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メランコリアな転生者は何もしないでグダグダ寝たい  作者: 蔵前
第五章 深淵なるバレ領にようこそ

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俺は迷子を捜しに来たんだよ

背中にケヴィンの火炎魔法の爆風を受け、俺の鈍足も少々勢いが付いた。

実際の魔法効果を目にしていないが、あの勢いだったら人死にが出ているのではなかろうか。彼に人殺しのトラウマを植え付けたくないからと特殊警棒渡したけれど、結局魔法で人を殺めてしまうならば余計なお世話だったかな。


走りながら俺は余計なことを考えた。

俺こそ特殊警棒を手放すべきではなかったかも、とかね。


ケヴィンが魔眼でとらえた子供の行き先、四軒先の家屋の影には、果たして、俺達をここに誘いこんだ子供が脅えた様にしゃがみこんでいた。


白い影と思ったのは、この子供が他の子と違って明るい茶色の髪をしていたし、生成りの長袖ワンピースを着ていたからだ。それも隣国のものじゃない、オルディアート国の子供用のものだ。彼女が拾った子供達よりも優遇されて見えるのは、彼女が獲物を誘い込むのが上手かったからなのか。あるいは、男の子と違い女の子は娼館に売れるからと大事にされてきたからか。


少女だけはあの幼児達と違い、十歳以上の年齢に見えるのだ。

もう口減らしで殺される年齢ではない。


「動かないでね」


俺は少女のすぐ後ろへとゆっくりと進み、彼女の為にしゃがみこんだ。


「良かったら名前を教えてくれるかな。お腹は空いていない?」


俺は腰にぶら下げている小さな道具鞄からクッキーの入った小袋を取り出し、それを少女の足元に放る。

少女はそれを掴み上げ、俺にその礼だという風にして振り返り。


「ぐうっ」


俺はクッキー袋だけでなく、他にも取り出していた。

彼女は俺が手に持っていた金属棒に胸を突かれ、後ろに勢いよく転んだのである。


特殊警棒じゃなく、単なる金属棒だ。自動開閉の折りたたみ傘の柄が伸びる仕組み、あれを組み込んでみた奴だけどね。

大した威力も無い玩具程度だが、鳩尾に当たるとかなり痛い。だから何って感じの失敗作だが、ボタンを押すと伸びるってところが俺のお気に入りだ。

それに意表を突けば、このようにちゃんと暴力装置になるし。


俺は転んだ彼女の手、クッキーの小袋でなくナイフを握る手の方を踏みにじる。


「ぎゃあ!」


少女は痛みの悲鳴を上げたが、泣き出すどころか俺を睨んだ。憎々し気に。歪んだ顔は俺達が保護した子供達と似ているが、子供達と違ってかなり大人びている。

俺は彼女に微笑んだ。


「ねえ。綺麗な青い目をした素敵な男の人を知らないかな。あいつは間抜けだからさ、絶対に君に騙されたんだと思うんだ」


少女は老婆がするような厭らしい笑みを顔に作った。

俺は彼女の手首を掴む足に体重をかけ、もう片方の足をあげ、彼女の胸に下ろす。

メキッと軋んだのは、彼女の右手首か彼女の肋骨か。


「ねえ、死ぬ前に思い出してよ。あいつを殺したその時が、お前の人生最高だったに違いないからさ」


「ぐっ、ふぅ、ふう」


俺は口から血を吹き出した少女に小馬鹿にする笑みをしかりと見せ、今度は彼女の肋骨を踏み抜く勢いで体重を移動していく。


「ねえ。その時に戻りたいよね」


「ぐうう」


「思い出したら助かるかもしれないよ」


「うぐぐぐぐ」

ミシミシミシ。


俺の足は彼女を踏みつぶし、靴裏は――地面に着いた。


強い臭気に俺は胃の中のものが一気にせり上がって来たが、咄嗟に鼻と口を左の手の平で塞いで抑えこんだ。今は吐いている場合ではない。

それでここはどこだと見回せば、見回すんじゃ無かったと顔が歪む。


ここは掘っ立て小屋しかなかった廃村の何処かではなく、代官屋敷と同じぐらいにちゃんと建てられた家屋の一室だ。けれど人が住むために作られた場所ではなく、収穫した実りを納めておくところだろう。


