終わって始まる
今日は俺の通う高校の終業式、1年生の最後の授業を終え多くの生徒が学校を後にしている。
例に漏れず俺こと天月悠馬も校門を出て帰路についている。
終業式は午前中だけなのでこれからどこかでお昼でも食べてから帰ろうかと考えていると、道路を挟んだ向かい側に多くの生徒が連れ立って歩いているのが見えた。
その中でも一人飛び抜けて目立つ生徒がいる、白海澪。
アイドル顔負けの抜群の容姿それに加え誰にでも分け隔てなく明るい性格で多くの男子生徒からモテまくっているらしい、面識の無い俺でも色々な噂を耳にする。
この一年で20人を超える男子に告白されただの、彼女をめぐって乱闘が起こり10人以上が病院送りにされただのとにわかには信じられない話ばかりだ。
おそらくこれから先の人生でも関わることの無いような人物だろう。
そう思いながら俺はお昼ご飯になにを食べようかと、視線を戻し先ほどまで考えていた事の続きを考えようとしたその時、
視界の端に信号を無視して突っ込んでくるトラックが見えた、しかもその先には運悪く信号を渡っている子供がいた。
「あぶねェ!!」
それを見た瞬間すでに身体は動いていた、できる限りの速度で飛び出した俺はその子供を突き飛ばす、だが迫りくるトラックは俺の想定よりなお早く、子供が安全圏に出るよりもトラックが衝突する方が早い。
このままでは二人まとめて跳ねられると思った時、子供の手を引く人影があった。
白海澪。
彼女は渾身の力で子供を引っ張り安全圏へと突き飛ばすがその反動で変わりにトラックの前に倒れてしまう。
俺はせめてもの思いで彼女に覆いかぶさり、そして、全身を凄まじい衝撃が襲い意識を失った。
「天月……天月、起きろ!」
その声に意識を覚ますと、俺の目の前には担任の先生の顔があった。
ここは?俺は事故にあったはず。
そう思いながら辺りを見回すとそこは俺が一年間過ごした1-Aの教室だった。
「なんだ夢だったのか………」
俺は安堵のため息と共に胸を撫で下ろす。
今思い出してもあまりにもリアルな夢で、本当に死んでしまったのかと思ったが、すべてこの教室で見たただの夢。
おそらく終業式の後、教室での先生の話の途中で寝てしまったのだろう。
「すいません、すぐに帰ります」
俺はそう言うとカバンを持って立ち上がり、先生に軽く会釈してから教室を出ようとする。
そんな俺の背に向けて先生が声をかけてくる。
「入学そうそう居眠りとは大胆だがこれから一年よろしく頼む」
そう言うと先生はさっさと教室を後にしてしまう。
入学そうそう?なにを言っているんだ?今日は1年生の終業式のはず。
そう思っていると徐々に違和感を感じ始める。
今着ている制服はまだ着始めたばかりのように身体に馴染んでおらず、カバンもまるで買ったばかりのように真新しい。
俺はポケットに入っているスマホを取り出して今日の日付を確認する。
そこには、
「2026/4/10」
俺は1年前の入学式の日へとタイムリープしていた。
俺は混乱する頭を落ち着けるため自販機で飲み物を買いベンチに腰掛けていた。
あの後、俺はスマホでニュースや追いかけていたラノベの投稿などをチェックしそれらも1年前のものになっているのを確認した。
スマホの表示を誰かがイタズラでいじくったなんてことも考えての事だったが改めて俺がタイムリープしたことへの裏付けとなってしまった。
そんなことを考えていると、
「そこの君!」
急にかけられたその声に振り返るとそこには夢の中でみた人物、白海澪がこちらに向かって足早に近づいて来ていた。
白海はそのまま俺のそばまで来ると俺の肩をつかみすごい剣幕で問い詰めてくる。
「私のこと覚えてる?!一緒に事故にあった!」
その言葉を聞き俺も思わず立ち上がる。
「もしかして記憶があるのか!」
「ええ!その反応はあなたも覚えているのね!」
よかった、正直この状況を誰かと共有したいと思っていたところだ。
俺と同じ状況の彼女と話せば何かわかるかもしれない。
「それじゃあ改めて、私は白海澪よ」
「俺は天月悠馬だ」
今俺たちは学校の中でも人がほとんど来ない屋上前の踊り場に来ている。
ここならほかの誰かに話を聞かれる心配もない。
まぁ、今日は始業式だからほとんどの生徒はもういないかもしれないが。
「早速だが確認したい、俺は1年生の終業式の帰りに車にひかれそうな子供を助けようとして、その身代わりに車に轢かれた、それで気がついたら今の1年生の始業式まで時間が巻き戻っていたんだが……白海も同じか?」
「そうね、私も同じ認識よ」
俺たちはお互いの認識に違いがないかを確認しあう。
「それにしてもなんで俺たちはタイムリープしたんだ?何か心当たりはあるか?」
「いいえ、私もないわね」
白海のほうにも心当たりはないとなると本当に原因不明か。
「まあでも、お互い本来なら無事じゃ済まなかったんだし良かったじゃない」
「それはそうだけどな……」
白海は俺と違い原因がよくわからなくてもあまり気にしないらしい。
確かなにあのまま車が突っ込ん来ていたら最悪二人とも死んでいただろうし良かっと言えばよかったが。
「それよりもせっかく1年生の時に戻れたんだしこれからどうするかよ!」
「どうするって?」
「決まってるでしょ!前のときの記憶を使ってどう得するかよ!」
「は?」
俺は白海の口から出たその言葉に思わず呆けてしまう。
「私たちにはこれから1年の間にどんなことが起こるのか分かるでしょ、だからそれを使って強くてニューゲームするのよ!」
こいつ、タイムリープなんていうとんでもない現象に巻き込まれながら、まるでそれがなんてことない事のように言いやがった。
そんな白海に俺は思わずジト目を向けてしまう。
「な……何よ原因がわからない以上考えても仕方がないし折角のチャンスを無駄にする方がもったいないでしょ、あなただって前のときの記憶を使えば成績アップ!友達いっぱい!バラ色の高校生活よ!」
「まるで前の俺が成績が悪くて友達もいない灰色の青春を送っていたみたいにいうな!」
「違うの?」
「うっ……そっそれは」
こいつ初対面のくせに……人のことを思いっきりディスりやがった。
たしかに実際に成績は中の下で友達もいなかったが俺は俺で結構その生活を気に入っていたんだ。
ぜんぜん負け惜しみとかではなく。
「まあたしかに、原因はわからないがこうなってしまった以上前向きに考えたほうがいいか」
「そうよね、ってもうこんなにたってる。じゃあ私はこれで!この後クラスの親睦会があってこのままじゃ送れちゃうから」
「お……おお、そうか」
「じゃ!」
いきなり現れてまるで嵐のようだったな。
だがそれでいてあまり嫌な感じがしないこれはモテるわけだ。
「バラ色の高校生活ね……」
俺は白海が言っていたことを反芻する。
前の俺の人生にそこまで後悔はないが折角だし少し頑張ってみるか。
俺はそう思いながら家への帰路についた。




