首
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「ガラ先生、『火』の魔法、教えてくれよ」
「はいはい、メイヴン…後でね」
魔女は、剣を向けられ…高弟達との思い出が、走馬灯のように頭を駆けていた。
(わかっていた…人間に、魔法を授ける事の、愚かさを)
きっと、魔族をも凌ぐスピードで、魔法を発展させ、多くの犠牲者を産むのだろう。
(あぁ…この子達も、犠牲になるのだろうか)
何度も、何度も…教鞭を折ろうとした。
コレ以上はいけない。
コレ以上教えてしまえば、本当に、取り返しがつかなくなる。
「先生、先生ッ」
「おやおや、どうしたんだい、アンナ?」
「これね、コレ…見てッ」
「魔法を使った、手品だよっ」
「……ほぅ」
だが、見てみたかった。人間の、進化を。
やがて、魔女は、民達に向けて、本すら出版した。直接の弟子達に教えた要領で、簡易の魔法陣と共に、魔法の扱い方を、記したのである。
「これは…駄目だ、止めよう、止めよう」
ふと、窓の外を見れば、幼子達が木の枝を振り回し、はしゃいでいる。
コレを…この、悪魔の書を出してしまえば、あの子達も、死んでしまうのだろうか。
だが、同時に、完成した原稿を撫でつつ、魔女は頰を赤らめていた。
「あぁ…知りたい、どうしても…」
探究心が、抑えられぬのだ。
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「生物とは、変わらぬモノだね」
「どんなに抑えても、本能には勝てない、衝動を、抑えられないんだ」
「魔術本を出した日のことは、今でも、興奮で、思い出す」
「あの日、世界に魔法が溢れた日…ようやく、報われた気がしたんだよ」
「何百年もの、私の研究を、引き継ぎ、進化させてくれる人々が、現れ始める…と」
魔女は、弟子の眼を、優しく見つめつつ
「無限にも思われた、魔法の探求に、やっと…答えが出たんだ」
きっと、分かっていたのだろう。いくら魔族とは言え、一人で魔術を完成させる事の、不可能を。
…基本的に、魔族同士、共同で研究をすることは無い。
魔族が修める魔法は、個体ごとに、それぞれ異なる。故に、結局極める魔法の方向性で、対立が起きるのだ。
「『ワープ』の魔法」
「私が、天より授かった魔法だよ」
魔女は、続けて
「私は、他人の命よりも、愛しい、子供達の命よりも…『ワープ』の魔法を優先した」
「あぁ…後悔など、あっては…ならんのだ」
そして、少女は、尋ねた。
「言い残す事は、それだけか?」
「……」
「先生、私に、何か…言ってくださいよ」
困った顔をしつつ、師に、剣を向ける。
「ふむ、メイヴン」
「君も…己を、曲げるなよ」
終えると、少女は、騎士は…恐ろしい顔になり、ストンッ…と、剣を振り下ろす。
やがて、首が、土に堕ちた。
その日、魔女の血潮は、溢れたのである。
あぁ、夢から覚めねば。
ようやく悪夢は終わり、現実に戻る。
(夢の、ままでいたい)
毎日毎日、夢から覚めても、また悪夢の中に居るようである。
覚めねば。逃げ場など、何処にも無いのだから。




