もったいねえなあ
四、
その家はおもったとおりしっかりとした造りで、しっかりとしたたてつけの戸をしめると、隙間風もとおらず、納屋からもってきた薪はよく乾いていて、かまどにくべて湯をわかせば、すぐに暖かくなってきた。
土間には作業場だろうゴザがしかれ、丸太があちこちにころがり、木を彫ったときにでる、みなれたおおきさの木くずがそのままちっている。
だが、どこをさがしても、木を彫る道具がない。
ここにはときおり訪れるだけなのか。仕事場というわけではなく、息抜きの場なのか。
「・・・もったいねえ・・・」
キヘイジはつい声をもらしてしまう。
彫り物をするのに、こんな静かでいい家をもっているなんて、うらやましい。職人がこんな隠れ家みたいな仕事場を持てるとなると、それなりに名がとおり、弟子もかかえた彫師なのか。だが、それにしては、彫りかけのものや、彫りあげたものもない。試しにつかう木材もないし、あるのは木屑ばかりだ。
ともかく、包丁ではなく、木につかう刃物がひとつもないなら、やはりこの家は仕事をするところではなく、息抜きでくるか、または、ふだんちがう仕事をしているのに、木を彫ることを道楽にしていて、ここへきているかだ。
「・・・もったいねえなあ・・・」
また、声にだしてしまう。
あちこちさわって、仰ぎ見て、縁の下までのぞき、また、「もったいねえなあ」と息がでる。
ここの持ち主にあったら、こうやってつかっていないときに貸してくれないかと頼んでみようか・・・。
そんなことを考えながら、手入れのされた板の間に横になり、囲炉裏のおき火をみてよこになった。かまどの始末はした。鍋といっしょにおかれてあった椀に、おかみさんの親戚の家をでるときにもらった握り飯をいれ、煮立った湯をいれてふやかし、それを食べたので、すこしねむくなってきた。
はやく帰って、うちの飯がくいてえなあ・・・
そんなことを考えて目をとじたら、つぎに目をさましたとき、 ―― 真っ暗闇だった。
そうか。そういえばこの家を見つけたとき、お社みたいだとおもったのは、中をのぞける窓も隙間もなくて、すこし息苦しそうだとおもったからだと思い出す。
入ってからみつけた、長押の上、軒との隙間につくられたあの横長でせまい連子窓じゃあ、外からの風も光もはいらないだろう。だが、板壁ような板は、すべて戸になっていてあけることもできるだろうから、普段は戸をはずして開け放しでいるのか。だとしたら、家主はもっと暖かくなってからここにくるのか。
それなら、冬場から春先まで、ここはずっと空いたままか?
「・・・もったいねえ・・・もったいねえなあ・・・」
なんどめかわからないその言葉がでたときだった。
『 おまえ ここが気に入ったか? 』
「 っつ!? 」
とつぜんの声にキヘイジは跳び起きて、暗闇に目をこらした。
だが、あまりにも闇が濃すぎて、なにも見えない。気配もない。




