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3枚目、恋ふせん

《タカラベさんへ》


 断じて僕の趣味ではないけど、人気キャラクター「しろうさぎのうーちゃん」の折りたたみふせんを、訂正版に貼りつけた。タカラベさん、覚えてくれているといいんだけど。メッセージ部分を折り、最後まで読んでくれることを祈る。


 もし、タカラベさんが反応してくれたら、僕は誰にも言っていないことを彼女にだけ打ち明ける。そう、新人採用研修の3日目、全日、野外活動だった、休憩時間……。


「ん? タカラベさん?」

 配られた弁当を早々に平らげ、活動場所「T市青少年野外活動の家」を適当にぶらついていた。アスレチックで見えにくくなっていた木々の裏で、女の子が座り込んでいた。

「きのこでも探しているのかな~、なんつって」

 ひとりになると、僕は冗談を飛ばせた。これが人前だと「は? おめ、何? しらけるわー」という露骨に冷ややかな視線を浴びる。なので、成人を機に自粛してきた。

 やっぱりタカラベさんだった。片膝をおさえて、困っている様子だった。冗談を撤回したかった。ジャージをまくっていた膝小僧に、切り傷ができていた。

「えっと……大丈夫、ですか?」

 タカラベさんは、ものすごくびっくりして僕を見た。

「これ、よかったら、使ってください」

 ポケットに丸めていた絆創膏を、半ば押しつけるみたいに渡した。やかましいオバハンが、今朝むりやり荷物に詰めた「しろうさぎのうーちゃん」の絆創膏。オバハンは「あんた、運動神経悪いんやから、持っときなさい!」「ちっさい頃から、あんたは出先でやらかしてケガしてたんやで。『備えあれば』あれや、あれ!」玄関先で大声をあげられて、げんなりした。まあ、この瞬間だけは感謝してやろう。女の子とからむチャンスをくれたのだから。

 タカラベさんは、何かぼそぼそ言うと、逃げるように行ってしまった。絆創膏が役に立てばいいんだけど。

 ……ああ、そうか。タカラベさん、「あれ」を見られるのがいやだったのか。僕は不思議に思っていた。傷口に血がにじんでいない。傷のむこうに、金属と細い電線のような物があった。もしかして、タカラベさんには……秘密があるのでは? と。

 タカラベさんが、それで同期となじもうとしないのなら、僕はつらい。僕だけでも、タカラベさんの抱えているものを分かってあげられたら……。一緒に研修を受けてから、僕はタカラベさんのことが頭から離れられなくなった。


 タカラベさん、友達から、どうですか。



《タカラベさんにチェックしてもらって、事務スキルが上がっているのを実感しています。ありがとうございます!! 良かったら、僕のナンバー登録お願いします。○○○○○○○○》


 「しろうさぎのうーちゃん」がにんじんをくわえていて、めくってみたら、コモリさんのナンバーが書いてありました。フリートークアプリのナンバーでした。私、初めて庁内の人からナンバーを教えていただきました。登録しておきますね。


 野外活動研修で、「うーちゃん」の絆創膏をいただいて、私は「うーちゃん」を知りたくなりました。「うーちゃん」の商品が欲しくなりました。治療してもらっていた際、開発チームの女性スタッフに「うーちゃん」の話をしたら、「うーちゃん」グッズをたくさんいただきました。


「これ、良かったら、使ってください」あの言葉に、私は心臓が温かくなった感覚がしました。根っこに引っかかっていた鳥の親子を助けたら、転倒して切ってしまい、皮膚がはがれて緊急事態だったんです。コモリさんは見ていたかもしれませんが、何も言及しないで絆創膏をくれました。コモリさんは、開発チームのスタッフが用いる言葉を借りれば「かっこよい」だったんです。素敵でした。


 業務時間が終わったら、コモリさんにメッセージを送ってみます。まずは「うーちゃん」の絆創膏のお礼です。そして、ナンバーを教えてくださったことのお礼も。コモリさんにお伝えしたい話が、数え切れないくらいあります。「タカラベ義肢(ぎし)」の桜が、ライトアップされていて、きれいなんです。私の課のほとんどが、お昼に近くの定食屋さんでお弁当を注文していて、種類が豊富なんだそうですよ。朝、庁内をお掃除をしている女性が、お手洗いに花を一輪さしているんです。それから、それから…………。



 はらり、ひらり、1枚、2枚。ふたりの序曲は、これから始まる。


あとがき(めいたもの)

 改めまして、八十島そらです。素敵な企画に参加できて、光栄の至りです。主催の香月よう子さま、ありがとうございました。

 

 「春」とふせん・絆創膏を「貼る」をいつの間にか掛詞にしていたことに気づき、文学部の癖が抜けていないなと苦笑しました。ふせんは、八十島にとって、対話の手段と考えております。あまり発言できない身の上ですので、ふせんにあれこれ物申すことが、八十島のちっぽけな幸せなのです。「アルヴァマー序曲」を聞きながら、全3話を書いておりました。アルヴァさんと、マリーさんの序曲らしいですけれど、ほんまですかいな。三連符の部分が気に入っています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 企画から参りました。 小さなふせんも、恋のかけ橋になってくれたりするのですね。 タカラベさんの「コモリさんと、昼休みに食事ができたら、私は41年働くことに、乾きを感じないと思うんです」とい…
[良い点] 人工生命体の物語は私も書いており、色々と感じるものがありました。 [一言] 読ませて頂きありがとうございました
[良い点] 人間とアンドロイド?の間に芽生えた恋! タカラベさんは人工の人間だけど、確かにコモリさんに恋心を感じていて、コモリさんは全てを知っていて彼女を優しく包んでいる。 タイトルもとてもしゃれてい…
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