夢の魔法
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「先生…先生ッ」
ばっ、と、また、覚める。
何度も、何度も、首を抱き、泣く所で、目を覚ます。
背中が、ベタベタする。余程、汗をかいたのだろう。
ゾクゾクした。眠り、夢を見れば、先生と会える。
メイヴンは、その興奮が、高揚感が、たまらなく好きなのだろう。
「先生、先生…」
爪を噛む。覚めれば、すぐに不安になり、貧乏ゆすりが激しくなってゆく。
カタカタカタ…ガタッ
地震でも無いのに、食器が揺れ始めた。
何処に有る。抱いて、落ち着かねば。
そして、少女は、ふらり…ふらりと、家の地下室へと、歩いてゆく。異臭がする廊下を、ペタペタ…歩く。
先程から、震えが止まらない。
寒さと、不安感と、興奮で、骨が、震えていた。
__地下室には、夜明けの魔女の首が、置いてあった。防腐の魔法が掛けられ、綺麗な状態で、置かれている。
黒髪の、その、聖遺物は、大切に、大切に保管されていたのだ。
青白い、その首は、魔女であった。
そして少女は、魔女の首を抱いた。
未だ、ポタポタ…と滴り落ちる血を飲み、気分を、落ち着かせる。
「そうだ…今日も、鍛錬場に行かねば」
戦争で、多くの兵を失った。
故に、また、新たに補充せねば。
「王国の為に、先生の為に」
北方王国の騎士として、働かねば
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(クソほどに、楽しくない)
毎日毎日、奴隷のように鍛錬場に赴き、クソほどの才能もない兵士共をしごき、鍛える。
(つまらん…本当に、くだらない)
誰も、魔女ガラにはなれない。
誰も、魔女ガラの高弟達の様にはなれない。
(才能とは、非情だな)
メイヴンは、思った。
この者たちの様に、自分を目指し、指の骨が曲がるほどに剣を振り、鼻血が出るほど魔法を放っても、限界は、決まっている。
(所詮は、人間)
きっと、メイヴン達が、ガラに夢を見せてしまったのだろう。彼女達が、優秀過ぎたが為に、ガラは欲を出してしまったに、違い無い。
「あぁ…早く、眠りたい」
「……メイヴン様、何か?」
側近の男が、不思議がり、尋ねた。
「いや」
男は、メイヴンが五年ほど前に、拾った者である。
歳は二十前半で、体躯は、純粋な人間種では類を見ないほどに大きい。それでいて、とても機敏で…恐らく、魔法も剣も、何も纏わない、純粋な殴り合いならば、メイヴンより強いだろう。
男は、日夜メイヴンに付き添い、殆ど、番犬の様な存在である。
名を、カニクラと言った。
「いやな、カニクラ…近頃のノーラスの戦士は、少し貧弱過ぎると思ってなぁ」
「…そう、ですね」
言葉を濁しつつ、カニクラは俯く
「はっ、いやいや、お前には言ってないさ」
「お前は誇るがよい、『メイヴンの番犬』」
「メイヴン様、そのあだ名は止めて下さい…」
カニクラは、恥ずかしそうにする。
事実ではあるが、犬扱いは、嫌なのだろう。
「あぁ、すまなかった」
いつもの軽口。
いつもの風景。
(…つまらん)
夢を見なければ。あの日の、仲間達との。
先生との、二人だけの夢を。見なければ。
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夢は、無限である。
現実のように、何かに縛られる事も、辛くなることも無い。永遠の、快楽が約束されているのだ。
メイヴンは、ついに、現実を生きつつ、夢を見ることに成功した。
夢の魔法の探究者として、その技術を、道の先を、夜明けを、開いたのである。
「夢の魔法…ですか」
その日の、王の話は、メイヴンの心を、大きく揺さぶった。
その日の…最早、現実か、否かなど、区別がつかぬ。
メイヴンにとっては、夢が有るべき現実であり、現実も、また、つまらぬ夢であった。
「…と言う訳だ、メイヴンよ、兵士を一種の催眠状態にすれば、死をも恐れぬ強兵となる」
「故に…」
それ以降も、王は何やら喋っていたが、耳に入らぬ。
「は…ははっ」
夢の魔法を、王国の財を費やして、研究できる。
メイヴンの手は、薬物中毒者の様に震え、瞳は、左右に揺れ動く。
涎すら、垂れた。
もう、もう…現実になど、居なくてもよくなる。
「陛下、是非とも、私めに、お任せ、お任せ下さいッ」
もう、大丈夫。
全てが上手くいく。
夢の結界を張り、王国に幸運を、幸福を、もたらすのだ。
戦争など起きぬ、平和で、豊かな…憎くて、愛しい人を殺さずに済むような…そんな世界が、今
「今、作りますからね」




