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第12話 誤解は加速する



 結局あの後、リューリもヨシコもグウェナエルも、誰一人として病室に戻ることなく、面会時間が過ぎてしまった。


 看護婦に催促されて病室の外に出てみるも、三人の姿は何処にもなく……どんな会話が交わされたのか気になりつつも、仕方がなく、俺はそのままギルド屋敷へ帰宅することに。


「ふぇっ、へへっ、ふぇへへへへへぇっ……」

「おっ、けーし。お帰りなさいませ~」


 ギルドのリビングに戻ってきたと同時に、色々な意味で衝撃的な光景が目に飛び込んでくる。


 死神の事情聴衆をしたいとギルドに居座っていたエルトンが、口で表現することが出来ないようなヤバい顔を浮かべてソファにもたれ掛かっており……その膝の上には、若干頬を赤らめてながら、こちらへヒラヒラと手を振るハタの姿あった。


「…………なにした?」

「ん~?ちょいと、飴をあげただけ(チュパッ)。さぁてと、もう少し搾り取ってくるかぁ、んふっ、んふふふふふふふふふふっ」

(エルトンさん、死ぬなよ……?)


 不気味な含み笑いを漏らしながら、意気揚々とエルトンの巨体を背後から羽交い締めにして、ズルズルと部屋から出ていってしまった。


 何をされるのか考えるだけでも恐ろしいが、せめて無事に帰ってくることを祈っておこう。


(……大丈夫かな、リューリさん……)


 ソファにもたれ掛かり、ボンヤリとリューリの安否を思う。


 あのグウェナエルは、あからさまにリューリのことを敵視している様子だった。恐らくは、彼女のことを候補者として認めていない部類の人物なのだろう。一般人から非難されるならばまだしも、同じ候補者からの非難は途端に説得力が増すものだ。それを受けた彼女が、変に気負ってしまわないことを願うばかりだが……。


 そんなことを考えていた、その時だ。


 突然、正面の扉が、まるで蹴り飛ばされたかのように激しい音を立てて開き……一人の女性が獣の如くの勢いで、俺の胸へと飛び込んできた。


「────あぁもうっ!扉、邪魔ですわッ!!ッッわたくしの主様ぁぁぁぁっ!!」

「ぐふッ!?」

「あぁっ!お会いしたかったですわ主様ぁっ!こんなにも長々と離れたままなのは久し振りでっ、わたくしっ、わたくしっ……寂しさのあまり発狂してしまいそうでしたわぁぁっ!!」


 危ねぇ……死神の状態でなければ、普通に失神していたかも知れない。


 この、無遠慮に俺に突進してきた、じゃれつくように胸の中でスリスリと何度も頬擦りをしてくる白い獣人は……世界で少数の『ザ・ワン』の一人にして、現『皇選』の候補者……。



 ────ヨシコ=ライトセット、その人だ。



 外では厳格な態度で他者に接する有名人の彼女だが、その正体は……大庭園で入手した情報を横流しする内通者の役割を持つ、死神の忠実な『従者』なのである。


「まぁ、確かに。お前が居ると居ないとでは空気が違うからな」

「そ、それはもしや……主様も、このヨシコのことを求めて下さっていたというのことですの……?」

「それ、少しニュアンスが違う気がするんだが……?」


 ガバッと顔を上げたヨシコは密着状態のまま上目遣いで俺を見上げ、嬉しそうに尻尾をフリフリと振りながら、一人で勝手に話を進めていく。


「なんてことっ!それならそうと言って下さいましっ!わたくしは、主様が求めて下さるのならば、例え、火の中、水の中、地獄の果てであろうとも……幾らでも、この身体を差し上げる所存でありますの!」

「いやいやいや、そんなとこまで来なくていいんだが?というか俺も行きたくないんだが?」

「えぇ、えぇっ、もちろん分かっておりますわっ。さぁっ、今すぐにわたくしたちの愛の巣へと参りましょう!あぁ、遂にこの時が……遂に、あなた様との愛を確かめ合う時が来たのですね……わたくしっ、もうっ……主様っ、主様ぁっ……コゥゥン~っ」

「おいおいおい!コゥゥンッじゃない!服を脱ぐな!」


 なにやらウットリと頬を赤らめて呼吸を乱し、トロンとした瞳を俺へと向けながら、自らの衣類を脱ぎ始めた。


 確かに、彼女のスタイルはこの世界でも随一。その姿には、男も女も関係なく魅了されると言われているが……こうして度が過ぎたアプローチをかけられるのは、正直のところ困る……。


 桁違いに強烈な好意を押し退けようと、彼女と押し合いをしていた……その時だ。


「────え?」


 ゴトッと何か小さな物が落下した音と共に、何者かの動揺するかのような小さな声が聞こえてきた。


 そういえば、ヨシコが蹴り開けた扉がそのままだったと、そちらへ視線を向けると……そこには、大きく目を見開いて硬直する、リューリの姿があったのだ。


 彼女の視界には、死神と親しそうに密着するヨシコ=ライトセットが居て、今まさに『行為』に及ぼうとしている衝撃的な光景が映っている訳で……。


 うん、マズイね、これは。


「……リュー、リ……?」

「……ふぅー…………一つ、確認させて下さい、死神さん……まさかとは思いますが、今回の早理教室爆破事件って────あなたとヨシコさんが共謀して起こしたモノではありませんよね……!?」

(うわァァァァァァッ!?またなんか面倒くさい疑いを掛けられてるゥゥゥゥゥゥッ!?)

「何を失礼なっ!わたくしと主様の愛の熱量はあんなものではありませんわ!大庭園どころか、この世界を丸ごと焼き付けてもおかしくは無い真実の愛をとくとご覧なさいっ!!」

(落ち着けッ!!もはや何が何だか分かんねぇからっ!!)

「火力が足りなかったってことですかっ!?そんな酷いこと言いますっ!?」

(違うッ!!そうじゃないッ!!)


 さぁ、面倒くさいことになってきた。


 俺は一先ずヨシコにがっちりとヘッドロックを決めて、「コニュッ!」という声と共に“落として”から、冷静を装いつつリューリに説得を試みる。


 だが、どんな説得も決め手に欠けていた。


 実は、死神と長光圭志は同一人物でしたー……なんて今の険悪的な状況で言ったら、絶交される可能性があるのでどうしても言えず……。


 結局、朝比奈マリアの時と同じく、爆破事件の疑いを掛けられてしまうのだった。


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