今は、賊につかまり連れて来られた哀れな人が、生きながらに嬲られ死んだ後も辱められて晒される陳列所になっていた。


遺体は全て片目を喪い切り刻まれている。


「ママァ」


バン。


扉が開いて室内に外の明かりが入って来た。

小さな少女が母に助けを求めるようにここに飛び込んで来たのだ。

入って来た陽光の加減から今の時間を考えるに、俺達がそろそろ代官屋敷に辿り着いた頃じゃないだろうか。


「大丈夫だよ」


俺は聞き覚えがある間抜けな奴の声がした方へと一歩踏み出す。

踏み出した、どころか、もう完全にそいつへと駆け出していた。だって。


「こんな場所が平気な幼女がいるかああああ!!」


俺は少女にむかって身を屈めてたヴァルターではなく、ヴァルターに振り返ろうとしている少女を蹴り飛ばしていた。だって、そいつは俺にしようとしていたように、ヴァルターの目玉を狙っていたんだよ。


「ぐあっ」

「痛い!!」

「ブリュー!!」


少女は起き上がり、再び俺達に向かって――来なかった。

前世で見た人殺し人形みたいな恐ろしい表情を俺達に見せてから、そのまま外へと走り去って行ったのだ。俺が壁になってる扉ではなく、前世にあった犬用のドアみたいなのがあったらしく、そこから。


俺は蹴った時に爪先を突き指したみたいで、とても痛くてたまんない。ナイフ持ったままのあいつが向かってきたら、もう一撃、なんて無理無理無理だから逃げてくれて良かったけど。


「何あれ。やべえ、怖え」


「御礼を言うべきかな」


ヴァルターは尻餅ついている、という、ちょっと間抜けな格好になっていた。

俺は彼に手を差し出す。彼は俺の手をぎゅっと掴んで、俺を自分の方へと勢いよく引っ張った!!


「わわっ」

「ありがとう。助けてくれて嬉しいよ」


「それ言いたいがために、俺をわざわざ自分の胸に転がすたあ、どういう了見だ」


「ハハハ。ちゃんと立たせてやるから。でもさ、君を抱きしめたかったんだよ。目の前に君が現れた時、天使だって思ったからね」


「ハハハ。天使じゃねえよ。ってゆうか、こんな場所でいつまでも尻ついてんじゃねえよ。周り見ろ、周り!!」


「え、う」


俺は硬直したヴァルターの腕から逃れて立ち直す。で、ヴァルターは四つん這いになるや、吐いた。

俺ももう限界だ。吐きそう。

外に今すぐ出たいが、このまま外に出て代官屋敷に向かうには、このヴァルターさんと一緒で大丈夫なのだろうか。俺は自分の護身道具で大事な特殊警棒をケヴィンに渡しちゃってる。


「う、動けるか? まずここから出よう」


「うう、ちょっと待って。出て襲われたら、俺は君を守れない」


「ここにいたままじゃ、もっとやべえだろうが。とっとと出てこい!!」


俺とヴェルタ―はびくっと震え、二人仲良く扉に振り返る。

逆光によるシルエットは、オズワルドとギードのものだ。


「オズワルドは無事か!」


俺は物凄くホッとして、オズワルドに抱き着こうと飛び上り。

抱きしめた感触が違うと溜息付いた。

抱きしめてしまった相手がまだまだオズワルドよりは細く小柄なせいで、俺の視界にはボヤ状態の廃屋が存在する廃村がよく見える。


「ごめんね。団長じゃなくて」


「いや。なんか過去に戻ったけど、結局ここかあって感じで、こっちこそごめん」


俺は抱き着いてしまったケヴィンに申し訳ないと思いながらも、なんかこんな行動をしてしまった恥ずかしさとかで抱擁を解けなかった。

あと、ケヴィンを手放したら、俺時間で数分前と同じ状況になりそうな気がするし。だって二人は本当に似た者兄弟なんだよ。


「どうして、女の子が死んでいるの?」


俺は死体を見下ろし、本当になんでまた同じ状況なんだろうと訝った。時間を遡ってヴァルターを助けたことで、こいつは俺を知っている。だったら、俺とケヴィンを誘い込むことはしないはずなんだけどな。


「ブリュー? 君のズボンの裾が赤いんだけど?」


「あ、ああ。俺が踏み殺したから、かな」


「ふみ、踏み殺した?」


「あいつは山賊の手下だったから、ちょっと拷問をね」


「ぶ、ブリューごめん。放して」


放した。

すると……やっぱケヴィンも四つん這いになって吐いた。

ああ、もう帰って寝たい。

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