問答(もんどう)
いまのは、聞き違いだろうか?
『 おまえ ここが気に入ったのか? 』
またしても、声がした。
へんにこもったような年いった男の声だ。
「 こ、・・・ここが、いや、そんなことより、勝手に入っちまって勝手にかまども椀もつかっちまった。勘弁してください。おれア、キヘイジってもんで、大工と彫りものやってるんですが、仕事先から家に帰る途中でね。ゆくときと違う道で山を通ろうとおもったら、なんだか迷っちまったみたいで。そしたら、こんないいつくりの家がちょうどあったもんだから、つい・・・、勝手にはいっちまって」
『 おまえ ここが気に入ったのか? 』
「いや、だからね、たしかにこんなとこがあったら、仕事もやりやすいだろうとはおもいましたがね、あんたさんも、彫り師か何かで?いや、土間にたくさんキクズがあるってのに、道具もつくったもんもなにもねえ。あれですかね。ちょいと気がむいたときにだけ、ここにきて、あとはほかに仕事場があるんですかい?」
『 おまえ ここが・・・ 気に入ったわけではないのか・・・ 』
「なンてえか、・・・そりゃあ、なにか根をつめた仕事をするにはね、こういうところがいい。山ン中でだれも来ねえだろうし、気がすむまでやり続けられるだろうが・・・でもねえ・・・おれア、そういうことはもうしねえって決めてるんで。 ただねえ、・・・ここが空いたままってのが、なんだか『もったいねえ』っておもっただけで」
キヘイジは板の間につかわれ、手入れもされてみがかれた床板をなでた。
『 なんだ・・・ こんなところにまよいこんできよったんで、ここが気にいるかとおもうたのに、気にいらんかったか 』
「気にいらねえわけじゃねエですよ。あんたさんの立派な仕事場だ」
このキヘイジのことばに、あいては家がゆれるような、こもったばかでかいわらいごえをあげた。
『 おまえおもしろいおとこだの ―― ここはおれの仕事場じゃねえ。ここはな、おれを彫った男の仕事場で、そいつは木屑に負けて、さいごはこのおれが喰ってやったわ 』
「 喰って?いや、だってあんたいま、『おれを彫った』っていわなかったか?ってことはよ・・・、おまえさん・・・まさか、彫り物か!しゃべれるのか!動くんだな?明かりはどこだ?みせてみろ!誰の作だ?まさかのまさかだ。はなしにはきいていたが、ほんとうなんだな?えっと、あかりをつけるからそのまま待っててくれ。動くところがみてえ。あ、しゃべってていいぞ。提灯は、提灯が、あった!火打ちはどこだ?」




