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Vanitas vanitatum  作者: イヲ
第四章
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春霞・3

籬は、自分で考えるということができない。

無論、計算は自動で答えを出す事はできる。

自分の意思で思考して行動するということはできないのだ。


「…理解できない」

「もー!理解できないって、合成人間ってみんなそうなの!?」

「みんな?貴殿は、自分以外の合成人間を知っているのか」


アヤナはわずかに思案したあと、そうねぇと顎に手をふれる。


「ちゃんと答えを出せたら教えてあげる。ね、真君」

「え?」

「タダで教えるなんて、だめよ。この世界はギブアンドテイク!ってね。さてと、話はこれでお仕舞い。これからは五室の仕事。そろそろ室長も来るだろうから、ね」


アヤナはぐいぐいと真の背を押して、公園から出そうとした。真は素直にうなずいて、公園から出て行こうと足を速める。

籬はただ真の傍に付き添うのみで、否も是も言わない。





公園から半ばむりやり追い出された二人は、当初の目的であった三角写真館に向かったが、シャッターが閉まっていて中に入ることはできない。


「三角さん、今日はお休みなんだ…」

「そのようだ」

「・・・」


視界がぼんやりとする。

目をこすって、自分の手のひらを見下ろした。

かすれている。


「…どうした?」


コンクリートがまるで生きているかのようにゆがんだ、ような錯覚が真を襲う。


「あ、れ」


ぐらり、と体が傾いた。


――ぷつん。


意識は、なにかに支えられたような気がしたところで途切れた。






「――ですよ、――」

「―しかし…――」


漣のような声が聞こえる。

うつろのなか、真は瞼を開いた。

頭、首、腕、手、足、足首、皮膚が覆い隠されるまで、コードにつながれている。

ちくり、とした痛みで、真は眉を顰めた。


(ここは…そうか)


ぼんやりとした思考のなか、真は心中でうなずく。


(また…ここに、連れてこられたのか…)


マスクをつけたまま、こん、と一つ咳をした。


ここは遺物執行部隊直属の、研究所だ。執行部隊は五室とも繋がっている。


「・・・」


ひどくぼんやりとする。

なにも考えられない。




「血圧低下。意識レベル低下」


研究員がまるで棺桶のような箱に入れられている真を窓越しで見下ろし、呟いた。


「さらに低下。脳血流低下。低下。低下。心拍出量減少。血糖値低下」

「今日も順調だな」


血圧が低くなり、さらに脈拍数も低下してゆく。

やがて、「意識を失った」状態になった。



籬は、それをモニター越しにじっと見据えていた。

命に係わることもないと判断したためだ。


観世水邸に倒れた真を運んだのだが、高峯に引き止められここにつれてこられた。

コードやケーブルがひしめき合ってできているその巨大な装置――イザヤは、『将来への希望』という意味を込めて、その名のとおり、未来の人間のために造られたものだ。


そのコアは、高峯の実の息子、観世水真を基盤としている。


完全なるコアとなるために、定期的にこうして『潜らなければならない。』


機械が振動する音を、籬は腕を組んで静かに聴いていた。


意識も体も沈みこんでいる真の身体。

そこには、意思も思考もなにもなかった。



――新しい未来に向けての礎となるために。

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