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凸凹道中記  作者: AIAMAAI
9/9

昊星と柊

京都駅に到着した時には、太陽が西の空に傾きかけていた。昊星は、目的地までの地図を見た。そこまでの道のりは約3.5㎞。歩いて40~50分程かかるが、その間には、三十三間堂、智積院、清水寺などの観光地が連なっていた。昊星が時間を確かめると、まだ4時過ぎだった。体力も時間も余裕があるから徒歩で行こうと思っていると、ブッブッブと車のクラクションが鳴って、目前に一台のタクシーがやってきて、停車した。

「タクシーで行こうぜ」

 後部席のドアが開いて、柊が車中から顔を出して言った。

「予約までの時間は十分あるじゃないか」

「それまで一眠りしたいんだよ。お前のせいで、俺は疲れ切ってんだ」

 そう言われては反対するわけにもいかず、昊星はタクシーに乗り込んだ。

 混雑していない抜け道を走って、15分ほどで柊の自宅に到着した。

 ソファに座るなり、昊星も疲れていたのかウツラウツラと転寝をしそのまま眠り込んでしまった。

 目覚めた時には、日はどっぷりと暮れ、闇に包まれていた。

 柊はもう既にバッチリと格好よく決め込んでいた。着替えを勧められたが、昊星はそれを断りそのままの服装で、柊が予約した高級料亭へと向かった。

 自宅から出て、高い塀に沿って歩いて行った。柊の家は料亭と同じ敷地内にあったが、

「息子ではなく、客として行くんだからな。そのケジメはつけておかないとな」

と、柊が言った。

 門の中に入って、敷かれた直打ちの飛び石に導かれるように玄関まで進んで、引戸を開けると、着物姿の女将が三つ指をついて出迎えた。

「いらっしゃいませ」

「俺のおふくろ」

と、柊が言った。

 不意を突かれた昊星は、目を丸くしたままペコリと頭を下げた。

 女将が案内したのは離れにあるお座敷だった。障子を開けると、四人の舞妓と四人の芸妓、三味線弾きの二人の芸妓の総勢十人の綺麗所がズラーリと並んで、

「おこしやす」

と、二人を出迎えた。

 女将がお座敷を辞すと、仲居が飲み物と料理を運んで来た。

 掛け軸と花が活けられた床の間の前に置かれた座布団に座すと、綺麗所が二人を囲むようにして座り、

「よろしゅうに」

と、花名刺を差し出した。

「ありがとう」

と、昊星がそれを受け取ると、

「縁起物だから、舞妓の出した名刺は財布に入れとけよ」

と、柊が言った。

「どうして?」

「金がまいこむってな」

「語呂合わせだね」

と、昊星は全員の花名刺を財布に入れた。

 三味線に合わせて踊る舞妓と芸妓の舞を見ながら飲んで食べて、お座敷遊びで舞妓や芸妓達と賑やかに華やかに遊んで、楽しい時を過ごした昊星が、

「僕から皆さんに、お礼のお返しを」

と言って、立ち上がった。

「こんな所で、お前の小難しい講義なんぞ、聴きたかねえよ」

と、柊は怒鳴るように言ってその口にビールを含ませた。途端に、プーッと噴き出した。

 昊星が、準備運動とばかりにムーンウォーク披露したのである。

 素敵どす!凄いどす!と、舞妓と芸妓が黄色い声を上げて賞賛した。

「それでは、本番行きますよ」

「へッ」

 昊星が言って、三味線弾きの二人の芸妓達が返事した。

 その場でポーズを作り、

「bad!」

と高らかに叫んで、三味線の演奏に合わせて、マイケル・ジャクソンのバッドを踊り始めた。

 柊は、ビールグラスを持ったまま固まっていた。

 キャー!キャー!と、舞妓と芸妓は黄色い声を上げていた。

 マイケル・ジャクソンばりのダンスを、昊星は楽しそうに披露していた。

 ダンスを終えた途端、舞妓と芸妓が駆け寄ってきて、昊星を取り囲んだ。

「それでは皆さんもご一緒に。exileのchoo choo trainと、三代目jsbのランニングマンを踊りましょう」

 昊星がそう言うと、舞妓と芸妓が昊星の背後に縦に並んでクルクルと回り始めた。

「俺も」

と、柊も加わった。

 昊星と柊と舞妓と芸妓が、横一列に並んで、三味線の演奏に合わせて、前に出した足を後ろにひきずりながら引き寄せ、その場で走っているような動きになるランニングマンを踊った。


 翌日の朝、女将でもある柊の母親の手料理で朝食を済ませ、丁重な見送りを受けて昊星は、柊の自宅を後にした。

 表通りまで歩いて行きながら、柊が訊いた。

「ダンスも姉さんから?」

「うん。女の子にもてるからって」

「確かに。昨夜は凄かったもんな」

「でも昨夜のダンスが初披露だったんだ。上手くいくかどうか不安で」

「ワーワー、キャーキャーと黄色い声が飛び交ってたじゃねえか」

 気恥ずかしそうにクスリとニガ笑いして、昊星が尋ねた。

「後を継ぐのか?」

「それが嫌で逃げ回ってたんだけど、それもいいかなって。近頃、遊ぶのにも飽きてきたしな」

「女将さんが言ってたよ。君の料理のセンスは天才肌だって」

「おふくろが?……いつ?」

「君が朝風呂してる時に」

「お前のように生真面目に懸命に生きるのもありかな……?」

「君には無理だと思うけど」

「ってなお前!」

 二人は、笑った。快晴の空に響き渡るような声で。

「駅まで歩くのか?」

 柊が言うと、昊星が挙手して、タクシーを停めた。

「ええッ?」

「疲れた時には、だよ」

と、昊星がタクシーに乗り込むと、柊も乗りこんできた。

「姉さんと酌み交わしたくてな。邪魔するぜ」

「姉貴と?」

「酔ったら俺が介抱」

「するより、される方」

「酒豪なのか?姉さんは」

「酒豪というよりは、ザル」

「ザル?」

「ちょっとでも気に障るようなことを言おうものなら」

「なら?」

「姉貴は有段者だからな」

 生唾をゴクリと飲み込む、柊。

 しかし、誰にでも弱点はあるもので

「美味しいものには目がないから」

「そこから責めるか」

 タクシーは、京都駅に向かって市街地を突っ走っていった。

「しかし、男の二人旅ほどつまんねえもんはねえな。次は姉さんも」

「痘痕も笑窪。姉貴のどこがそんなにいいかのかね」

「お前にはわからんさ。女姉妹に憧れる俺の気持ちなんてよ」

 この二人、どうなりますことやら。

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