか。


 女性職員からの好感度は、日々低下しています。男性職員からの好感度は、一部の層は平均以上を維持していますが、だんだん「高嶺の花」だと認識されています。職員の体温・感情・視線を読み取った結果です。私には、昼休みに一緒に食事する人がいません。


 T市に41年働くこと、私が絶対に守らなければならない約束です。でも、ひとりで黙々と働き続けてゆくことは、何と表わしたら適切なんでしょう、乾いた感じがします。約束は守りますから、私にすこし、自由な行動をいただけますか。コモリさんに、本当のことを伝えさせてください。


 コモリさん、怖がるでしょうか……。コモリさん、私を嫌いになるでしょうか……。この感覚は、なんですか。腕の関節が冷たくなる現象が、心臓にもきた感覚です。コモリさんと、昼休みに食事ができたら、私は41年働くことに、乾きを感じないと思うんです。


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― 新着の感想 ―
[一言] まさかそんな事情があるなんて。 真面目な方のことを皮肉で「ロボットみたい(融通がきかない)」なんて言ったりしますけれど、それを逆手にとったストーリーですね。 これからふたりの仲はどうなる…
[良い点] なんとぉ! そういう展開となりましたか。 これぞ小説のよいところ。 続きが気になります。
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