では一つだけ
遅れてしまった。急がねば……。
私は紅魔館の赤い階段を駆け上がった。急いでいる時に限って飛ばないのは、本当に焦っているという証拠である。
私としたことが、大切なことを忘れていたのだ。
お嬢様の誕生日プレゼント。
「咲夜さーん!」
コアの声が聞こえた。階段を駆け上がったところで、私の前に立ちはだかる。
「邪魔よ!」
「きゃあ!」
私はコアを華麗に避けて、回転してステップ。赤い廊下を突っ切った。
私は私の部屋に駆け込む。赤い絨毯の上に私の水玉の寝間着が脱ぎ散らかされていた。
「誕生日プレゼントをポケットに入れ忘れるなんて……なんていう失態」
「咲夜さーん!?」
「今はまだダメ!!」
「えー、では報告だけ。魔理沙さんは追い返しました。パチュリー様と私でなんとか……でも、協力者に一冊だけ持ってかれたみたいですね」
「……また協力者……」
私は自分のベッドの上を見た。そこに、誕生日プレゼントらしきものはない。機能の記憶を頼りに、自分の寝間着を掴む。ポケットから小瓶を取り出した。
赤い液体の入った、アンティークのガラス瓶だ。
「あ、鮮血ですね? お嬢様にあげるんですか?」
私は、懐中時計で時間を確認する。
「1分過ぎてる!! コア! ごめんそこどいて!!」
私は時間を止めて、厨房に向かった。
「さあ、選んでください。右か左か」
「ふふふ、さっきも言ったでしょ? 私の能力は運命を操ることができるの。カードの一枚や二枚、私の赴くままなのよ」
「ですが、あなたが私に操られているとしたら、面白くないですか?」
「へー、言うわね。私が人間ごときに操られるとでも思っているのかしら」
「さて、それはあなた次第です……」
「いい度胸ね。じゃあ、私は右のカードを選ぶわ。それで、あなたあ54枚のトランプカードの中から予想した一つのカードとは違うものを選べるはずよ」
「そうですね、確かにこのカードは……ほら、私が予想したカードとは違います。ハートの3ですね」
「ふん、そういうことよ。人間ごときが私に勝とうなんて百年早いわ」
「では、次にあなたの胸ポケットにあるカードを見てもらえないでしょうか?」
「胸ポケット? 私の服にそんなのはついてないわ」
「あれ? じゃあ、腰かな?」
「いいえ、私の服にポケットはないの。だって、従者が持っていてくれるんだもの」
「あっ、わかりました。ここですね」
「きゃ! あ、あなた!! 首の後ろになんかあるわけないでしょ……」
「じゃん!! 見てください、僕が予想を書いたメモがもう一枚ありました。さてさて、何が書かれているか……どうぞご自分で」
「うー、……そうね、ハートの3だわ。おめでとう、あなたの言う通りね」
「じゃあ、約束通り、なんでも言うこと聞いてくださいね」
「はいはい、その代わり一つだけよ。分相応のものにしなさい」
「では、一つだけ……」




