デュッセンドルフの若き英雄
俺は七歳になった。
初めてのお茶会を開催だ。
長男ヒューベルトは十四歳になったので、ユースティスの月の始めに寄宿舎に行くことが決定している。そこで俺のお茶会は、前世では五月と六月にあたる女神アテイリアの季節に催すことに決まったのだ。
すると十歳になる次男デューイが、ヒューベルトが学園で苦労しないように学園の同期となる人が兄姉にいる子を俺のお茶会に招待しよう、なんて俺に持ち掛けてきたのである。
「大きいお兄さんとお姉さん達に弟妹を見てもらいつつ茶会も盛り立ててもらえば、小さな僕達は何も心配せずにお菓子だけ食べて好きにできるでしょ」
「お兄様。神です」
オズワルドは俺を悪魔と散々罵ったが、中に余計な人などいない俺の兄こそ悪魔と言えるのではないだろうか。純粋な十歳でこの悪辣さ。すごいよ。
そして俺と言えば、相変わらず脱力系子供をしている。
五歳の祝福式で自分は変わるって決意したのにね。
そのムーブ、三日で戻しちゃったの。
人間さ、三つ子の魂百までなんだよ。
けれど、頑張らない俺の方が慣れているせいか、アグレッシブに動いた三日間よりも脱力系に戻ったその後の方が使用人も家族も安心みたい。
なんか複雑だけど。
そういうわけで、俺はその空気を呼んで脱力系しているのだ。
けれど積極ムーブを三日間頑張った成果で俺は昔よか喋れるしで、こうして次兄と悪巧みも出来るんだけどね。
あれから二年か。
しみじみ思い出すよ。
オズワルド達がベヘモットを爆走させていたあの五歳の日を。
あれは後で聞いたけど、王都に魔力だまりが突然できて出現した未知の魔物によって王都が蹂躙しかけたからだったそうなんだよね。
魔力だまりが発生したのは、愛と美の女神べルテーリアの神殿だ。
そして魔力だまりから生まれた未知の魔物は、皮膚を剥がされたカエルみたいな醜悪なものだったんだって。
それはとても食欲旺盛で、手当たり次第に生きている者に噛みつき喰らいつく。
それだけでなく、噛みつかれた被害者を同じ魔物にしてしまう感染性もあった。
首を刎ねても動きを止めなない、魔法で破壊しようにも再生力が高く、ストッピングにしかならないなんて、なんて恐ろしい。俺の大嫌いなゾンビ系だ。
魔獣による国内の横断を禁止していた国なのに、国王も貴族院も事が起きた即日にデュッセンドルフの魔獣騎士団に応援の要請してしまったとは、どんだけ。
またそれらの最初の被害者が、愛と美の女神べルテーリア神殿の大司祭や巫女達に、ちょうど拝礼に訪れていた第二側室と彼女の侍女達だったと言うのだから、俺は魔物の正体にピンと来ちゃったね。
不老不死の望みの為に哀れな翼竜の心臓を喰った奴らは誰だったのか、そして化け物がそんな奴らの成れの果て、だろう、と。
執念だけで血肉を再生し、竜もどきまで生み出してしまった翼竜の怨念だ。
まだ存在する血の欠片にバビューンと飛んで行ってしまったのだろうね。
それで翼竜の心臓を食べた人達が、竜もどきどころか、ワイバーンもどきのアンデッド化をしちゃったわけだ。
当たり前だがこんな事情は明らかにされず闇に葬られ、王都の魔物は急に出来た魔力だまりの影響で魔病が発生した災害と国は公表した。
言えないよね。
沢山の人が死ぬことになった原因が、第二側室と大司祭だった、なんて。
さて、こんな公には公表されていないことを子供の俺が知っているのは、頑張るのを止めた俺の存在が周囲にとって置物程度の認知しかないからであろう。
大人の感覚では、脱力系の子供はちょっとどころかかなりぼんやり系だと捉えらる。だからか、俺がゲオルグの執務室の片隅で転がっていても、父の部下は大事な報告を父にする事を躊躇わない。
そもそもゲオルグ自身が、俺を排除することなく部下に報告を促すのだ。
ならばチラッとでも「ヤバくね」と思っていたとしても、部下は上司に「ここだけの話」を報告するしかない。まあ俺口硬いし、大丈夫よ。
「ねえ、デュッセンドルフのケヴィン様にも招待状を書かない?」
デューイの問いかけに、俺ははっと物思いから覚めた。
悪魔な兄が何を言い出したのかと、俺は彼をまじまじと見つめる。
するとデューイは悪人風にニヤッと笑った。
「デュッセンドルフのケヴィン様って、若き英雄なんだよ。凄いよね、十五歳でワイバーンだけじゃなく、王都の魔病災害でも活躍されてて。いいよね、ヒューベルト兄様は。僕達なんてせっかく学園に入学しても、ケヴィン様には卒業しちゃって絶対に会えないもの。だから、呼ぼうよ。学園のことを先輩から知りたいからって、ダメもとで招待状を書こう!!」
愛と美の女神べルテーリア(3月・4月)




