ファンタジー小説のお約束は注意すべし
俺はモサモサ巨大魔獣によって命を奪われる危機から脱せられた。
だが、そんな俺を魔獣の腹の下から助けた若者が、俺の姿をしっかり見た途端に変な大声を上げたのだ。
貴族様の子供だ!!と。
うん。確かに貴族の子って一目でわかる、今日の俺はいつもよりも良いお洋服だ。
でもお貴族様だって分かったところで、そんな悲鳴めいた声を上げる必要ある?
「どうした?」
「団長!!見て。このちっこいのの服を見てくださいよ。服。貴族の子ですよ。それも上級貴族ですよ。どうしよう。人身売買組織がうちの領を根城にしてたとかになったら大問題になっちゃう」
あ、そうだ。
他領の貴族家の子供が自領の犯罪組織に誘拐されていたなんてなったら、とてつもない大騒ぎになって領地間で諍いが起きる可能性が高い。
それを治めるために王家がここの領主に責任を負わせようとしたら?
うわ、とりあえず中世な世界じゃないから、ここの領主が首ちょんぱにならないよね。そんな事になったら俺のせいだって、俺が責められてしまう!!
俺はまだ五歳なのに!!
やべ、やべ、やべ。
俺の存在のせいで罪のない領主一家が責任取ることになったら大変だ。俺が。
説明面倒俺鬱だから、なんて言ってられない!!
「あのぉ」
「あ、うっそ。ほんとうだ。貴族の子供だねえ。で、君は名前を言えるかな」
団長さん、軽っ。
俺は言葉を発しかけた口を閉じ、改めて俺を救い出した男達を見上げる。
団長と呼ばれている男は、バリトンの張りのあるいい声から想像していたよりも若かった。でも、ゲオルグと同じぐらい背が高く大柄な人だった。けど、父よりもしなやかそうな体つきだ。父が守りの重騎士ならば彼は突撃型の軽騎士といったところか。
全体的に見て、父よりも若い彼は、父よりもイケメン野郎と言えるだろう。
彼の真っ赤な髪は夕日の光を浴びてキラキラと輝いていて、顔立ちは整っているが野性味のある雰囲気と表情で、少し悪そう。
なんだか真っ赤な狼か豹みたい。
俺は彼の外見をしっかり認識すると、心の中で大きく舌打ちした。
彼が父よりもイケメンで恰好良い人だからではない。
俺が舌打したくなったのは、彼の瞳の色だ。
俺に向ける彼の瞳は青いが、包帯男の目とは違う青なのだ。
彼の目が空の青ならば、包帯男の目の青はもっと青いサファイヤブルーだった。
そんな目の色をした人間っているのって程に青かったのだ。
……あの包帯男。
自分に会えと俺を送るならば、俺が奴だと確信できる状況と場所に送ってよ。
「ハハハ。団長に脅えて言葉を失っちゃったのかな。大丈夫だよ。この人は外見凶悪でもベヘモットと同じく心優しい人だから」
軽い感じで口を挟んで来たのは、俺に乱暴を働いた男だった。
彼はまだ少年みたいなひょろっとした身長と体格で、金に近い薄茶色の髪をしてた。彼について顔の言及ができないのは、ぼさぼさ髪の前髪が彼の目元を隠しているからだ。それでも彼がきっとまだ十代だろうということは確信した。
そうに違いない、と無理やり決めつけた。
だって、団長さんも彼も軽いのだ。
団長と呼ぶならライトノベルあるあるで、騎士団、とかの所属と考えられる。
が、曲芸団の団長とかもあり得るのだ。
そうじゃないよね? 普通に軍隊系の団長だよね。
身寄りのない俺をサーカス団で引き取るとか言わないよね。言われたら死ねるよ。
この二人が軽いのは、ここがライトノベル系ファンタジー世界だからだよね。
俺を踏みつぶしかけたベヘモットとやらも、十代君が言う取りに、きっとライトノベル的優しいモフモフに違いないよね。
あの毛皮の色だったら、きっとカピバラ系!!
俺は俺を踏みつぶしかけたベヘモットさんへと視線を動かした。
一瞬で見えたものを脳内から削除したくなった。
だってジェニーさん改めベヘモットさんは……恐竜時代の哺乳類として紹介されていた、スミロドン(サーベルタイガー)によく似た凶悪な外見をしている巨大魔獣だったのだ。
俺、こいつに股間の臭いを嗅がれたの?
気を失いそう。




