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裏の《百物語》 ― 木彫りの猫のはなし ー  作者: ぽすしち


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19/19

はなすあいてはえらぶもの

ここで終わりです





 九、




 日をおかずに来るとおもわれたヒコイチがあらわれなかったのは、流感におそわれて動けなかったからだということは、一条のぼっちゃまからきいた。


「なんだかひどかったんですよ。ぼくも心配になって、知り合いのお医者にみてもらったんですけど、ヒコさんて、薬をちゃんと飲もうとしないんですよ。朝だけとか、夜だけ、とか一日一回だけですまそうとする。だからね、ちょっとオウメさんに、 あ、うちに通いで来てくれてる方なんですけど、 オウメさんに相談してみたら、さっそくヒコさんの家に行ってくれたみたいで、そのうえ、とっておきの『この世にまたとない秘薬』を持ってるなんて言って、どうやらそれを飲ませてくれたみたいで、いまはもう、熱はさがりまして、鼻水がでて声はでない、っていうかんじでした。ぼくが《お屋敷》に行くって言ったら、なにか言いたそうにしてましたけど、けっきょく声がでないんで、ダイキチさんと先生によろしく伝えてください、みたいなことだけ、しぼりだしたかすれ声でいってました」



 どこか楽しそうにダイキチに伝えたぼっちゃまと、つぎの《百物語会》のことを話し合い、オウメさんの『この世にまたとない秘薬』とはどんなものかを予想しあう。



「ぼくには話してくれないけど、オウメさんもダイキチさんとおなじほどのお歳ですし、いろいろおもしろいことを知ってるみたいなんですよ。なんだかヒコさんには話してるみたいで、ぼくもききたいっていったんですけど、『ぼっちゃまはだめだ』ってはっきりことわられました。その薬のこともくわしくききたいのに、はぐらかされて・・・。きっと、コウライニンジンとか、貴重な漢方薬なんじゃないかとぼくは思うんですけど、きいてもわらってるだけで、当たりだとは、いってくれないんです」



「それはまた、この《百物語会》で語っていただきたいようなお方ですなあ」


「そうなんですよ。なんども頼んでいいるんですが、いつもはっきりことわられます」

 こまってると言うより、たのしそうにぼっちゃまはわらった。



 いつものように《百物語会》をするための二間のうち、手前になる部屋にむかいあい、座っている。いつも洋装のこの男は、かぶってきた帽子を座布団の横におき、しつれい、といってあしをあぐらにくみかえると、両手を背のほうについて、あらためて庭をながめた。


 風はもう春のあたたかさになり、庭の梅もさきはじめている。




   みゃ



 廊下のほうからみじかい鳴き声がした。



「 ―― ん?あれ。猫を飼ってるんですか?」



 姿をあらわした茶色のキジトラの猫をみて、ぼっちゃまは身をおこした。




「 ええ。 ちょっとご縁のある方から、いただきまして」



「なんともいい顔をしてますね。 ―― 猫といえば、カンジュウロウさんがはいってるっていうクロなんですが、ぼくの前ではしゃべってくれないんですよ。やっぱりあれですかねぇ、しゃべれる猫っていうのは、しゃべる相手を選ぶのですかねえ・・・」


 つまらなさそうにいったぼっちゃまは、キジトラの猫に両手をだして、おいで、といった。




 猫はダイキチの顔をみて、坊ちゃまの顔をみてから、むこうへもどってしまった。




「 さあ、おまたせいたしました。 いただきました大福と、一条のぼっちゃまは、よろしければこちらのフキミソの味見などいかがでございます?いただきものでございますが、もうこれでしまいでございます」


 猫といれちがいに先生が盆にお茶一式をのせてはこんでくる。




 猫はそれをみて廊下にすわり、庭をみながらあくびした。







 一条のぼっちゃまから、お屋敷にキジトラの猫がいたときいて、からだが治ってきたヒコイチがまた寒気をおぼえたのはしかたがない。


 ただ、ダイキチにも先生にも、それから、キヘイジのところも、なんの『さわり』もなく過ごしている。





 おなじ《化け猫》どうしで話をしたのかときこうとしたのに、乾物屋がなかにはいった黒猫は、一度だけ鼻水をたらしたヒコイチを戸口からのぞきみただけで、そのあとは見舞いにこなかった。


 布団をかぶりなおしながら、この世には思っていたよりもいろいろな猫がまざって生きているもんだと感心しながらヒコイチは目をとじた。




 『とくにじぶんのまわりには』とまで考えがおよばないのが、


       ヒコイチのいいところかもしれない・・・













目をとめてくださったかた、おつきあいくださったかた、ありがとうございました!!

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